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ハル #2

帝国軍統合本部基地は、帝国中央部、王宮から4ベニタ(約4km)離れたところに位置する。周囲は市街地に囲まれており、購買部の職員など民間人も多く働いている。

その駐輪場に、一台の黒い大型モーターサイクルが滑り込んだ。運転手の外したヘルメットの中から、長い黒髪が零れる。

「こちらハル。ちょうど今本部に到着したところです」

ハンディ無線機に話しかけたハルは、受付でIDカードをリーダーへ当て、そのまま早足でロッカールームへと向かう。

"すぐに情報中隊のミナミ君がこちらへ到着するそうだ。多少は立案の助けになるだろう"

「助かります」

アーメルの気の利いた手配に感謝する。ジャケットをハンガーにかけ軍の制服に着替えると、アミは2階の指令室の扉を叩いた。


「申し訳ありません、遅れました」

「悪いな、折角の休日に」

「いえ、帝国軍人ですから」

既に地方への連絡をはじめていた幕僚たちに詫びを入れつつ、既に開示されている情報を確認していく。

「なるほど……集めてるの、国境警備の人たちじゃないんですね」

資料に目を通しながら、ハルはその意図に疑問を感じずにいられなかった。国境の防衛力を高めるだけでも警戒されることは目に見えているのに、わざわざ警備ではなく一般の兵を集めているのだ。まさか国内にスパイがいないと思い込んでいる訳もなく、何かしらの意図があって行っていることだと推測ができる。

(まさかとは思うけど……)

ハルは思いついたように、アーメルに尋ねた。

「ガウル少将はいつごろ戻られますかね」

この手の外事には一番関係のなさそうな憲兵司令の名前がハルの口から出てきたことに、アーメルは驚いているようだった。しかし、二瞬の後に、彼もまた、「陽動」という可能性に気がついていた。

歴史上、こういった謀略は、同盟関係にある複数の国家が、その間にある国家に侵攻する場合に用いられたことが多い。むしろ、千年以上前から用いられる常套手段だ。ところが、公国に同盟国はない。それどころか、今この大陸には帝国と公国を除いて独立国などありはしないのだから、おそらく陽動を受けて動く集団も公国側もしくは反帝国の組織であろう。

国内に公国の工作員がいるのか?まず間違いなくいる、とハルは考えた。ひょっとしたら、国内の過激派も取り込んでいるかもしれない。普段は治安維持にも携わる防衛軍や進攻軍の不在はきっとその活動の好機となるはずだ。

「社安に特命を与えて動かすか?それも仕方あるまい」

アーメルが諦めるように言った。

社会安全部隊、略して社安は、犯罪を未然に防ぐための諜報・調査組織で憲兵師団の一部隊である。主に国外で動く情報中隊と異なり、国内でのテロリズムや過激派の同行を探り大きな被害の出る事件を防止するのが主な任務となるが、構成員は憲兵の中でも最も重い機密保護の義務を課せられる上、そもそも憲兵師団は情報公開を渋る方向性が強く帝国民からの風当たりは強い。ただ、こういった事態においてはとにかく情報を集めるのに有用性の高い部署ではあるので、そう簡単に廃止するわけにはいかないのだ。

「私も、軍人でなければ社安の存続には反対していましたよ、多分。でも、軍に入ってそう簡単な

ことでもないってのはよく分かります」

国民のみなさんの言い分も最もなんですけどねー、とぼやきながら、ハルは資料をめくり続けた。





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