1-51・波乱の幕開け、招かれざる部外者・分岐
あの戦いから一ヶ月。
パパがいて、ペンネスが居候していてイレーサーやインキーノが遊びに来たり私が城に行ったり、変わらない日々を送っている。
変わったといえば竜を放っていたティードラァがいなくなってパパはドラゴン退治をやめたことくらい。
そして、皆すっかり忘れてしまっていたけど、あの後洗脳が解けたドロウノはすっかり元気になった。
ティードラァが消えたことで契約が正式に破棄されたみたいで、魔力が元に戻ったらしい。
パパは詳しくは教えてはくれなかったけれど、ウォルとその父親のティアドさんが本当の父の親戚だと知った時は驚いてしまった。
二人は最近近所に引っ越してきたらしいけれど、挨拶に来る姿が想像出来ない。
気晴らしに町を散策することに決めた。
いつも馬車移動だったけれど、身体に悪いからたまには自分の足で歩いてみよう。
「やあ、僕とお茶でもどうかな?」
橙髪の人に急に声をかけられた。
髪の色が白くないということは多分異国から来た人ね。
「ローブの上からでもわかるよ、真っ黒なフードの下にある君の美しい輝きはね」
お世辞なんだろうけれどローブをしているのに美しいなんて、わかるものなのかしら。
「ね美しいお嬢さん?」
こう何度も強調されると本心で褒められているのかを疑ってしまう。
ローブの下は黒い髪で、輝きならそこに歩いている美女の金髪のほうが強い。
「女性は皆等しく好きだ、でも君は僕の一番のハニーだよ」
パチリとウィンクをされた。
どこかで似たような光景を見たような気もする。
「あ…物語でフラれる人がよく言っている台詞の真似ね!!」
「なんて…手強いレディなんだ」
彼はがっくり膝を落としている。
「ところで貴方は?」
「名乗るほどの名はないよ。
愛を振り撒く騎士のランデ、とだけ覚えてくれ」
「すごいわランデさんは騎士なのね!」
「敬称なんて勿体無い…ランデでいいんだよハニー」
騎士など物語の中の存在だとばかり思っていた。
「おっとすまない…用事を思い出した名残惜しいが僕はこれで、またねマイハニー」
「ええ」
ランデはすぐにその場を去った。
「あれが噂に聞く少女か…」
「ランデイル隊長!!長期に渡る敵国制圧の旅、お疲れさまです!!」
「敵上調査をしたのはシャープナーバ、それを覗けばほぼ同盟国だ制圧はしていない只の使いだ」
人使いの荒い青髪の側近に、植物に狂った頭の悪い皇子、しかも次期皇帝。
そいつらの嗜好品を集めるだけのつまらない旅だった。
仮にも騎士団長のする仕事ではない。
「久々に帰ったが…変わらないなこの国は…」
やはり数年経った今も、城には肖像画すらなく、我が主の姿はない。
彼の人は目に見えない呪いとやらに迫害されている。
息子を城から追い出した皇帝、それを知らずぬくぬくと生きる片割れの皇子。
同じ皇子なのに、何故そんなことになったのか、他国から来た自分にわかる弾もなかった。
結局どこにいても不幸はあるのか。
「ペンネス、君がいつまでここにいるのかな。と気になっているんだが」
「どうやら業者が屋敷の修繕を怠けていたようで…」
イレーサーとパパはまだ直っていなかったのか、と言いたげな目をしている。
「なんだ…周囲が騒がしいぞクリア」
カラーズは近くから聞こえるけたたましい音に驚いた。
「ああ…ペンネルテス様のお屋敷の修繕の音ですね」
さも当然、と言わんばかりにクリアは平然としている。
「何かあったのか?」
パレッティナは平和過ぎて何かあればすぐに連絡が入るはずだと訝しむカラーズ。
「まあ、なんやかんやあった用です…修繕を再開したようですね」
「と言われても工事の音を聞いた記憶がないが…」
「カラーズ殿下!陛下が…」
ふたたび茶を飲もうとしていたカラーズを呼ぶ。
カラーズは何事だろうと神妙な面持ちで父トマーズの元へ行き、衝撃の一言を告げられる。
