ヴェルタァク② 舞踏会
「うかない顔をして、どうしたんだシャーレア」
ペンネスが心配そうにたずねてきた。
「な……なんでもないわ。ただお菓子が食べなくなって」
小腹はすいているので嘘は言っていない。
「ならお茶にしようか―――おや、誰か来たようだ」
誰かと思っていると、一枚の封書を手渡して去っていく。
配達の人が手紙を届けにきただけのようだ。
「誰から?」
「あ、手が滑った」
パパは手紙を私に見せまいと投げてしまった。
「え……どうして投げてしまうの?」
手が滑ったというよりスナップを聞かせてフリスビィのごとく投げ捨てたの間違いじゃない。
「いや……つい反射的にやってしまって、意地悪をするつもりはなかったんだ」
といってパパは手紙を拾って私に手渡した。
「それはパパに来た手紙でしょう?」
私が先に見てしまっていいのだろうか、と思っていると彼は首をふる。
「いいや、これはお前宛だよ」
「そう……このマークはたしか王家?」
王家のマークは知らない気もするが、こんな豪華な封の止め方とか大体王家からで間違いはないとなんとなく雰囲気わかる。
「ああ」
「だから投げたのね!」
王には辟易しているであろう彼だから、王家から来た手紙であの行動にいたったのだと合致がいった。
「で、なんだって?」
痺れを切らしたイレーサーが手紙を読めと急かす。
読んでみると、とんでもないことが書いてあった。
「カラーズの即位と結婚の祝いでお城で舞踏会ですって!!」
「いくの?」
「まるで物語りみたいじゃない夢みたいだわ」
「本当に夢だったりして」
「そんな事を言ってやるな」
「誰といくんだい?」
「え?」
「舞踏会といえばパートナーが必要だろう」
「そうね」
同伴者は自由だが、暇な人が周りにいない。
パパは実の父ではないが、歳も離れているし同伴者には向いていないだろう。
それに城に強制でもないときに行きたくはないだろうし。
「ペンネスは……」
「私は呼ばれるだろうから、舞踏会に行きたい別の相手を連れていってやるといい」
「イレーサーは?」
「やめとく、お城はもうこりごりだから」
何があったのだろう?
仕方がないのでインキーノかドロウノあたりを誘いにいこう。
「城のパーティー?あーごめん。ペンネスの同伴相手を頼まれてるから無理かも」
インキーノは薬を作るのが得意だからきっと周りから絶世の美女に見える幻術でも使うのだろう。
「どうした?」
「あらドロウノいいところに!実は……」
一緒に舞踏会にいってもらえないかたずねた。
「いってやりたいのは山々だが、戻ってきた魔力の制御がまだイマイチでな」
彼はまだ契約破棄でバックしたばかりの魔力をうまく抑えられない。
森でなら爆発がおきてもあまり問題はないが、万が一城内で魔力の暴発がおきたら大変だ。
「こちらこそごめんね。考えていなかったわ」
誰か他にいないかしら。と考えながら歩いていると誰かにぶつかった。
「すまない……!」
「ごめんなさ……ウォル!?」
「こんなところでどうした?」
「私は舞踏会の同伴者を探していたの」
「舞踏会?」
「明日お城でやるのよ。さっき招待状が届いたの」
「舞踏会の招待状が前日にか……随分と良識がないというか、せめて一週間前だろう」
「そうよね」
ドレスの支度も一月はかかるだろうし、たしかに急すぎだわ。
「同伴者は見つかったのか?」
「ううんまだなの」
「いないなら俺が行ってやろうか?」
「ほんとう!?助かるわ、ありがとう!!」
私は目的を達成し、上機嫌で帰宅した。
「おかえり、首尾はどうだった?」
「順調よ、見つかったわ」
イレーサーは聞いてきたくせに興味をなくす。
ひとまずドレスは家にあるし問題ない。
「そういえばインキーノがペンネスの同伴者をやるんですってね」
「ああ、あいつの変身力なら令嬢達も寄り付かないだろう」
「それで、誰をつれていくんだい」
「まさかそこらの見知らぬ男じゃないだろうね?」
「よく知ってる人よ」
「もしかして兄さん?」
「フィードじゃないかな?」
「ウォルよ!!」
「……あいつかーまあ親戚ならいいか。僕らより年も近いだろうしね、ペイプラー?」
イレーサーが普通という反応をしつつ彼に問うが、パパは何も言わなかった。