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NINJA×WIZARD。

「美味い!」

 フレイバーンの首に変化が見られた。

「こんなに美味い炎がこの世に有ったとは、気に入った」

 ぴしりと、首輪の留め具にヒビが入った。

「いかん!」

 貴賓席の女王が叫んだ。

「AIRWALK!」

 呪文を唱え、クリスティーナは空中を走った。

 才蔵の居場所まで走ると、女王は足を止めた。

「女王陛下!」

 女王の行動に、マリーが驚きの声を上げた。

「LOUDVOICE!」

 女王は拡声の呪文を唱えた。

「皆! 逃げろ! あいつの封印が解ける!」

 観客のほとんどは動かなかった。

 状況がつかめなかったのがほとんど。

 それに、何かの催しだと思った者。

 本当に逃げようとしたのはほんの僅かだった。

「封印? 封印とは何だ?」

 才蔵が尋ねた。

 徐々に首輪の留め金が壊れていく。

 金属片が剥離し、地面にこぼれていく。

「ドラゴンとは、本来人に飼い慣らされる存在ではない」

「だが、余の先祖はあいつとの知恵比べに勝って、首輪の力であいつを封印したのだ」

「封印されていて、あれだけの力が有ったの?」

 マリーが言った。

「そうだ。……見ろ」

 首輪が地に落ちた。

 そして、フレイバーンの変貌が始まった。

 体表が徐々に盛り上がり、皮膚が鱗へと変わっていく。

 少しずつ大きさも増し、尋常の生き物の大きさでは無くなっていた。

「あれが火竜フレイバーンの真の姿だ」

「グオオオオオオ!」

 フレイバーンの変身が終わった。

 家屋を覆い尽くすほどの巨大な竜。

 赤い巨体が闘技場の一角を埋め尽くしていた。

 背中の羽が羽ばたくだけで人間など吹き飛ばされてしまいそうだった。

「キャアアアア!」

 観客席から悲鳴が上がった。

 焦燥が、観客たちを建物の外へ押し出していく。

「火竜?」

 初耳だといった感じで才蔵が聞いた。

「火を食べて生きる竜だ。知らないのか? パンフレットにも書いてあるぞ」

 女王が才蔵を睨んだ。

「もし火竜が、一兆度の炎を食べたらどうなる?」

「凄まじい力を得るだろうな。それが?」

「……いや」

「それより、早く逃げろ」

 女王が才蔵に命じた。

「大会は?」

「中止に決まっているだろう?」

「……そうか」

「すまないマリー。俺のせいで」

 才蔵は詫びた。

(せめて、父上の大蝦蟇を継いでいればな)