「ええ!?カラーズが城を抜け出してみんな総動員で捜索中!?」
「そうなんだよハニー、君も見かけたら通報よろしく」
「まるで逃亡犯のような言われかただな」
「ペンネス」
「じゃあまたねハニー!!」
ランデさんはペンネスの姿をみるやいなや、挨拶もせずに颯爽と退散してしまった。
「今のは…」
「知っているの?」
まあお城にいる騎士なら顔見知りなのも当然ね。
「ああ、ただの顔見知りだ…長期に渡り他国を調査していたそうだが…帰還していたとは」
「へー有名なのね」
「有名も何も…ランデイルは騎士団長なんだ」
ペンネスの言った言葉に耳を疑った。
「騎士…団長?」
騎士なのは出会った時に知ったが、彼が騎士団を取り仕切る偉い人とはとても思えない。
「驚くのも無理はないか…」
===
「おいドロウノ、俺はもうお前をライバル扱いするのは止めてやる」
インキーノはドロウノの家のドアを破壊しながら宣言した。
「お前…オレをライバルだと思っていたのか?」
ドアを壊されたことはひとまず置いておき、ドロウノは唖然とした顔で話を聞いた。
「はあ!?なにその‘お前ごときがオレのライバル?笑わせんな’的な反応」
インキーノは怒って帰っていった。
「なんだったんだ…?」
ドロウノは気にせずドアを直した。
「いたか?」
「こっちにもいないわ…」
かれこれ小一時間、シャーレアはペンネスと共に逃亡中のカラーズを捜索していた。
「ねえ、皇子が行方不明なのに、探すのが私たちだけっておかしいと思うの」
「それは恐らく城の警備を手薄にしない為、ではないだろうか?」
「そうなの?」
シャーレアは納得できないまま、捜索を再開した。
「カラーズどこに行ったのかしら
私、探してくれそうな人を連れてくるわ」
シャーレアは応援を連れてくるため、ペンネスと別行動をとった。
「私も行ってみよう。
彼なら恐らく力を貸してくれる」
シャーレアは、ペンネスは、魔法使いならきっとなんとかできるだろうとそれぞれ別の方向へ進んだ。
=====
一方その頃、カラーズは―――――。
「ほとぼりがさめるまで姿を隠し、婚約やら結婚やらをバックレようとしたが…」
とある一家の家で身を隠していた。
「アンタ、皇子なんでしょ、いつまでいるのよ?」
身を潜めようとしていたカラーズを見かけ、自らも世話になっている家族に知らせたのは中性的な雰囲気の女のような男であった。
名をミルエス。彼はその正体にすぐに気がつくが、善意で黙っている。
「なんで皇子が家にいるんだ!?」
家主の息子フィードは、カラーズとは顔見知り程度。
そして彼は貧乏民族の家に、細々と壁の端に縮まっている。
「彼、皇子様だったのぉ!?城に輸送しないとだわね!」
フィードの母親はわざとらしいオーバーアクションで、カラーズを藁に包んで縛ろうとした。
フィードは全力で母親を止めるのだった。
「“皇子が逃げたから探してほしい”?」
“カラーズが行方を眩ませた”
シャーレアはイレーサーにそう告げ、協力を願う。
「皇子が行方不明なのにお城の人たちが楽観的というか、兵士さんたちも探しにいっていないみたいなの」
「それは…国が滅ぼされてからせいぜい60年~40年しか経ってないからだよ」
「え?」
シャーレアはそれと皇子の捜索をしないことが、どう関連するのかわからずイレーサーの次の言葉を待つ。
「外部から見ればここは元であるブークトレアはフィエールとの大戦で土地がリセットされたことで、歴史は他国に比べると浅くて新しい」
「そんな話知らなかったわ」
===
意味がわからず困ていた私を見かねてか、イレーサーが訳を説明してくれた。
「それと他所から国民を向かえ入れたから賑わっているように見えるだけで、皇帝が言うには信用に足る人間は少ないらしいよ」
騎士や兵士をあまりを見かけないのも納得できる。
「でもやっぱり納得できないわ、皇子様は次の皇様、皆にとって大事な存在でしょう?」
