どうぞよろしく 〜ユリーさんとリアさん 完結編〜
活動報告より
ユリーさんとリアさん、ようやく結婚式です♪
リーンゴーン、と神殿の鐘が鳴り響いています。
ここは王都ロージアの町中にある、由緒正しき教会。王宮内の神殿に次ぐ格式のこの教会は、主な貴族(侯爵家以下)が冠婚葬祭に利用しています。
今日はそこで結婚式が行われようとしていました。
たくさんの招待客から祝福を受ける、若いカップル。
新郎はプルケリマ侯爵家の三男のユリダリス、新婦はもちろんフィサリス公爵家にお仕えしているステラリアです。
ユリダリスとステラリアは『一介の騎士と侍女の結婚式だから地味にしたい、むしろ結婚式なくてもいい』と言っていたのですが、ユリダリスの両親が『せめて可憐なステラリアの花嫁姿が見たい!』と懇願したので、身内とごく少数の友人だけのささやかな式を挙げることになったのです。
「さあみなさん、今日は全力でステラリアを磨き上げてね!」
「「「「「任せてくださいっ!」」」」」
いつもはフィサリス公爵夫人——ヴィオラを磨き上げることに執念を燃やしている愉快なエステ隊が、今日はステラリアを磨きにかかります。もちろん指揮はヴィオラ。
頭の先からつま先まで、一分の隙なくピッカピカのキッラキラ。
髪は緻密に編み込み結い上げられ、仕上げに純白のヴェールをそっと被衣ました。
もともと美人のステラリアは、エステ隊の尽力と自身から発する幸せオーラとが相まって、その美貌に磨きがかかります。
ユリダリスがプレゼントしたウェディングドレスに身を包めば、どこぞのお姫様とも見紛う美しさです。
「うお〜。まばゆい」
「うふふ、ありがとうございます」
ヴィオラが目を瞬かせていると、うれしそうにステラリアが微笑みました。
一方のユリダリスは、いつも通りの騎士の制服なので特に変わり映えありません。いや、普段から十分に爽やかですが。
支度に時間がかかるでもなく、自分の控え室で式の時間を待つばかり。
「え〜と、何するんだっけ? 入場して、神官の誓いの言葉を聞いて宣誓して、儀式して……」
「そんな感じだった」
「経験者のくせに頼りになんねぇ……」
そわそわと控え室の中を歩き回っているユリダリス。
式の段取りを頭に入れる彼の横で、適当に相槌を打っているのは友人のフィサリス公爵サーシス。上司兼悪友の彼が頼りにならないのはいつものことなので、ユリダリスは軽くスルーします。
そこに、コココン、と軽いノックの音が響きました。
「ん? 誰だろ? はい、どうぞ〜」
「失礼します」
ユリダリスが返事をすると、ゆっくりと扉が開き、男の人が顔をのぞかせました。
きりりとした、若い男。そしてイケメン……しかし、誰かに似ているような……?
誰だ? 曲者か? いや、もしかしたらステラリアの元彼で、彼女を奪いにきたのかも?
見たことのないその顔に、職業柄、一瞬緊張が走りました。ユリダリスとサーシスが顔を見合わせ、腰に履いている剣にそっと手をかけると、
「わわっ、怪しいものではありません〜! 僕、ステラリアの弟のティンクトリウスっていいます。」
二人の行動を見てギョッとした若いその男は、慌てて自己紹介しました。
「え? リアの弟?」
「そうです。初めましてお義兄さん! なんとか式に間に合ってよかった〜! 僕、あちこちで修行してたもんですから、帰ってくるのがギリギリになっちゃったんです」
「ああ、そうだったんだ……」
剣から手を離しながら、元彼じゃなくてよかったと、内心ものすごく安堵したユリダリスです。
ニコニコと愛想のいいティンクトリウス、性格は父親に似ているようです。黙っていれば母親に似たきりりとしたイケメンなのに、喋るとゆる〜い雰囲気になりました。
料理人になる武者修行と称して国内外を渡り歩いている彼を探すのに時間がかかり、ティンクトリウスが公爵家に帰ってきたのは、結婚式前日でした。
だから、今日が初対面のユリダリスは仕方ないとして。
てゆーか、なんでお前が知らないんだよ?
いや、知らないものは知らない。仕方ない。
ちらっとサーシスの方を見ると、サーシスはしれっと視線を逸らせています。
「おぼっちゃまも、お久しぶりでございます」
「おぼっちゃまやめろ!」
「ぶっ……!」
サーシスにも挨拶するティンクトリウスですが、以前のままの『おぼっちゃま』呼びにユリダリスは吹き出してしまいました。
「うわぁ、でもお義兄さんって、本当に騎士様なんですね〜! 僕はじめて本物見ました〜! 制服もビシッとしていてカッコイイ!!」
ティンクトリウスがキラキラした目で制服姿のユリダリスを見ています。
「あ〜、うん、まあ、本物です」
「騎士様だしカッコイイし、お義兄さんモテるでしょう?」
照れているユリダリスを前に、ティンクトリウスのホメ攻撃は緩みません。
「えっ!? いやいや、全然だよ」
ユリダリスが謙遜して否定しているというのに、
「……男にはモテモテ……いてっ」
その横で余計なことをボソッとつぶやいたサーシス。すかさず肘鉄を食らいました。
幸いティンクトリウスにその声は届かなかったようで、
「え? そうですか〜?」
相変わらずニコニコしながら首を傾げています。
「そうだよ」
「それにしても、あの、うちの姉でいいんでしょうか?」
「なぜ?」
「だって、しっかり者っていう以外全然取り柄のない姉ですよ? 可愛気っていう言葉と対極にあるような…………いった!!」
喋っている途中で『ゴン!』という鈍い音が響き、ティンクトリウスが頭を抱えてその場にうずくまりました。
『どうした!?』と、驚いたユリダリスたちでしたが、すぐに何が起こったか把握することになりました。
「ティ〜ン〜? ここで何をしてるのかしら、あなたは?」
そう言ってティンクトリウスの後ろから現れたのは、花嫁姿も麗しいステラリアでした。
「ゔ〜〜〜っ……ほら、お義兄さんに挨拶をね、ちょこっとね」
「挨拶だけじゃなかったわよね?」
微笑みながら指をポキポキいわせています。
「ほらね、こんな姉ちゃんですけど、本当にいいんですか?! すぐ怒るしすぐ殴るし」
姉を指差し涙目で訴えるティンクトリウスですが、ユリダリスはブハッと吹き出しました。
「そんな姉ちゃんがいいんだよ! ティンクトリウス……は、ティンでいいのかな?」
「はい!」
「これから、どうぞよろしく」
「こちらこそ、ふつつかな姉ともども、よろしくお願いします!」
お互いペコペコと頭をさげます。
「さ、そろそろ時間だ。行こうか、リア」
「はい」
ユリダリスがすっと腕をずらせば、そこに腕を絡めるステラリア。
こうして幸せな夫婦が、また一組フルール王国に誕生したのでした。
ありがとうございました(*^ー^*)




