夏の空
「ねぇ、もし空が飛べたらどうする?」
夏のいつだっけ?君と一緒に丘の上で話してたときのこと。そのときまだ、君は私の隣に居たんだよね。私、今でもあの日のこと覚えてるんだよ。
「さぁ?分からない。でも・・・・・・・」
あのとき君は一瞬だけ悲しそうな顔をしたんだ。私はそれに気付いたけど、見間違いだと思い込んでた。でも、あの日から君はこうなること分かってたんでしょ?
「でも?」
そのとき君は空を見上げて言ったよね。
「もし、飛べたらどこか遠くに行きたい。でもさ、空はいつも僕たちのそばに在るよ。だから、僕は飛ばなくても良い。」
君は私に向かってにこって笑ったよね。私にはそばに咲いていた向日葵に負けないくらい、そのときの笑顔は輝いて見えたんだよ。
「ふぅ〜ん・・・・。私は空にいる人に会いに行きたいな。」
私は君の顔を見ながら言ったの覚えてる?馬鹿って思った?でもね、私は本気だったんだよ。
「空にいる人?」
君は良くわからないというふうに私を見たね。
「うん!あのね、小さいころにお母さんに聞いたの。空にはね、たくさん人が住んでるんだって。それでね、地上の人を見守ってくれてるって。」
「・・・・・・そうなんだ・・・・・・・。」
「うん。だから、その人たちに会いに行きたいの。」
君のそばに咲いていた向日葵が風に揺れた。
「じゃぁ、きっと僕もその人達みたいになるだろうなぁ・・・・・。」
ぼそって言ったからそんなよく聞こえなかったけど、大体君の言ってることがあのときの私には分かった。
「え?なんで「じゃぁ、そろそろ帰ろっか。」
結局そのあと君とは何にも話さなかった。ただ、君が私の手をずっとぎゅっと握りながら帰ったんだ。何であのときちゃんと聞かなかったんだろう?
今、私の前にいる人はまぎれもなく君で、君は眠っていた。とても気持ちよさそうに、すごく幸せそうな顔をして。あのときから君は病気だったって今、お母さんから聞いたよ。
何で私には言ってくれなかったの?知ってたんでしょ?あのとき、もう駄目かもしれないって分かったんでしょ?なのに、何で無理したの?
最後まで心配かけてさ・・・・・。何でもう起きないの・・・。ひどいよ。おいてかないでよ。私も一緒にいきたかった。
一人にしないで。
ごめん。最後まで迷惑かけちゃったね。本当にごめん。あの日、君には言えなかった。
悲しませたくなかった。どうか、最後まで笑っていて欲しかった。でも、もう心配しないで。僕は空から君を見守ってるから。こっちに来ちゃ駄目だよ?ちゃんと生きて、こっちに来ちゃったときにたくさん話し聞かせてよ。これが最後のお願いだからさ。
君は一人じゃない。僕がいつも見守ってるから。
「もう、起きないんだね。」
私がそう言っても君は返事をしてくれない。
「もう、笑ってくれないんだね。」
何を言っても君には届かない。
「本当に好きだったよ。・・今までありがとう。こんな私を好きになってくれてありがとう。」
私にはこれしか言えないから。
私は今、本当にそう思ったから。
届くといいな。
きっと届くよね。
きっと、空から見守ってくれてるよね?
涙が私の頬をぬらした。
どうか、いつまでも私を見守っていてください。