 才蔵は、もう一つの炎魔の秘伝を思い浮かべた。

 水を自在に操る大蝦蟇。

 火遁を得意とする炎魔宗家の欠点を補うための存在。

 あれならば、火竜とも戦えたかもしれない。

 無い物ねだりだった。

 源蔵の死と共に、行方知れずになっていた。

「仕方ないわよ。早く、逃げましょう」

 マリーは咎めなかった。

 火竜を強化してしまった才蔵を。

 自分が才蔵に任せると決めたのだ。

 そう思っていた。

「逃がさん。貴様だけは!」

 才蔵が動くのを見て、フレイバーンが口を開いた。

 口内に、赤い玉が見えた。

 火球だった。

 人の放つそれとは比べ物にならない質量。

 火球が吐き出された。

 才蔵達めがけて。

 早い。

「ICEWALL!」

 唱えたのは、警護の宮廷魔術師達だった。

 いつの間にか女王と火竜の間に陣取っていた。

 氷の壁が形成された。

 ジョンがマリーに見せたものより何倍も強大だった。

 貫かれた。

 壁は紙切れのように破かれた。

 壁を展開した魔法使い達も火球の勢いに吹き飛ばされ倒れた。

 女王とマリーは動けなかった。

「がああっ!」

 才蔵の背が、火球を二人から遮った。

「ぐ……」

 才蔵は背を焼かれ、倒れた。

 星光のマントが焼け焦げ、皮膚が覗く。

 赤く焼けただれていた。

「才蔵!」

 マリーが叫んだ。

 がしり。

 竜の右手が才蔵を掴んだ。

「力が溢れてくる。何なのだ貴様は。素晴らしい。この世のどんな炎よりも、何よりも」

 恍惚とした音色で竜は言葉を紡いだ。

「俺のものだ。一生を俺の傍で生きろ」

「いや、死ぬことすら許さん。貴様は永久に俺のものだ」

「放せ……! 才蔵を放せっ! このクソトカゲっ!」

 マリーは叫んだ。

 そして、死を覚悟した。

 自分はこの竜に焼き殺されるかもしれないと。

 だが、竜は平然としていた。

 才蔵以外のあらゆるものに関心が無くなった様子だった。

「さらばだ。下等な人間ども。もう会うことも無いだろう」

 竜の翼が羽ばたいた。

 巨体が宙に浮かぶ。

「あ……才蔵……」

 行ってしまう。

 自分をここまで連れてきてくれた人が。

「あああああああああああああああああああああああああっ!」

 マリーは絶叫した。

 自分の無力さを呪いながら。

 ただ、竜を睨んだ。

 ……怒りで敵を殺せれば良いのに。

 そう思った。

 マリーは生まれて初めて、明確な殺意を抱いた。

 どくり。

 何かが脈打つのを感じた。

 目だ。

 目の周辺の血管がどくどくと脈打ち始めていた。

 冷たい。

 不思議な気分だった。

 血液は温かいはずなのに。

 目が凍りついたかのように冷たかった。

 心まで凍りつくかのよう。

 視界の中、竜が飛んでいた。

 手を伸ばした。

 届かない。

 人の手が天に届くはずが無かった。

 だから、叫んだ。


「私の目を見ろッ! 火竜フレイバーン!」


 竜にとってはか細い呼び声。

 フレイバーンは飛び去りながら、ふと地上を見下ろした。

 見てしまった。

 マリースチュアートの瞳が青く染まっていた。

 その色は、ある時は濁り、ある時は鮮やか。

 フレイバーンには、わからなかった。

 その人間の瞳を、果たして何色と呼ぶのか。

 どうしてもわからなかった。

「バカな……」

 冷たさに足元を見ると、フレイバーンの脚が凍り始めていた。

「凍ってゆく……」

 足元から全身へと氷が広がっていく。

「この俺が、人間ごときに凍らされるなど……」

「!」

 氷が右手にまで届こうとしていた。

 竜の目が大きく見開かれた。

 そこには才蔵が居た。

 氷が才蔵を覆い尽くそうとするその瞬間……。

「逃げろ……!」

 フレイバーンは右手を広げた。

 才蔵が落下していく。

 フレイバーンが才蔵の落下を確認した刹那……。

 全身を氷が覆った。

 凍りついた竜は地上へと落下していく。

 マリーは落ちてくる才蔵を両手で受け止めた。

 屈強な才蔵の体。

 落下速度によって、強烈な重みがマリーの腕にかかった。

 重いとは思わなかった。

 直後、マリーの背後に竜が墜落した。

 轟音の後、砂埃が闘技場を覆い尽くした。

「貴様、何をしたんだ?」

 女王は呆然とマリーを見た。

「フレイバーンを眠らせるなんて……」

 フレイバーンを襲った氷は幻。

 だが、超低温に襲われた火竜は冬眠状態になっていた。

 才蔵から受け取った熱量が無ければ凍死していただろう。

「私、忍者だったんだ」

 気絶した才蔵の顔を見ながらマリーは呟いた。

 ときどき、才蔵がとても大人びて見えることがあった。

 眠る才蔵は、歳相応の青年のように見えた。

「才蔵と同じ……」

 忍者で、魔法使い。

 私は……。

「ニンジャ、ウィザード……」


 大魔導祭、決勝戦。

 炎魔才蔵、マリースチュアート対フレイバーン。

 勝者、炎魔才蔵。そして……マリースチュアート。

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