サクラ咲ケ 〜バーベナとサージェント2〜
リクエストより♪
バーベナ様に春が来た? いつの間にか外堀埋められてる感のあるバーベナ様です。
「お父様が珍しく歌劇のチケットをくださったと思ったら……」
「おや、偶然ですね。僕もコレ、いただき物なんですよ」
王立オペラ宮での公演『勇者シャケ・クマと魔王の城』に出かけた私——アルゲンテア公爵令嬢バーベナ——が、指定された席に向かうと、そこには先客がいた。正確に言うと私の隣の席なんだけど。
「この役者さん、かっこよくて好きなのよね〜。早く見たいわ」——ウキウキルンルンしていた数時間前の私を全力で引き止めたい。
その先客は私の渋い顔とは対照的にニコニコ笑いながらチケットの半券を見せてきた。
「サージェント様? そのチケットはどなたからいただいたものなのですか?」
「先日、仕事中に宰相様がフラッと僕のところにやってきて『これあげる』ってくださいました」
「…………やっぱりお父様か!」
あのバカ親〜! お節介にもほどがあるってものですわ!
別に好きでもなんでもない、むしろ鬱陶しいとすら思っているナスターシャム侯爵子息・サージェント。三つも年下の彼が何かと私に構ってくるので、『これはイケる!』と勘違いしたお父様が、彼とこうして顔を合わせる機会を作ってくる。……うざい。
隣のサージェントは鬱陶しいけど、歌劇自体は前から見たかったものだからそのまま、なるべく反対方向に体を寄せつつ、着席した。
幕が上がるまでどうしよう。だまって座ってるというのも気まずし。
ああ、そうだわ!
入るときに手渡されたパンフレット。あれを読んでいれば隣と会話せずに済むじゃない! それに役者さんの絵姿も見れるし一石二鳥! ここは彼の絵姿で癒されよう。
我ながらナイスアイデア〜と、私はパンフレットを取り出して黙々と目を通しているというのに、サージェントはわざわざ私の手元を覗き込んではせっせと話しかけてくる。
「今日の舞台は喜劇だそうですねえ」
「……そうみたいね」
「主演の役者さんは、前回は〇〇という舞台に出てたんですよ。かっこいいから若い女の人に今すっごく人気らしいです。バーベナ様も彼みたいなタイプはお好きですか」
「別に」
なんて。
私が冷たくあしらっても気にせず(めげず?)普通に接してくるのは、正直こそばゆいというか、悪い気はしない。
でも素直に受け入れられない私もいるの! 複雑な乙女心を理解しなさいよ!
いろいろ心が掻き乱されるので、もう放っといてほしい。
このままだと舞台に集中できやしないじゃないの。
私が一言物申そうと、パンフレットから顔を上げた時。
「あら、バーベナ様もいらっしゃっていたんですね!」
かわいらしい声が上から降ってきた。
バッと音がしそうなくらい勢いよく振り返って見ると、そこにはかわいらしく微笑んでいるフィサリス公爵夫人ヴィオラ様がいた。
「ヴィオラ様! 公爵様も? 奇遇ですこと」
「はい! 私がこの公演を観たいと言ってたのを聞いて、旦那様がチケットを手に入れてきてくださったんです」
そう言って照れ照れと微笑むヴィオラ様と、そしてそ横にはもちろんフィサリス公爵様。
ヴィオラ様の肩を抱き寄せ寄り添って立ってる姿がなんともお似合いすぎてため息が出ちゃいそう。
相変わらずラブラブ。とっても幸せそうでうらやましい限りですわ!
「バーベナ様は、今日はエスコートの方といらっしゃってるのですね」
ヴィオラ様がサージェントの方をチラッと見ながら言うけど、それ全く違うから! 大いなる勘違いですから! 私たちは別々にここにやってきて、たまたま席が隣同士になっただけですから!!
「違います! この人は、ここで、たまたま、出会っただけです!」
私は『たまたま出会った』ということをかなり強調したのだけど、隣のサージェントはさっと立ち上がると、
「いつも姉がお世話になっております。私はナスターシャム侯爵家のサージェントと申します」
スマートに挨拶してしまってるし。
「まあ、アマランス様の弟様? お話はお姉様や他の方からいろいろ伺っておりますわ!」
初めは驚いたような顔をしていたヴィオラ様が、『アマランスさんの弟』ということがわかった途端に心なしかニヤニヤしだした気が。そして隣の公爵様も。
てゆーか、ヴィオラ様? 『お話』を『いろいろ伺ってる』って、どういうことですか?
「……ヴィオラ様? どういう『お話』をお聞きになってるんでしょうか?」
嫌な予感しかしない。でも確認はしておくべき。
顔が引きつりそうなのを懸命にこらえて笑顔で聞くと、
「バーベナ様とサージェント様がとてもいい雰囲気だということですわ!」
無邪気な微笑みが返ってきました!
「嘘でしょ」
「いやぁ、照れますねぇ。レディ達に噂されるなんて」
「お似合いです。ね、サーシス様」
「ああ、そうだね」
フラッと倒れそうになった私と、隣でニコニコ笑っているサージェント。
無邪気な微笑みのヴィオラ様と、笑いをこらえているような微妙な顔の公爵様。
微妙な空気が漂ってきたわ……。
その空気を一蹴したのは、またもヴィオラ様で。
「お二人は今や公認ですよね?」
ニコニコ……って、いつの間に公認になってるの!? 知らなかったわ!!
ありがとうございました(*^ー^*)