私はカラーズが城を抜けたのは皇帝になりたくないからだと思っている。
トマーズ皇様がカラーズに皇帝の座を譲るという噂は本当なのかもしれない。
「皇子が6人もいたら誰か一人欠けても取り替えは利くからかもね」
「皇子って五人じゃなかったの?」
だいぶ前にペンネスが、体の弱い第一皇子、そして第二皇子のカラーズ、駆け落ちした第三皇子、妾の子の第四皇子、養子の第五皇子と言っていた。
「誰から聞いたの?」
「ペンネス」
「ああ、あいつか、城にいる数少ない奴を除けば、貴族にも皇子が6人だってことは隠されていることだから」
「イレーサーはいつからここに移住していたの?」
「住み始めたのは大体シャーレアと同じ時期だよ。
下調べしたから知っているだけで、城との関わりは皇直々に指命されたペイプラーより遠いから」
「それより皇子様が6人ってどういうこと?」
「詳しくは知らないけど、体の弱い皇子は継承候補になれず他国へ、第三皇子が継承権を放棄して他国へ、第四皇子は実は皇の妾と皇の弟の子だとか、第五皇子は皇の兄の息子だとかはもう知ってるだろうけど」
イレーサーがノートを饒舌に読み上げた。
何が書かれているのか気になったけれど、見るのがおそろしくもある。
「ちょっと待って!?…後半は初耳だわ!!」
皇帝の兄の子が養子になったのはいいとして、どうして皇帝の弟が皇帝のお妾さんと恋仲になっているの。
「…本題に入るよ
第二皇子は双子の兄弟がいるみたいなんだよね」
「どうしてお城にいないの?」
「聞いただけで現場を見たわけじゃないからそこまではわからないよ」
「でもカラーズを探さない理由にはならないわ」
「それもそうだね、事実上、城にいる皇子は彼だけだし」
イレーサーはやれやれと、ため息をついて、私と一緒に部屋から出た。
どうやらカラーズを探してくれるようだ。
私はまずペンネスと合流することに。
2、3分歩いていると彼は見つかった。
ペンネスはインキーノを連れてきたみたい。
向こうもこちらに気がついたようで、私はイレーサーの手を引いて二人の元へ走った。
「協力者は彼か」
ペンネスはやはり、と言いたげな顔でイレーサーを見る。
イレーサーは不快そうに顔をそらした。
「ペンネスこそ」
インキーノとは良いお友達なんだろう。
…結局いつものメンバーが集まってしまった。
「目撃情報があったよ」
聞き込みをしてくれていたインキーノが有力な情報を聞き出したらしいので、彼に着いていくことになった。
「あら、ここは…」
フィードの家に近い。
「どうかしたの?」
「この近くにフィードの家があるの」
「誰だ?」
「さあ?」
皆フィードとは面識がないようだ。
「せっかくだから巻き込んじゃおうよ!」
インキーノはノリノリでフィードの家に行きたがっている。
私が先頭になってフィードの家まで歩いた。
「物置小屋か…!」
ペンネスはワクワクしながらそう言った。
悪気はないんだろうけど、本人がいなくてよかったと思う。
「ぶっはははは家より小さいよはははは」
インキーノは大笑いしている。
イレーサーは小屋というより、笑っている人につられて、笑いを堪えている。
「誰だ!うるさいぞ!!」
「カラーズ!?」
家からはフィードではなく、カラーズが出てきた。
カラーズがフィードの家にいたなんて、灯台もと暗し。
「…どうしてお城から抜けてきたんだったかしら?」
度忘れした私はイレーサーに、小声でたずねた。
「王になりたくないからじゃなかった?」
「え?結婚が嫌だからじゃないの」
イレーサーの言葉が正しいのだけれど、インキーノの言葉もあながち間違いではないのかも。
「おまえたち…三人で仲間外れにするつもりか」
「まさか、でも相談くらいしてくれたらよかったのに」
「サトリでもあるまいに、無言じゃ察せないから」
カラーズの沙汰、もといどうするかを考えたないと。