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一年。

リアルタイムで読んでいる方へ。


一話で地殻変動の時期を十年前と書いて話が破綻するミスが有りました。

二十年前に訂正しました。


他にも年代関連のミスが有るかもしれませんが、

なんとか折り合いをつけて解読してください。

よろしくお願いします。

 才蔵とマリーは保健室に居た。

 再び怪我の治療をするためだった。

「やったな」

「うん」

 既に治療は終わり、二人はベッドに座っている。

 隣同士。

「だけど、自分の無力さを痛感する試合でも有ったわ」

 魔法使いとしての技量は完全に負けていた。

「俺も、自爆に耐えられるよう、もっと体を鍛えねば」

 才蔵は真顔。

 本気でそう考えているようだった。

「そ、それはどうかしら?」

「む」

 頻繁に自爆されては心臓に悪い。

 マリーは苦笑いをした。

「才蔵くん、マリーさん」

 ジョンが入室してきた。

 綺麗な身なりをしている。

 すでに回復を終えているようだった。

「優勝おめでとう。それで、これを君たちに」

 ジョンの右手には杖、左手にはマントが握られていた。

 二人に差し出される。

「才蔵くんには星光のマント」

 二人との試合でジョンが着用していたマント。

「マリーさんには氷帝の杖。位階四十三位の杖だ」

 試合の時、ジョンは練習杖を使っていた。

 だから、マリーはその杖を初めて目にした。

 黒い木杖の下側は尖り、上方は手のように広がっていた。

 その手のような部分に、青い鋭角感の有る宝石がはまっていた。

「良いんですか? こんな高価な物を」

 いつもより高い声でマリーが聞いた。

 両手でしっかりと杖を掴んでいる。

 得たものを逃がすまいとしているかのようだった。

 等級持ちの杖を売れば、一生遊んで暮らせると言われている。

「今の装備で大魔導祭に出るのは、酷ってものだよ。大会が終わったら、ちゃんと返してよね?」

「ちぇっ」

「えっ?」

「いえ、なんでも。それより……」

「どうしてですか? 私達が大魔導祭に出るの、反対だったんじゃ」

「賭けてみたくなったのさ」

 ジョンは晴れやかに言った。

 試合の時に見せた黒い感情は微塵も感じられなかった。

「君たち忍者魔法使いが持つ、ハチャメチャなパワーって奴に」

「魔法忍者です」

 才蔵は訂正した。

 忍者としての誇りがあるのだ。

 それが微笑ましくて、マリーはくすりと笑った。

 だが、ふと笑みが固まる。

(あれ……?)

(私も忍者扱い……?)

