うれし恥ずかし
活動報告より♪
本編75話目のお話です。
ミモザが懐妊した! その時ベリスは?
「ベリス。ミモザが体調を崩して部屋に戻っています」
ロータスさんが突然温室に姿を現して伝えた言葉に、俺は手にしたスコップを取り落してしまった。
「え?! どういう――」
いつも元気なミモザが倒れた?
ロータスさんも心配そうな顔をしている。
「まだ原因はわかりません。今お抱え医師を呼んでいますから、ベリスはミモザについていてあげてください」
「しかし、仕事が」
「奥様が、ベリスに知らせろとおっしゃったんです」
「……ありがとうございます」
今朝は……言われてみれば、いつもよりだるそうだったかもしれない。風邪か何かだろうか。無理にでも休ませるべきだったな。
とにかく、ロータスさんも奥様も、仕事はおいといていいと言ってくれたので、俺は自分たちの部屋へと急いだ。
部屋に着くと。
「メイクはこうよ! ドレスはオレンジの、胸元に小花のついているアレね! お飾りはこのあいだ大奥様にいただいたルビーよ。ああ、もう指示書を書くから、私の代わりに頑張って!! うげ、気持ち悪い……」
「いや、体調悪いのにそこまで細かくこだわらなくてもよくない?」
「ここまで来ると、もはや執念ね」
部屋に付き添ってきたという侍女仲間に、今日の奥様の出かける支度について事細かに説明しているミモザがいた。
ベッドに寝かされてはいるものの、寝ながら指示書みたいなものまで書いている。これ、結構元気じゃないか? と思ったけど、その顔色はどこか白く、いつもと違って引きつった感じがする。
いつもとは明らかに様子が違うのに、それでも奥様のお世話をしようとか。その姿は侍女仲間が言うように、執念以外のなにものでもなかった。お前は本当に奥様が好きだな……。
戸口でミモザたちのやり取りを若干呆れ気味に見守っていた俺だったが、
「あ、ベリス来たよ、ミモザ!」
「ベリス! ミモザったら顔色も悪いし気分も悪いらしいから、ベッドから出ないように見張っててね。すぐ無理するんだから」
「ああ、世話をかけたな」
俺に気付いた侍女たちが声をかけてきた。言われなくてもそうするに決まっている。
時間が押している侍女たちは、ミモザから『奥様盛り付け指示書』を受け取ると急いで部屋を出て行った。
入れ替わりに公爵家のお抱え医師が、ロータスさんに案内されて入ってきた。
「え……? 悪阻…………懐妊?」
「ええ、そうですよ。ふた月目に入るくらいですかな。これからしばらく気分の悪い時も多いでしょうから、あまり無理をしないように気を付けてあげなさいよ」
「あ――はい」
穏やかで優しげな医師が、ニッコリと笑ってそう告げた。
悪阻? 懐妊? 風邪じゃなくて。病気じゃなくて。
ミモザが? え? 本当か?
急なことに、オレの頭は混乱する。
まだいわれたことに実感がわかなくてぼんやりしていると、
「よかったですね、ベリス」
「――はい」
ロータスさんも嬉しそうに笑顔で声をかけてくれた。
なんだかくすぐったい。
奥様がこの部屋にいきなり登場し、ミモザに盛装を見せてくれ、そのまま王宮へ行った後。
「びっくりしたね、ベリス」
「ああ」
「赤ちゃんだって」
「ああ」
「ふふふ」
顔色は悪いけど嬉しそうに、幸せそうに笑うミモザ。
そうか、俺たちの子供か。
これからはミモザともう一人分働かなくちゃな。
しばらくは、使用人仲間からの生温かい視線に耐えなくちゃならんのか……。
まあ、それもいい、か。
ありがとうございました(*^-^*)