シャケクマの行方
活動報告より、加筆修正。
結婚祝いにどこぞのお貴族様から贈られた置物。それに関するあれこれ♪
~ シャケクマ貴族邸 ~
「なんでまた、フィサリス家からお礼状が来たんだ? 確か随分前、結婚式の直後くらいには祝いの礼状が来てたはずだが?」
「……抗議文じゃないの?」
先程フィサリス家から封書が届いた。うちの執事がガクブルしながらワシのところに持ってきたのだが、わざわざ手紙をもらうようなことをした覚えはない。ワシ、知らないうちになにかやらかしたのか?! ……いや、落ち着けワシ! そもそも公爵家どころか、公爵殿ご本人にもにもかかわってないぞ! 威張っていうことでもないが。
思い当たる節もなく、まじまじと封書を見つめるワシと、そんなワシをじと目で見る娘。
ああ、そう言えば畏れ多くもうちの娘を公爵様の嫁に……なんて大それたことを考えたこともあったなぁ。しみじみ。……いや、今それは関係ないか。
そうだそうだ、封書だ封書。よく見れば差出人は『ヴィオラ・マンジェリカ・フィサリス』となっていることに気付いた。
うん? これは奥方様の名前のはず。
はて、奥方様から封書などますます身に覚えがないぞ??
ワシが小首をかしげていると、相変わらずじとんと見てくる娘。なんだ、機嫌悪いなぁ。最近本当にあつかいにくくなったなぁお前も。そうか! 周りの妙齢のご令嬢たちが嫁ぎ先がどんどん決まっていくのに、お前には全然いい話がないからへそを曲げているんだな! まあそれは早急に探してやろう。それより今はこの封書だ。
白けた顔でこちらを見てくる娘を無視して丁寧に封を開けると。
『貴殿からいただきました見事な彫像、我が家でとても役に立っております。改めてお礼を言うべく筆をとらせていただきました……』云々。
なんと。そこには結婚祝いとして贈ったシャケクマに対するお礼が述べられていた。
絶対にお祝い品を贈らねばならないのに何を送っていいのやらさっぱりわからなかったので、うちの領地で一番人気の特産品を贈ったのだ。そうか、あれを気に入ってくださったのか!
「さすがは公爵家! あのシャケクマの良さがわかるんだよ! やっぱり違いのわかる人たちにはわかるんだねぇ、わっはっは~!」
ワシは手紙を読み、上機嫌になる。
思いもよらなかったお礼の言葉に小躍りするワシから手紙を奪って目を通し、
「つーか、公爵様ご夫妻がご結婚されたのってどんだけ前よ? しかもなんでお飾りのはずの置物が『役に立つ』のよ? 『気に入る』ならまだしも『役に立つ』って絶対おかしいでしょ」
上機嫌なワシを、変わらず冷たいじと目で見る冷静な娘。バカな娘だ、『気に入る』も『役に立つ』も、どっちにしろ褒めてもらってるんだから些細な差ではないか!
「ははは~! やはりお前は見る目がないんだなぁ。それに引き替えアレの価値がわかる公爵夫人は素晴らしい人なんだよ。ああ、そんなお方が奥様ならば、うちの娘など負けても仕方がないか!」
そんな素晴らしい奥様に、うちの娘などはなから勝ち目なんてないわな。
娘には相応の相手を探してやらねばなるまい。あ~、父さんは忙しいぞ! もちろん嫁入り道具にシャケクマは必須だな。せっかくだから最高級な材料で作らせるか。
……何だか違う方向で、またヴィオラの評価が上がったのだった。
~ 〇年後? フィサリス公爵夫妻の会話 ~
いつの間にかしれっと夫婦の寝室に飾られるようになった、クマがシャケを咥えている彫像。
サーシスは苦々しげにそれを見てから、ヴィオラに問いかける。
「このクマがシャケを咥えている彫像は、どこで手に入れたの?」
「え? 結婚祝いにどこかの貴族様からいただいたのですわ。誰からもらったか忘れちゃいましたけど」
「うっ……!」
何言ってんのコノヒト? みたいな目で見られて一瞬怯むサーシス。
「で、ヴィーは気に入ってるの?」
コホン、と一つ咳晴らしをし、態勢を整えてから質問する。
「う~ん、気に入ってるかと聞かれれば答えは『否』ですけど、役に立ってるから、そういう意味では気に入ってる?」
「ナンデスカソレハ。そもそも、お飾りの彫像が『役に立つ』っておかしいでしょ?」
唇に人差し指を当て、あらぬ方向を見ながら答えるヴィオラに、どこぞのご令嬢と同じツッコミを入れるサーシス。
「そうですかぁ? ほら、境界線を引くのに物理的障害として立ちはだかってくれるから『役に立つ』でしょう?」
「そんな障害いらないから!」
サーシスは必死に否定するが、
「あら、ケンカした時とかに必要でしょう?」
軽~くヴィオラに返される。しかしこれくらいではめげないサーシスが、
「そんな障害があれば仲直りできないでしょう」
さらに力説、食い下がれば、
「障害を作っちゃいけないんでしたら、別棟に家出しますよ?」
「うん、障害でいいよ。障害くらい何でもないよ」
「ほら、役に立つでしょう?」
『別棟に家出』という単語を出されてしまい、あっさりと白旗を上げるサーシス。
くっ……! ヴィオラの見てないところで捨ててやろうか……!
本気でそんなことを考えていると、
「あ、サーシス様? 私の見ていない隙に捨てたりしたらダメですよ?」
「……」
ヴィオラに考えを読まれ、くぎを刺されるサーシスだった。
お付き合いありがとうございました(*^-^*)