1.サッカー部の王子様
放課後の教室。そこは、私達2人の絶好の溜まり場だ。
少しだけ開いた窓から春の暖かい風が吹き込み、部活動をしている人達の元気な声が聞こえてくる。
私はその多くの人の中で、ひときわ輝く姿を見つめた。
「今日もかっこいいなぁ…篠宮くん」
はぁ、とため息をひとつ。
すかさず紗理奈の毒舌がとぶ。
「あんたも馬鹿な女どもと同類ねー。あんな顔だけの男、どこがいいんだか」
紗理奈はサバサバした性格で、こんな事は日常的だ。
「サッカー王子、か。…わからん」
紗理奈もため息をひとつ。
「なんでわからんかなぁ〜」
そう、私の恋するお相手、篠宮 蓮斗くんはまさに王子様!
モデル並の顔立ちに、薄茶色のサラサラヘアー。容姿だけでも充分すぎるほどなのに、さらに頭脳明晰、運動神経抜群の完璧王子なのだ。
そんな彼を女子達が放っておくはずが無い。『サッカー部のプリンス』と呼ばれ、ファンも腐る程いるのだ。
そんな彼に比べて私は…うん。平凡だ。
Sランクに可愛いわけでもなく、スタイルがいいわけでもない。
勉強も運動もそこそこできるけど、特別優れているわけでもないし。
平凡。この二文字につきる。
でも、こんな平凡な私だけど、篠宮くんが王子様だから好きになった訳じゃない。
それは、高校の入学式の日ーー。
ドジな私はその日から大寝坊して、急いで通学路を走っていた。そして十字路を突っ切ろうとした時ーー
「危ない!!」
大きな声が聞こえたかと思うと、手首を掴まれて後ろへ引っ張られた。
その直後、トラックが目の前を横切っていく。
「……あ、あぶな…」
驚いて座り込んだ私を抱き起こし、大丈夫?と言ったその人は、まさに白馬に乗った王子様だった。
「よかった間に合って。もしかして寝坊?俺も寝坊しちゃってさ。でも、寝坊して正解!」
そう言って笑ったその人は、また学校で会えるといいねと言って走って行った。
あとからその人が、篠宮 蓮斗という凄い人だったと知った。でも、その時にはもう好きになっていて。
それから2年生になった今まで、ずっと恋しているのだ。
「あれからなんの進展もないけど…」
そうつぶやいて、またため息をついた。