王太子とヴィオラと夜会
書籍第二巻発売記念リクエストより♪
前話(第9話)に王太子様視点を加筆したものです。
ぼくはフルール王国のおうたいしだ。
きょうはお父さまがパーティーをひらいているから、ぼくもさんかさせられている。
ぼくにとっては、初めてのパーティー。6さいになったから、とかなんとか言われて、さんかさせられたんだ。
でもたいくつ。
おいしい食べものやおかしなんて、毎日食べてるからぜんぜんどうでもいい。同じりょうりにんが作ってるんだから、味いつもといっしょじゃん。
ダンスだって、まだおどれないから見ているだけ。
なんか知らないけど、いっぱいあいさつに来るきぞくたちに『ごきげんうるわしゅう』って言われたら『うむ』って答えるだけ。
うろうろしたらおこられるから、いすに座って足をぶらぶらさせてたら「おぎょうぎ悪い」っておこられるし。
ちょーつまんない。
早くこんなパーティーおわんないかなぁって思いながら、あちこちを見ていたら。
「フィサリス公爵ご夫妻、到着されました」
って、じじゅうの声がした。
ふうん、まただれか来たんだ。
そう思ってとびらの方を見たら、びっくりした。
すっごいかわいい人!!
やさしそうにほほえんで、こっちを見てる。こてこてとかざりまくっているそこらのきぞくとはちがって、ふつうな、かわいらしい人。
ぼくのりそうのお姉さまどんぴしゃな人! ぼくにもお姉さまが二人いるけど、どの人もおてんばだし、すぐぼくをからかうし、やさしくないんだもん。
……ん? となりになんかいるけど、目に入らないな。
「ねえねえ、お母さま。あの女の人、だれ?」
すぐに名前が知りたくなって、となりにすわるお母さまに聞けば、
「あら、あの方? あの方はフィサリス公爵とその奥様よ」
と、トンチンカンな答えがかえってきた。そんなのさっきじじゅうが言ってたから知ってるよ!
「じゃなくて、おなまえ!」
「名前? うーんと、サーシスだったかしら?」
「こうしゃくのほうじゃなくて!!」
「ああ、はいはい。ヴィオラよ」
「ヴィオラね!」
あやうくかんしゃくをおこすところだった。お母さま、わざとだよね。お姉さまがおてんばなの、ぜったいお母さまのせいだと思うんだ、ぼく。
まあ、それは今いいや。
とにかく、ぼくはあの人の名前を知った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
王宮で開催される夜会にヴィオラを伴い参加する。
貴婦人としてのヴィオラの評判はうなぎのぼりにも拘らず夜会などの社交場には滅多に姿を現さない希少性から、今日も老若男女問わずヴィオラに人だかりができるだろうことは予想に難くない。
「今日こそは離れないでくださいね」
『こそ』に力を込めてそのサファイアブルーの瞳に念を押せば、
「はい、もちろんですわ」
とにこやかに細められるそれ。あーもう、このやり取りを毎回しているような気がするが、いつも邪魔が入って上手くいったためしがない。
今宵こそはと、ヴィオラをエスコートする手に力を込めた。
……のだが。
「ヴィオラはどれがすき? すぽんじけーき? たると? むーす?」
「そうでございますわね、う~ん、タルト、でございましょうか」
「わかった! フィサリスこーしゃく、たるとをもってきて」
「……」
誰かこの状況を説明しろ。……ではなくて。僕が今の状況を説明すると。
齢6歳の王太子殿下にしっかりと手を握られ、6歳ながらの精一杯で口説かれているヴィオラ。
やるな、6歳。胃袋から掴もうというのか! ……いや、それはどうでもいい。 その天使のような外見の王太子に目を細めながら相手をしているヴィオラは、国王陛下・妃殿下のおわしますテーブルに一席を許され、ずっと王太子に絡まれている。そして王太子は、ヴィオラを独占するだけでは飽き足らず、僕をパシリに使う。……このガキ。今日の敵は貴族どもではなく王太子だったか!
無邪気という名の被り物をすっぽりとかぶった王太子は、僕を横目でちらりと見てからおもむろにヴィオラにすり寄り、
「ヴィオラ、ヴィオラ、ぼくが大きくなったらおよめさんになってね」
「まあ、うふふ。その頃にはおばさんになってしまってますわ」
「ヴィオラならだいじょーぶ!」
よくわからない自信に胸を張る王太子を、また微笑ましいものを見るように暖かく微笑むヴィオラ。
こら、クソガキ! ドサマギで抱き付くんじゃない!
ヴィオラの腰にへばりつくそれをべりっと剥がしながら、
「残念でございますが殿下。ヴィオラは私の奥さんですからね」
とどす黒いオーラを発しながら極上の嫌味笑みで殿下に進言すると、
「え~? ヴィオラだってオッサンよりもわかくてピチピチしててかっこいいおとこのほうがいいとおもうんだ~」
可愛らしく口を尖らせて言ってるが、言ってる内容は可愛くないぞ!
ありがとうございました(*^-^*)
王太子様の年齢は、変更するかもしれません。