表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/18

才蔵の最強魔法。

 蛍火の追想が終わった。

 才蔵と同じ過去を、蛍火も思い返していた。

 そして、決意を新たにする。

(私は変わった)

(強くなった)

(主を守る力を得るために、表情すら捨てた)

(その私が、才蔵どのに負けるなど有り得ない)

(私にとって、忍とは主を助けるもの)


(主より弱い忍に、存在意義など無いのだから)


「私が蛍火ちゃんとやろうか?」

 マリーが提案した。

「いや、どうやらあいつは俺が目当てらしい」

 二対二の戦い。

 だが、蛍火の目は才蔵しか見ていなかった。

「大丈夫なの? 忍術が通用しないのに」

「まだ奥の手が有る」

「わかった」

「試合開始!」

 審判が告げた。

 刹那。

 蛍火が手裏剣を放つ。

 二つの手裏剣はマリーへと向かった。

(手裏剣……?)

 マリーは呆気にとられた。

 魔法陣の中では物理攻撃は通用しないのに。

 被弾する直前、マリーは自分の考えの甘さを知った。

(これは……!)

「きゃっ!」

 手裏剣が弾けた。

 脚に爆撃を受け、マリーは悲鳴を上げた。

「マリーどの!」

 安否を気遣い才蔵がマリーを呼んだ。

「今のはなんですか?」

 実況のガイが解説のまことに尋ねた。

「呪符です」

「札に呪文を書きこむことで、杖が無くても魔法を発動させる事が出来ます」

「なるほど」

「製作に時間がかかるので、乱用出来ないのが弱点ですね」

 爆風の直撃を受けたマリーが膝をついた。

 蛍火とリンカーンが同時に杖を掲げた。

 マリーを狙っていた。

「させん!」

 杖から雷が放たれた。

 マリーを貫く直前、才蔵は跳んだ。

 マリーを抱きかかえ、さらに跳ぶ。

 才蔵の背中を雷が掠めていった。

「ありがと。MAGICCHARGE」

 才蔵の腕の中、マリーは唱えた。

 通常、人は魔力回路の太さまでしか魔力を扱えない。

 膨大な魔力を体内に確保するための魔法だった。

 一方、蛍火たちはさらに魔法で追撃をしかけた。

 だが、迫り来る火を、氷を、才蔵は難なくかわしていく。

「なんちゅー身のこなしだ」

 連発しても無駄だと悟り、リンカーンは杖を下げた。

「私だって、あのくらい出来ますけどね」

 蛍火は、才蔵より有能だとアピールする事に余念がない。

「どうすんの?」

「そうですね……」

 一瞬の沈黙。

「肉弾戦……!」

 リンカーンを置き去りに、蛍火は突出した。

「何よ……!」

 蛍火の余裕が気に食わず、マリーは睨んだ。

「こっちも準備は出来てるのよ!」

 マリーが杖を構えた。

「CHARGEOFF」

「METEORRAIN!」

「MAGICCHARGE」

 チャージ解除、攻撃魔法発動、チャージ再開。

 三つの呪文がなめらかに唱えられた。

 隕石を出現させる呪文。

 蛍火の頭上に、5つの隕石が降り注ぐ。

「蛍火ちゃん!」

 リンカーンが蛍火を呼んだ。

 一撃で戦闘不能になりかねない、強力な魔法だった。

 蛍火は無言で空を見上げた。

 そして、唱える。

「HIGHREPULSION」

 不可視の力場が発生した。

 隕石が蛍火を押しつぶそうとしたその瞬間……。

 力場は隕石の軌道を変え、それぞれを蛍火の周囲に落下させた。

 地面に激突した隕石は、砕け消える。

 その中央に、蛍火は無傷で立っていた。

「うそ、タメも無しに、私の魔法を……」

「入学して半年の……蛍火ちゃんが……」

 自分が使えるなかでも最高級の魔法だった。

 それを容易くいなされては、マリーには既に打つ手が無い。

 頭が真っ白になり、手が止まってしまう。

 その隙を、蛍火が見逃すはずも無かった。

 駆ける蛍火に対し、才蔵の動きも遅れる。

 蛍火の左手に、短刀が握られていた。

「くっ!」

 マリーがやられる。才蔵はそう判断した。

 蛍火に背を向ける。

 マリーを蛍火から遠ざけようとしたのだ。

 結果……。

「お~っと、蛍火選手の短刀が突き立てられた~ッ!」

 実況が絶叫した。

 短刀には、呪符が巻かれている。

「ニンジャ!」

 マリーが叫んだ。

「ぐあああっ!」

 才蔵の背中で爆炎が上がった。

「終わりです」

 蛍火が杖を構えた。

「……終わらんよ」

 背中を負傷しながらも、才蔵は冷静だった。

 痛みの動揺を一瞬に押し潰していた。

 幼き日の修業の成果だった。

「悪い。マリーどの」

 才蔵は、腕の中のマリーを放り投げた。

 素早く反転し、上体を傾けて、蛍火の魔法をかわす。

 さらに右手で蛍火の肩を掴み、押し倒した。

 蛍火にとって、この攻勢は予想外だった。

 彼女は痛みに耐える修業をしていない。

 それまでに里が滅びたからだ。

