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白雪姫は魔法の鏡と出会う

王宮の宝物庫。

そこには多くの宝が厳重に守られ、保管されている。

そんな宝物庫に一人の少女が立ち入り、一つの姿見の前で立ち止まった。


「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」


そう少女が問う。普通ならその問いに答えるものはいない。しかし、その鏡は普通ではなかった。


「それはあなた様です。白雪姫」


そう美しい声で答えが返ってきた。その答えに白雪姫は吐き捨てるように言った。


「この魔法の鏡はガラクタね」



●○●○●



小国ビトコ王国の王には二人の子供がいる。一人目はこの国を将来継ぐことになる王子様で父親に似てとても美しく、黒髪に翠の瞳を持つ。また、賢く優しいその王子様を国民は誰もが慕っていた。

二人目の子供は兄よりも二つ年下の十六のお姫様。黒檀の髪に黒曜石の瞳、雪のように白い肌から白雪姫と名付けられた姫。その姿はその名前の通りにとても美しい……に違いないと国民は思っている。

美しい、と言い切れないのは白雪姫が今は亡き王妃様と同じでその顔をいつもベールで隠しているからである。

王妃様が顔を隠しているのはその姿があまりにも美しく、人を狂わせてしまうほどであるからとされていた。だから、その娘である白雪姫もそれと同様であるのだろうと。

その予想は半分当たっていた。白雪姫は母親にそっくりであった。

その髪も瞳も肌も顔立ちも体つきも……母親の生き写しのようにそっくりだ。

しかし、その顔立ちは美しいのではなく……醜いのであった。

二重ではあるが大きすぎる目。大きな鼻に、大きな唇。その醜さは、最大限誉めて美形の蛙、普通に評して蛙の中でも醜い蛙である。

顔さえ隠せば他は満点。髪も瞳も肌も美しく、胸は大きくけれどそれ以外は華奢な体つき。ただ、顔立ちのみ醜い。

母親は白雪姫を最初に見た時、己の遺伝子を憎んだと言う。間違っても名前負けするのが明らかな白雪などという名前はつけようとは思っていなかった。

しかし、美的感覚の狂った、自身はとても美しい夫が、美しいっ!白雪と名付けようっ!と暴挙に出て、母の言葉を聞かずに白雪と名付けた。

美的感覚の狂った父と父に似た兄に可愛い可愛いお前は世界一可愛いに違いないーーたちが悪いことに彼らは本気で思っているーー言われながら過ごした幼少期。しかし、母親にそっくりだった白雪姫はそんな言葉に騙されることなく成長し、自分の顔立ちが醜いことを客観的に理解し、白雪と名前をつけたせいで国民の美しいに違いないという期待を裏切らないために顔をベールで覆った。