 そういうことになった。


 魔術祭は終わった。

 時は夕暮れ。

 マリーと才蔵は、帰り支度のために教室に戻ってきた。

 扉を開け、中を見た。

 何人もが、マリーの机を取り巻いていた。

 ざわざわと騒ぎ、尋常ではない雰囲気。

 クラスメイトの一人がマリーに気がついた。

「マリー……」

 ジニーだった。

 全員がマリーの存在に気づき、入り口を見た。

 皆、青ざめた顔をしていた。

「皆、どうかしたの?」

 マリーの問に答える者はいない。

 ふと、マリーの鼻が、ある臭いを捉えた。

「この臭いは……!」

 マリーが歩き出す。

 人だかりに向かって。

 その先の、自分の机に向かって。

 道を塞ぐクラスメイトを押しのける。

 そして、自分の机を見た。

「……」

 そこには、犬の生首が有った。

 茶色い毛の、中型雑種。

 首の断面の粘液が、マリーの机を汚していた。

 右側には手紙。

 その角が、犬の体液で濁っていた。

「マリーどの、これは……」

「嫌がらせよ」

 何と言っていいのかわからない才蔵に、マリーは冷静に答えた。

「去年も、同じ事が有ったわ」


 一年前の教室。

「イヤアアアアアアッ!」

 マリーは叫んだ。

 マリーの愛犬の首が、机の上に置かれていた。

「ベス……殺すなんて……いや……酷い……」

 マリーの瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれた。

「マリーちゃん、その……」

 クラスメイトのアデルが気まずそうに話しかけた。

 慰めようとでもしたのだろう。

 だが、返ってきたのは敵意の視線だった。

 やり場のない怒りがマリーを支配していた。

「誰……?」

「誰って、私達は……」

「あんた達の誰かなんでしょう?」

「誰よっ! 白状しなさいよっ! 卑怯者っ!」

 マリーはひたすらに自らの怒りを振り回す。

 右手の杖を大きく薙いだ。

 あやうく周囲の誰かに当たるところだった。

 同情していた者の中に、反感の視線を持つ者が出始めた。

「落ち着けマリー!」

 リンカーンがマリーを静止した。

 確かにマリーは被害者かもしれない。

 だが、これでは全員を犬殺し扱いしたようなものだ。

 このままでは、誰からも愛されない加害者に堕す。

 リンカーンに止められ、マリーの怒りは沈静化した。

「私が……」

「え?」

「水穂人の血を引いているから?」

「マリー……」

 リンカーンは何も言えなかった。

 純血のイーグルランド人には彼女の人生はわからない。

 気休めなら言えるかもしれない。

 だが、口が動かなかった。

 マリーはすすり泣き、後には悲しみだけが残った。

 それから、マリーは学内で孤立するようになった。

 変わらずに話しかけてくれる者は居た。

 変わったのはマリーの方だった。

(この人が犯人かもしれない)

 そう思うと、自然と態度が固くなった。

 他人に気を許す事が出来なくなっていた。

 満足に談笑する事も出来ない。

 結果、皆がマリーから去った。

 マリーは一人になり、勉学にうちこむようになった。

 終には学年主席になる。

 どれだけ良い成績をおさめても、マリーは一人だった。


 そして、今。

「あの時は、退学しろって手紙に書いてあった」

「今度は、大魔導祭への出場を辞退しろ、か。ハァ……」

 気だるそうにマリーはため息をついた。

 動揺している様子は無かった。

「皆」

 マリーはクラスメイトに声をかけた。

「な、何?」

 以前の事件に出くわしているだけに、皆の体が強張った。

「私のせいで不快な思いをさせてしまって、ごめんなさい」

 マリーは深々と頭を下げた。

「マリー……」

 クラスメイトはマリーの言葉にぽかんとした。

 マリーは成長していた。

「手伝うよ。色々」

「うん。ありがとう」

 死臭の漂う教室に、笑顔が生まれていた。


 学校の裏庭に、マリーは犬を埋めた。

 才蔵は、犬の墓に線香を立てた。

 火をつけると、独特の香りが広がった。

「南無」

 両手を合わせて才蔵は頭を下げた。

「水穂のお葬式って、そうするんだ」

「略式だ」

「ふ~ん」

 才蔵を真似てマリーも手を合わせてみた。

「犯人は多分、本家のおじいさま」

 揺らぐ線香の煙を見ながらマリーが口を開いた。

「む?」

「おじいさまの字は、何度も見たことが有るし、あの人は私に、貴族になって欲しくないのよ」

「貴族?」

「言わなかった? 私、大魔導祭で優勝して、貴族になるつもりなの」

「病で亡くなったお父様は貴族だったんだけど、水穂人の娘に家は継がせられないって……」

「スチュアートの分家は取り潰しになったの」

「水穂人との混血が報われる世界。それが、女王陛下に叶えてもらいたい、私の望み」

「敵の多い望みだ」

 才蔵が言った。

「そうね。正しくは無いのかもしれない」

 水穂人との混血など、ほんの僅か。

 少数派のために社会の仕組みを変えるなど、反対する者が多いのも道理だ。

「だけど、誰にだって意地が有る。そうでしょう?」

「そうだな。俺もそうだ」

「だけどちょっと、肩肘張りすぎたみたい」

 そう言って、マリーは才蔵に体を寄せた。

 マリーの肩が才蔵に触れた。

「マリーどの?」

「もうちょっと肩の力が抜けてたらなぁ……」

「手紙の主がおじい様だって、すぐに気付けていたのかしら」

「もっと早くに、編入してきたら良かったのに。才蔵」

 マリーが甘えるような声を出したのは、初めての事だった。

「人の縁は、なるようにしかならん」

 才蔵の声音は変わらない。

 内心では、少し動揺していた。

「え~?」

「……」

「才蔵は、女王陛下に何を願うの?」

「俺は……。む?」

 才蔵は仏頂面のまま固まった。

「才蔵?」

「俺は何も欲しくない」

「フフッ、変なの」

「変だろうか?」

 才蔵は目をぱちくりさせながらマリーを見た。

「うん。変だわ」

 とても変よ。

 マリーは微笑みながら才蔵を見ている。

 才蔵は、居心地が悪くなって目を逸らした。

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