泣き虫のりゅう
そのりゅうは、とても体が大きかったので世界で一番高い山の、一番深い谷に住んでいました。
大きな体で他の生き物たちをびっくりさせるといけないと思って、しずかにくらしていました。
それくらい思いやりのある、かしこいりゅうでした。
ある日、彼のところに馬に乗った騎士がやってきました。
「勝負しろ!」
金ぴかのよろいを身につけた騎士は、なんでもつきとおすやりを持ってりゅうを追い立てます。
ところが、りゅうは彼があんまり小さくて何をしているのかわかりませんでした。
彼が大きな頭をよせて見ると、騎士はおどろいて馬からころげ落ちました。
馬から落っこちて痛かったのと、りゅうに見つめられてこわかったので、地面にうずくまってぶるぶるふるえています。
「どうか命ばかりは!」
心配になったりゅうは彼の話を聞きました。
彼は、りゅうがこの谷に住んでいる事を知ってたいじに来たと言いました。
だけど、このまま帰れません。手ぶらで帰れば弱虫と言われてしまうからです。
りゅうは彼の話を聞き終わると、自分のうろこを一枚はがして落として言いました。
『じゃあ、これでぼくをたいじしたことにすればいい』
騎士はおどろきました。
彼はうろこをかついで逃げるように帰っていきました。
またべつの日、こんどは魔法使いがたずねてきました。
「わるい竜め」
魔法使いは世界一りっぱな杖をふりかざすとりゅうにむけてまほうをつかいました。
小さなほのおや氷のつぶがりゅうにあたりましたが、まったくはがたちません。
このにんげんもとても小さくて、りゅうは彼が何をやっているのかわかりませんでした。
そこで彼が頭を近づけると、杖はりゅうに当たってぼっきりと折れてしまいました。
世界一のつえを折られてびっくりした魔法使いはこしがぬけて立てません。
「どうか命だけは!」
話を聞くと、魔法使いは自分のうでだめしをしたかったと言います。
だいじな杖を折ってしまったまほうつかいは悲しそうです。
かわいそうに思ったりゅうは自分のきばをぬいてわたしました。
『これであたらしいつえをつくればいい』
魔法使いはきばを杖にしてよろよろと帰って行きました。
また別の日、たくさんの兵士と、良くしゃべる男がやってきました。
「こんにちは! ここにいる人たちは君と仲良くなりたいと考えている。そこでお願いがある。ともだちのあかしとして、君の体の一部をくれないか」
りゅうはよろこんで体をさしだしました。
『どうかいたくしないでね』
彼がじめんに横たわると、人間たちは長い長いロープを彼にかけてしばり付けて、彼のうろこを、きばを、つめをはがし始めました。
『いたいいたい』
彼にうそのお願いをしたのはさぎ師でした。
にんげんたちはりゅうの体の一部がほしいだけだったのです。
りゅうはすっかりみすぼらしく、傷だらけになっていました。
『おられたきばがいたい、ぬかれたつめがいたい、うろこをはがされたからだがいたい。にんげんたちはどうしてこんなことするのだろう』
知らず知らずのうちに目からなみだがこぼれます。
りゅうは悲しくなって何日も、何年も、なみだがかれてもずっと泣き続けました。
「どうしたの?」
いつのまにか、りゅうの足元に小さな女の子が立っていました。
「なぜ体中きずだらけなの?」
女の子はむじゃきにしつもんをくりかえします。
『なぜって?! ぼくのだいじなものがぜんぶうばわれた。おまえたちにんげんが、ぼくのうろこもきばもつめもぜんぶもっていったんだ! ゆるせない!』
りゅうが女の子をつぶしてしまおうと、体をもち上げたその時。
彼は急に悲しくなって、かれたはずのなみだがまたこぼれました。
――もし、このおんなのこをひどいことをすれば、ぼくからたいせつなものをうばっていったにんげんたちとおなじことをしてしまう。
大きくて優しいけれど、とてもかしこいりゅうでした。
そのことに気がつくとまた、泣きはじめました。
女の子はこわがりもせずに、ただじっとりゅうを見つめるだけ。
りゅうは、女の子に泣いたかおを見られるのがはずかしかったので、そっぽをむいて言いました。
『きみはなにもしていないのに、ぼくにつぶされそうになった。なのに、もんくもいわないんだね』
「おかしなことをいうのね。あなたはまだ私になにもしていないもの。してもいないことをおこる必要はないでしょう?」
女の子は声をあげて笑います。
あんまり楽しそうに笑うので、りゅうは泣くのをやめて女の子をじっくり見ました。
彼女の笑顔はとてもすてきでしたが、ずいぶんとみすぼらしい姿をしていました。
穴だらけのぼろぼろの服に、手足はあざだらけ。
かみも、とかされたことがないくらいにぼさぼさでした。
「あんまり見ないで。はずかしいよ」
女の子はおとなたちにしゅくふくされていませんでした。
そのすがたがあんまりみっともなかったので、りゅうはきのどくに思ってたずねました。
『……きみは、なにかほしいとおもわないのかい』
「ほしい!」
りゅうはその目にふたたびなみだをためます。
――やっぱりおなじだ。にんげんはみんなおなじで、よくばりなんだ。
ところが、女の子はりゅうの鼻をやさしくなでるだけ。りゅうはあんまりじょうずになでられたので気持ちよさそうにのどをならしました。
りゅうはいままでこんなにやさしくされたことは無かったので、うれしくなって、この女の子になら、何かあげてもいいと思いました。
けれど、りゅうの体には、にんげんたちがほしがるようなものは何ものこっていませんでした。
『ごめんね、ぼくはきみになにかあげたいけれど、もうなにものこっていないんだ……そのかわり、なんでもいってごらんよ。ぼくにできることならかなえてあげる』
女の子はしばらく考えると、はずかしそうにうつむいたまま一言だけ。
「……ともだちになってくれる?」
『なんだって?』
りゅうはもう一度ききました。
ふたたびりゅうの目からなみだがこぼれます。
女の子は大きなこえでさけびました。
「わたしのともだちになって!」
りゅうは思いもしなかった女の子の言葉に、もっとたくさんのなみだを流しました。
しばらくしてから泣き止んで、それから力強く言いました。
『いいよ! ぼくのいのちがつづくかぎりきみのともだちでいよう!』
そうして、ふたりは静かにくらせるばしょをさがして遠くにとんでいきました。
りゅうがいなくなったあとにはとても大きな湖がのこっていました。
……ほかの湖よりもほんのちょっぴり塩からい水は、なき虫だった彼のなみだでできていたのかも知れません。