それなのに、白雪姫の気持ちも知らず、そんなベールで顔を隠すなんて!と嘆く父と兄。

いい加減うざったくなってきた白雪姫は、宝物庫に眠る真実を見通す魔法の鏡とやらに醜さを証明してもらおうと思っていたのだが……。


「とんだガラクタね。こんな簡単なこともわからないなんて。処分したほうがいいかしら?」


その姿見に施されている装飾は美しいが、真実も見通せない、そのくせ喋る鏡なんて、鏡以上に使えない。


「しょ、処分っ!?今、処分と言いましたか?!」


「ええ。欠陥品はうちの宝物庫には必要ないの」


そうきっぱりと白雪姫は言う。その声はいつまでも聞いていたいと思ってしまうほどに美しい。ベールを着けている姿は正しく世界一の美女。しかし、真実は蛙。


「欠陥品ではありません!ええ、わたくしは優れた魔法の鏡です!他の鏡とは一線を画す、優秀な鏡ですとも!」


「他の鏡とは一線を画すのは認めるけれど、姿を映す役割だけを果たす普通の鏡よりも、真実とは異なった言葉を発する鏡なら、前者の方が優秀ではなくて?」


「いえいえいえいえ!そんなことはございません!わたくしは真実、真実を見通せるのです!」


「あら?でも、先程の問いの答えを間違えているわ」


「そ、それは……そのぉ……なんと言いますかぁ……」


「はっきりしない鏡ね。さらにガラクタ度が上がったわ」


はあ、とまるで駄目な子に落胆する親のようなため息に、これは不味いと鏡は慌てる。


「真実を申しますと、ええ、確かにあなた様が、この世界で一番美しくはありません。むしろ下からの順番の方がだいぶ早くらいです」


「ええ、まあ、そうでしょうね」


とんでもない不細工であると言われているが白雪姫は落ち込んだり激昂したりはしない。

それは大正解であるからだ。むしろ、お前は世界一可愛い姫だよと自分よりもずっと美しい父や兄の言葉の方が腹立たしいと感じる。


「世界で一番美しいのは……北の大国のアルバニア王女です」


アルバニア王女。確かに彼女の噂は遠く離れたこの国にも流れてくる。

なんでも数百年に一人の美女なのだと。その姿を見たことはないが、なるほど彼女なら世界一美しいと言われても納得できる。


「わかるんじゃないの。なんで、あんな嘘ついたの?」


そう問えば言いにくそうに、しかし、言わねばまたガラクタと言われてしまうと思ったのだろう、しっかりと鏡は言った。


「媚を売っとけばここから出してもらえるのでは、と思ってしまって」


「はあ?」


意味がわからず思わず首をかしげれば、だって!と言い募った。


「ここはとんでもなく退屈なんです!寂しいんです!暗いし、人は来ないし!他の宝達はわたくしが魔法の道具だから恐れ多くて話せないとか言って、わたくしを仲間外れにするし!!わかりますか?!あなたに!皆が楽しそうに話しているからどうしたのか問えば、気まずそうに『魔法の鏡様にお聞かせするほどのことではありません』って言われたり、話しかければ愛想笑いばかりされる!そんな生活を数百年も送り続けたわたくしの気持ちが!あなたに!わかるというのですか!!」


その魔法の鏡の勢いたるや凄まじく、鏡が震えている。このままではバリンッと割れて本当にゴミ箱行きになりそうだ。


「そ、そう。あなたも大変なのね……」


魔法の鏡の勢いに大きく引きながら、白雪姫は言った。

とりあえず、何も口にしないと思ってた宝達にも、宝同士の会話があったらしいこと、そうして、魔法の鏡は普通の宝達とは一線を画すが故に孤独であったのだろうということは理解した。

そんな生活から脱却するために、大嘘をついた気持ちもわかる。

が、その嘘は少し大き過ぎた。

あら?本当に?と調子に乗れないほどには白雪姫は不細工だった。


「可哀想なあなたに免じて処分はしないでおいてあげる。実際あなたは優秀な魔法の鏡だものね?」


魔法の鏡に付き合うのが面倒臭くなり、白雪姫はそそくさと逃げるようにそう告げて背を向ける。


「えっ!?行ってしまうんですか?!ここに!わたくしを一枚置いて……!?」


信じられない!人でなしっ!と叫ばれれば引き返すしかなく、白雪姫は再び魔法の鏡と向き合う。


「じゃあ、どうすればいいのよ?だってあなた魔法の鏡なんだもの。悪用されたらいけないから、ここから出して他の人にあげたりもできないし、壊して処分も嫌なんでしょう?」


