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私と添加物

作者: 飛田進

友人をモデルに書きました

こういう狂った友人がいるのです


今時食品添加物というのを知らない人間はいないだろうが、さて私はあれが大嫌いである。憎んですらいる。

なぜ不必要な毒物をわざわざ取り込まねばならないのか。毒物は健康を害し、果ては生命を奪う。とりわけ理解できないのは着色料というやつで、味が同じならなぜ発色が重要なのだろう。しかもそれはしばしば毒々しい。駄菓子屋を見てみたまえ、およそ自然界にはあり得ないような極彩色の食物が溢れんばかりに陳列されているではないか。

無知な子供の目を楽しませてよく売れるようにしてあるのだ、私には近代資本主義社会の最大の弊害はこれであるように思える。

幼子のわずかな小遣いまでも搾取せんとするこの態度。醜悪と言わずしてなんであろう。マルクスの予言した通り、資本主義の限界は近づいているのかもしれない。

そんなわけで、買物をするときは必ず裏面を見て、良品を厳選しているのだが、なかなかこれが骨の折れる作業である。

当然ながら書いてあるのは名前だけで、体や脳にどういう影響があるかなんてことは書いていない。といって、分厚い専門書を持ち歩くわけにもいかない。よって暗記する必要があるのだが、私は高校生活の大半をこれに費やした。


自分自身のことはこれでいいとして、全く不愉快なのはクラスメイト、ことに友人が、無知に由来する素直さで、これら悪塊を口にする光景を見ることである。

そういう時のストレスといったら、まるで10年来の戦友が敵と密通するところを目撃したかのようで、彼の飲みさしを無理矢理取り上げて、容器ごとびりびりに引き裂き、鼠の死体が浮き、ガスを放っているような下水に流し込んでから、その様を衆目の眼前に晒して尚飽き足らない眩暈のするような憎悪である。

ところが友人の目を覚ましてやりたい一心で忠告しても大抵軽くあしらわれるか、悪ければからかいの種にされてしまう。まるで無駄である。ああ、無知は罪である。貴様ら病床で気付くだろうよ。


恐ろしいのは、18年余生きてきてただの一人も同志に出逢ったためしがないことである。世界でこの事実(食品添加物は人を殺しうるという単純かつ客観的事実)を認識しているのはごく少数か、まさか自分だけかもしれない。

私は世界を救う使命を帯びているのかもしれない。神の子なのかもしれない。


諦めてる場合ではない。己の不遇を嘆く時間はない。キリストが殺されたように、近いうちに最後の晩餐となろう。僅かでもいいから伝道者を養成しなければ、破滅(カタストロフ)は不可避である。


私は新興宗教を設立することにした。コーランを模したのである。

啓典に「食品添加物を摂取しないこと」と書く。

ムスリムがなんらの合理性なしに豚肉を食べないように、長く時間をかければ啓典というのは深層意識にまで食い込む。1000年計画であれば信者だけでも救うことができるはずだ。おまけにこちらには合理性がある。人々付き従うのは必定といえよう。

考えてみれば、このように科学とによって裏付けされた、本当に人を救いうる宗教というのは私の教団が歴史上初めてではないだろうか。

前途は多難だ。無知な愚民、破滅を企む黒幕、あらゆる敵を殲滅しなければならないだろうが、それでもこの世に正義が、信実というものが存在するなら、必ず勝利の女神は我らに微笑むであろう。

さあ諸君、真理は我らにあり!教団の隊列に参加せよ!聖戦は開始された!


おわり


















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