 修業の内容は知っていた。

 修業を乗り越えた者が何になるのかは知らなかった。

 それ故に、怯まない才蔵に虚を突かれた。

 馬乗りになった才蔵は、手と杖で蛍火を押さえ込んだ。

 蛍火は平然としていた。

「組み敷いたところで、あなたの魔法では」

 自分を倒せるはずもない。

 何をされても痛くも痒くもない。

「死ぬなよ。蛍火」

「え……?」

 予想外の言葉に、思わず聞き返していた。

 死ぬなよ。

 目の前の男は、今、そう言ったのか。

 才蔵の瞳からは気遣いが感じられた。

 心の底から蛍火の身を案じている。

 何なのだ……。

 蛍火の心中に、初めての焦りが生まれた。

 そして、才蔵が、口を開いた。

 呪文。


「ふぁいあぼると」


 鼓膜を引き裂くような爆音。

 膨大な火力が試合場を蹂躙した。

 熱気に顔面の粘膜を炙られ、リンカーンは顔を伏せた。

「才蔵! 蛍火ちゃん!」

 近距離で放てば屈強な忍者も気絶させる、ふぁいあぼるとの魔法。

 赤雷の杖によって増幅されていた。

 以前とは異なる、殺人級の爆発。

「クソ……やりすぎだろ才蔵」

 リンカーンは呻いた。

「う……」

 爆風に吹き飛ばされたマリーはなんとか顔を上げた。

 すぐ隣で、審判のタイニーファングが気絶していた。

 おそらくは減給だった。

 爆心地を見る。

 炎は収まり、もくもくと砂埃が舞っている。

 その中に、誰がか立っているのが見えた。

「ニンジャ?」

 マリーは相棒を呼んだ。

 彼が蛍火を倒したのだろうと。

 だが……。

「蛍火ちゃん……!」

 才蔵は倒れ、蛍火は立っていた。

 爆風によって、ローブはボロボロになっている。

 制服の下から素肌まで覗いていた。

 顔中に擦り傷や火傷が見える。

 それでも、毅然として蛍火は立っていた。

 蛍火は、袖から一本の短刀を取り出した。

 屈み込み、刃を才蔵に押し当てる。

 首筋。

 動脈を斬れば、人は死ぬ。

 蛍火は、じっと才蔵の首を見た。

 自分の短刀が有った。

 それを確かめるように、何度も瞬きをした。

 そして、大きく目を見開いて言った。

「勝った……才蔵さまに……」

 手が震え、短刀を落とす。

 そして言った。

「どうです才蔵さま。私は強いでしょう?」

 マリーの目に、蛍火の笑顔が映った。

 美しい笑顔だった。

 マリーは彼女が笑うのを初めて見た。

「私は……」

 蛍火の体が揺らいだ。

 倒れていく。

 才蔵の体に折り重なるように。

 その光景に、マリーの両眼は引き寄せられる。

 だが……。

「なんと! 両者ノックアウト! これで一対一だぁ~っ!」

 実況の声に、マリーは自分のするべき事を思い出した。

「CHARGEOFF」

「HEALWIND」

 癒しの風に黒髪を靡かせ、彼女は立ち上がる。

 そこから十メートル前方に、リンカーンが立っていた。

「どうせなら、才蔵とやりたかったよ」

 リンカーンがぽつりと言った。

「一人足止めにしてって」

「え?」

 マリーの言葉の真意が掴めず、リンカーンは尋ねた。

「一人足止めにしてくれたら、あとは、全部私がやるからって」

「そう約束したの」

 それが、このザマだ。

 このままでは済まされない。

 マリーの両眼がそう語っていた。

「そう。俺には、男の意地くらいしか無いな」

 つまらなさそうな目で、リンカーンはマリーを見返す。

「一年、か」

 リンカーンの呟きを、マリーは聞き取れなかった。

「何?」

「いや。ケリをつけるとしよう」

 二人同時に杖を構えた。

「FIREBURST!」

 タイミングも、唱える呪文も同じだった。

 二人の杖から巨大な火球が放たれた。

 中央でぶつかり合う。

 二つの火球はお互いを弾き合った。

 やがて、均衡は崩れる。

「!」

 押し勝ったのは、リンカーンの方だった。

 火の玉がマリーに襲いかかる。

 着弾。

 マリーが立っていた場所で、火球は爆裂した。

「……」

 リンカーンは無言でそれを見ていた。

「FIREBOLT」

 真横から声がした。

 マリーが杖を構えていた。

 ローブの裾が焼け焦げている。

 炎の矢が、リンカーンのこめかみを抉った。

「どうしてそこに居る」

 倒れながら、リンカーンが尋ねた。

「頑張って走ったのよ」

「そうか」

 走ったのか。

「鍛えすぎだろ、お前ら……」

 大の字になり、リンカーンは空を見た。

 太陽が出ている。

 夏の強烈な日差しと比べると、なんとも頼りない。

 立ち上がれなかった。

「勝負あり! 勝者、マリーアンド才蔵ペア!」

 実況によって決着が告げられた。

 審判が気絶していたからだ。

 ただ一人、マリースチュアートが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