ここに残るか、死(破壊)か。魔法の鏡に残された道は二つのみだ。

すると、魔法の鏡は言った。


「あなた様がわたくしを使ってくださればよろしいではありませんか」


「はあ?嫌よ」


白雪姫には既に自室に立派な姿見がある。勿論、嘘もつかないし、喋りもしない。さらに言えば見た目も魔法の鏡よりも気に入っている。

魔法の鏡はお呼びではないのだ。

しかし、そう説明すれば、信じられない……!と魔法の鏡は怒り出した。


「普通の鏡を取るというのですか?!このわたくしではなく、魔法も何もかかってない普通の鏡を!?」


普通の鏡と言っても、一国の姫の鏡だ。美しく装飾され、宝石も埋め込まれている。


「だって、その鏡はわたくしのように喋れはしないのでしょう?」


「まあ、そうね。でも、別に鏡に喋る機能など必要ないわ」


むしろそんな機能はいらない。


「そいつはわたくしのように真実を見通すこともできないのでしょう?」


「真実を写せれば充分ではない?」


それ以上の機能は求めていない。


「そんなことわたくしでもできますよ!」


確かに普通の鏡の仕事をこなしつつ魔法も使えるが、そのプラスの要素がむしろマイナスになっている気がする。部屋でこんなふうに喚かれては堪らない。

白雪姫はうんと頷いて言った。


「やっぱりあなたはいらないわ」


「酷いっ!酷いです!!」


今度こそ白雪姫は背を向けて歩き出す。その背後から飛んでくる非難の声。……うるさい。


「わかりました!あなたがその気ならわたくしにも考えがありますから!!わたくしは真実を見通す魔法の鏡!なんでもわかるんですからね!!白雪姫はあ!!こう見えてえ!少女小説を読み漁りい!いつか自分にも王子様が来ると夢見て……」


「それ以上言ったら叩き割るわよ」


慌てて白雪姫は戻り、そう魔法の鏡に言った。足を上げ、今すぐ蹴飛ばすぞという本気度を見せる。

その本気を受け取った魔法の鏡は声を震わせながらも、ここで引いてはいけないと、負けじと言った。


「で、では、わたくしをあなた様の鏡にしてください!」


「……」


とんでもなく嫌だ。しかし、よくよく考えてみれば、こんなにペラペラ喋る奴をここに置いといて良いものか?

宝物庫は定期的に警備が入る。その時に今のように色々言われたら堪らない。

というか、そもそも。


「何だって急に話し出したのよ。こんなに煩く喋る鏡が居るなんて聞いたことがないのだけれど」


ここが嫌なら最初から今のように喚いていれば良かったのに。


「それは無理ですよ。わたくしは魔法の鏡。魔法とは魔力を注いで初めて発動するもの。あなたが、わたくしに真実を求め、わたくしに魔力を注ぎ、そのおかげでわたくしはこうして喋れるのです」


「私、別に魔女ではないのだけど?」


「人は誰しも魔力を持っているものです。使いすぎれば枯渇はしますが、自然と回復する。そんな魔力を活用し、魔法を使うものが魔女となる。魔法を使うのには知識がいりますが、わたくしは優秀な魔法の鏡ですからね、求められるだけで自動に魔力を吸収してあげますし、魔法を発動して差し上げます。誰でも使える仕様なのですよ」


迷惑な仕様である。


「もう私の願いを叶えたのになんでまだ喋れるのよ。もう私はあなたに何も願ってないのだけど」


「わたくしは魔法の鏡ですが、便利な魔法の道具にはたいてい裏の面があるものですよ。つまり、わたくしは、呪いの鏡でもあるのです」


「はあ?!呪いっ!?」


聞いていない。全くもって聞いてない。

なんだ、呪いとは。死に至らしめるとか?そういうことか?

焦ってそれはどんな呪いなのか、問えば魔法の鏡は言った。


「一度使えば死ぬまでわたくしはあなたの魔力を吸い放題!」


どや顔で言われた(気がする。実際顔がどこなのか、そもそもあるのかわからない)が、なんだそんなことね、と白雪姫はほっと息を撫で下ろす。

良かった。命を取られたりはしないのね。

白雪姫が魔女であればそれは大事件なのだろうが、白雪姫は魔力が無くなろうがなんの問題もない。

良かった良かった。と安心したところで、白雪姫は、はっ!と気づいた。


「……つまり、あなた私が死ぬまで動けるってこと?」


「そう言うことですね!」


今度こそ本当に魔法の鏡のどやってる姿が見えた。


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