ロータスの休日
いつも忙しいロータスさんの、まったりとした休日の様子です♪
ロータスさんは名門フィサリス公爵家の執事さんで、とても忙しい人です。
いつも朝も早くから起きて旦那様、お屋敷全体のスケジュールを把握。ちなみに奥様はほとんど家にいるのでスケジュール管理は楽勝です。
軽く朝の使用人ミーティングを済ませると、その足で旦那様をたたき起こして朝食を摂らせ、仕事に追い出します。それから休むことなく公爵家に来た手紙の処理をし、領地から上がってくる分の報告書に目を通し、商人が来れば仕入れの交渉をし、奥様が何かやらかせばその処理をし。また旦那様が帰ってくれば、その日一日の報告をする。主夫妻が就寝すれば使用人と一日の反省会をし、明日の準備をしてから就寝。
気が付けばあっという間に時間は過ぎていってしまいます。忙しいけれど充実し、やりがいのあるこの仕事に誇りを持っているロータスさんです。
公爵家では、使用人さんたちのお休みは、だいたい四~五日に一回と決まっています。全員が一時に休めませんので、もちろんシフト制です。シフトはロータスさんとダリアさんで話し合って決めていて、前もってお願いすれば、まとまったお休みももらえます。
以前はどんよりと淀んだようなお屋敷で、一人見えない何かと戦っている気がしたものでしたが、奥様が輿入れし、お屋敷が明るく活気が出てきてからはそういうプレッシャーからも解放され、ずいぶん楽に仕事ができるようになりました。旦那様が、ちょっとずつですが、当主としての責務、領主としての仕事などをしてくださるようになりましたからね! まだあまり知られていませんけど。
前は常に忙しく、ほとんど休む暇もなかったのですが、今ではしっかり休みをとり、リラックスすることができるようになりました。
お休みと言っても、旦那様が出かけてから夜のミーティングまでです。
朝の使用人ミーティングに出、旦那様をたたき起こし、奥様と一緒に朝食を摂ってもらってお仕事に追いだす。そこまでは通常通り。
旦那様を外までお見送りした後、エントランスに戻り、
「今日はロータス、お休みなんでしょ?」
「はい、奥様。一日お休みを頂戴いたします。ですが何かあれば――」
「大丈夫よ~! 何かあっても何とかするから! だからロータスはゆっくり休んでちょうだいね」
「ありがとうございます。では」
奥様と軽く会話を交わしてから、三階の自室に戻りました。
部屋に戻り、仕事用の燕尾服から私服に着替えます。
白シャツにVネックのカーディガン、濃いグレーのスラックスといったスタイルです。もちろん白シャツは皺ひとつなくビシッとしています。
自分で火のししています。
着替え終わると、たまっている私信に目を通します。急ぎのものは受け取ったその日のうちに処理するのですが、そうでないものはお休みの日にまとめてします。
返事を書いていると、気が付けば結構時間が経っていることが多いです。
そこでようやく使用人専用ダイニングに向かい、ブランチをとります。
朝食よりはかなり遅く、ランチよりは早いこの時間。使用人さん用ダイニングには厨房sしかいません。そして、お休みの日のロータスさんがブランチを好むということを知っているカルタムさんは、ロータスさんのために特製のブランチを用意してくれています。
それをカルタムさんや厨房sと、今日ばかりはとりとめのないおしゃべりしながら ゆっくりいただくのも、ロータスさんの休日の楽しみの一つ。
ブランチの後は町中に外出です。
今日はいいお天気で、部屋の窓からは、奥様が庭園で草抜きをしている姿が見えます。
余談ですが、使用人さんたちのお部屋はどの部屋も庭に面していて、そこには大きなガラス窓がはまっているので、今日のようなお天気だと、とっても明るくて温かで快適です。使用人部屋だからといって、狭くて暗くて汚いといったことは一切ありません。
楽しそうな奥様の姿につい微笑みながら、外出の支度をしました。
お目当ては、行きつけのカフェです。
先日、旦那様と奥様が行ったようなオシャレな菓子屋さんといったところではなく、大通りから一本路地を入ったところにある、隠れ家的なカフェ。
落ち着いた雰囲気のそこは、常連ばかりが利用するような静かなカフェですが、ここのオーナーさんは知る人ぞ知る茶葉の目利き。実は公爵家のお茶はここのものを使っています。ずいぶんと前ですが、ロータスの休みにくっついてきた先代様がここのお茶をいたく気に入って『これからうちで使う茶葉はここにお願いしよう』と言い出し、それからここと取引するようになったのです。
きぃ、と扉を軋ませてロータスさんが中に入ると、
「やあ、ロータスさん。いらっしゃい。いつもの場所、あいてますよ」
丁寧に茶器を拭きながら、オーナーが人の好い笑みを浮かべて声をかけてきます。
「ありがとうございます」
「そろそろ来るころじゃないかなぁって思ってたところなんですよ。実はさっきいい茶葉が入ったんで、ぜひロータスさんに試飲していただきたかったんです」
「おや。ではそれをいただきましょう」
ロータスお気に入りの、店の奥の静かな席に腰かけて、先ほど勧められたお茶を試飲します。
ミルクとよく合いそうなコクのある茶葉。ほろ苦いショコラのプチフールをつまみながら、
「美味しいですね。これなら奥様が好みそうです」
「そですか。よろしければ試飲の茶葉をお持ち帰りください」
時折オーナーと会話を交わしたり、読みかけだった本を読んだりしながら、ゆっくりとお茶を楽しみ、ついでに茶葉の商談もしていくロータスです。
カフェを出て、少し散歩して帰ります。王都の流行を把握しておくことも大事なことですからね!
適当にぶらついていると、国立専門学校の前に出ました。
公爵家のほとんどの使用人さんたちの母校です。かくいうロータスも、若い頃はここで学んでいました。
「そろそろ見習いをとらないといけないとは思うんですけどね。……今年こそいい人材がいればいいですけど」
懐古の眼差しで学校を見つつ、現実をしっかり見ているロータスさんです。
毎年公爵家に『執事見習い候補』として卒業生が面接に来てはいるのですが、ロータスさんやダリアさんのおめがねにかなう逸材に出会えなかったのです。
「私がフェンネルさんに見習いとして付いたのも、フェンネルさんが私くらいの時でしたねぇ」
そういえば、と、公爵家宛ての手紙の中に卒業生を斡旋する手紙が来ていたことを思い出したロータスさん。明日にでももう一度目を通そうと思ったのでした。
王都をぶらりと散策し、厨房の勝手口から公爵家に戻ると、ちょうど旦那様が先程帰って来たということで、晩餐の支度のために厨房は戦場となっていました。鬼気迫る顔で仕事をするカルタムの横をすり抜け、旦那様たちがいるサロンへと向かいました。
サロンの様子を扉越しに窺うと、旦那様と奥様が話しているのが聞こえます。
「あの時の夜会で会った○○殿が――」
「えーと、○○様って、どなたでした?」
「う~ん……」
この二人、仲がいいのかどうなのか……。以前よりは随分と距離の縮まった二人ではありますが。
またお貴族様の顔と名前をきれいさっぱり忘れている奥様に、思わず苦笑の漏れるロータスです。
「見習いの前に、旦那様の再教育と奥様の内面磨きが先ですね。ああ、また仕事が増えましたね」
仕事が増えることが嫌ではない自分にも苦笑するロータスでした。
ありがとうございました(*^-^*)
結局何もしてなかった……!www