2.bad morning
「茉由〜おはよ〜」
登校し、下駄箱で靴を履き替えていると、肩をポンと叩かれた。
振り返ると、眠そうな紗理奈の顔があった。
「紗理奈!おはよ!…眠そうだね」
「当たり前でしょ!茉由はスッキリしてるみたいだけど!まさかあんた…今日が何の日か忘れた訳じゃないでしょうね?」
今日が何の日か?…えーっと。
「…その様子じゃ、すっかり忘れてるみたいね。ごしゅーしょーさま〜」
手をひらひらさせて教室に向かう紗理奈。
ちょ、まっ!何の日なの!?全然思い出せない!
「紗理奈ぁ!待ってよ〜!」
急いで紗理奈に追いつき、そのすらっとした腕を掴む。
紗理奈は、あからさまに眉をしかめる。
「全く、あんたは…。数学の小テストの日でしょ!」
しょう…て…すと……?
それを聞いたとたん、ゆがんでいく視界。どこからかガーンという効果音が聞こえてくる。
そうだった。
なぜ忘れていたんだろう。地獄の数学小テストの事を…っ!
数学小テスト。赤点を取ると大幅に成績がダウンしてしまうという、生徒いじめなイベントなのだ。
「私の人生おわった…」
「嘆くヒマがあったら早く教室で勉強しなー」
はい。そうですよね。さすが紗理奈さま。
「あの〜。紗理奈さま。よかったら私に…」
「教えない」
…はい。そうですよね。すみませんでした。
どうやら、自力で一時限目の数学までにテスト勉強しなければいけないようだ。
…無理だな!ここは潔く諦めよう!それが私の正しい道!
ガラガラッ!!
最悪な気持ちを断ち切るように、勢いよく教室のドアを開ける。
すると、教室がいつもよりざわついていた。
みんな、なにやら慌てているようだ。
…やっぱりな!みんな小テストの事なんぞ忘れてたんだ。
真面目に勉強してきたユウトウセイは紗理奈だけってか!はっはっ。
そんな事を考えながら、精一杯のドヤ顔を紗理奈に向ける。
しかし、次の瞬間聞こえてきた会話に、私は絶望した。
「蓮斗くん、麻宮さんに告って、付き合い始めたらしいよ!」
「えええええ〜っ!?うっそまじで!?」
「サイアク〜!!私達のプリンスがぁ」
「…まぁ、麻宮さんなら諦めつくわ〜」
「それなー」
……うそ。なにそれ、ほんと、サイアクじゃん。数学小テストなんか、超どうでもいい位サイアクじゃん。
…麻宮 心愛。たしか、学年一の美少女だ。
廊下ですれ違った事があるけど、本当に可愛い。モデルさんみたい。
くりくりの大きな目に、小さくて形のいい唇に、スッとした鼻に…。
私なんか、死んでも並べないくらい可愛かった。
…美男美女カップルじゃん。王子様とお姫様じゃん。
なに。この少女マンガみたいな展開は。王道すぎて笑える。
「…茉由。大丈夫?」
さっきの会話を紗理奈も聞いていたのか、心配そうな顔で見つめてくる。
「…ははっ。大丈夫大丈夫、それより早く勉強しなきゃ!このままじゃまじおわるし」
平然を装って、精一杯笑顔をつくったつもりだったけど。
私の目には、言葉とは裏腹にどんどん涙がたまってくる。
油断したらすぐこぼれ落ちそうで、とても勉強どころじゃなかった。
そして、知識もメンタルもぼろっぼろで挑んだ数学小テストは。
文句無しの赤点だった。
前回の投稿からだいぶ間が空いてしまいました、、、(´・Д・)