表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏と表!!  作者: ADA
1/4

1話

 今日、春だが桜が散っている5月、俺の親友が振られてしまった。

 そして、あの人と出会った。

 

――――事は昼休みにさかのぼる。

 俺の親友、青木あおき かいは、学園の良心と呼ばれ、全盛と憧れの的の春日かすが さくらに一世一代の告白をしに行った。

 「じゃあ虎! 俺は彼女を手に入れてくるぜ!」

 「振られたら飯ぐらい奢ってやるよ」

 「クラスも高校1年の時は一緒だぜ? そしてあのビンビンと出してくる好感の電波で振られるわけねーべ」

 「どっから沸きやがる……その自信は」

 「桜さんの俺への接し方が違うんだよ。そんなんだからお前は童貞なんだ!」

 「んぐ……っげっほ、ごっほ……どど……童貞じゃねーし! というか、お前もだろうが!」

 「あーっはっはっは! アディオス、俺の童貞!」

 どうせだったら、こいつは罵倒されて盛大に振られる方がいいと思うな、絶対。

 ちなみに、海は既に早弁で弁当を終えて、トイレにて身だしなみをキチンと整えてきたらしい。

 俺は喉詰まった惣菜パンを流そうとお茶を飲みつつ、何度も制服のブレザーをチェックしている海を見つめる。

 「でも、春日さんは誰にでもあんな感じだろう?」

 そう、春日 桜は、誰にでも優しくかつ美人なので男は皆、自分のことを好きだと勘違いする。

 だから、実際に誰かを振った話は聞くが、春日さんに彼氏が出来たというのはUFO見たというより現実味が無いのだ。

 「黙れ童貞!! へへっ、後で吠え面かかしてやりますよ」

 「けど実際自信が無いから、俺にしか告白することは言ってないんだろう?」

 「……何を言ってやがるんですか?」

 図星だったようで、顔は苦虫を噛み潰したような顔だ。

 実は、俺はこういう人の本質や嘘など見抜くのが少し得意なのである。

 「言った意味、そのままだけど?」

 「ふざけるなよ、2重人格者! 馬に蹴られて溝にはまって泥まみれになれ!」

 そういうと海は指定した中庭の待ち合わせ時間より、15分早く開き教室を出て行った。

 「……ただ少し世渡りが上手いだけだっての……それにしても春日……ねぇ?」

 俺はぶつぶつと誰も居ない静かな教室で独り言を呟いた。

 そうして、飯を食べてから俺は教室に戻り、当たり障りの無い会話をクラスメイトと繰り返す。

 「昨日のもじゃもじゃTV見た?」

 「実は見てないんだよ。どうだった?」

 「取り敢えず、相変わらずのもじゃもじゃ具合だった」

 「残念だったな、俺も見てみたかったよ」

 というか、そんなふざけたテレビ番組すぐ打ち切りになるだろうが!

 と内心で、ツッコミを入れつつ適当に相槌を打つ。

 チラッと海の席を見て帰ってきているか姿を確認しようと……ん?

 傍から見ると、そこだけ深海のような空気になっていた、俺はクラスメイトに謝りつつ会話を中断して海に近寄っていく。

 「どうした? 話し聞くから少し面貸せ」

 こんにゃくみたいに力の入って居ない海の体を俺は引っ張りつつ、先ほどの人気の無い教室まで引っ張る。

 幸い休み時間はまだ残っているので少しは話が出来るだろう。 

 そして、この1人だけ深海に居る原因の見当がついてしまうのが、なんとも居た堪れない。

 しかし、俺が聞いてやらないで誰が聞くのだろうか、俺は話を切り出した。

 「んで? 春日さんなんだって?」

 「ごめんなさい、海君とは大切なお友達で居たいのよ……だってよ……」

 きっと、傷つけないようにだろうが、テンプレート過ぎるそのお断り台詞は、逆に傷付いてしまいそうだ。

 「アディオス、俺の童貞なんていってるからだろうが!」

 「ヘロー童貞……ちくしょうううう!」

 海は、へなへなと一瞬あげた顔を再び机に突っ伏した。

 しかし、今まで数多の恋愛相談を受けてきたが、春日さんの相談に限ってお断り台詞が全部一緒。

 自然だが、不自然、まさにそんな言葉が当てはまる。

 春日…あいつ……臭うな、体臭とかじゃないんだけどな。なんだろう怪しい? ってのかな?

 しばらく海を慰めつつ、一先ずだが、午後の授業のために教室へ戻った。


 

 そして、1日の授業を終えて放課後。

 「さようなら、美作みまさか君!」

 「さようなら!」

 「ばいばーい、虎君!」

 「じゃね!」

 にこやかに、爽やかにをモットーとした挨拶をクラスメイトに一通りし終えてから、靴箱に行ってみたが残念な事に、海の靴が無いので、今日は1人で帰宅しなければいけないようだ。

 腕時計に目をやるとまだ、帰るには早い時間。

 どうせ帰っても暇なので、校舎をぶらつくことにする。屋上とかどうだろうか。

 普段あまり足を伸ばさない場所なのだが、なんだか今日向かう気になった。

 ゆっくりと、階段をのぼり最上階へ、そして重く古いドアを開ける。

 「あー取り繕うのって面倒ね」

 やる気の無い、そんな声が聞こえてきた。

 幸い相手は、俺が入ってきたことに気付いていないのか、まだぐちぐちと文句を垂れている。

 サッと俺は相手の位置から死角になっている壁に隠れて、耳を澄ます事にした。

 「授業も面倒だし」

 なんだ……? この声……どこかで聞き覚えがある。

 盗み聞きなんて趣味ではないが、この声の主が気になったので今度は、じっくりと聞いてみる。

 「毎回、毎回テンプレのお断り台詞を言うのもいい加減飽きたわね……。はぁ……」

 まさか……まさか……いや、どこかでこういう可能性を想像していたのだろうか。

 この声の持ち主は、間違えようが無い、そう春日 桜だ。

 しかし、ここは撤退が吉だな、俺はそう思い、またばれない様にドアに向かう。

 「美作みまさか 虎太郎とらたろう……あの人少し私と同じにおいがするのよね」

 唐突に自分の名前が呼ばれたことに、心臓がドクン、ドクンと高鳴る。

 名前を呼ばれた嬉しさではない、まるで見計らったようなタイミングに俺は驚いたのだ。

 ズサッと、自分のスリッパが音をたてる。

 「ん? どなたかいらっしゃるのかしら?」

 これは……色々とまずいぞ……。

 思考をフル回転させて、1つの結論に至った。

 顔を見られないように……駆け抜けるだけだ!

 バッと壁から姿を現して、相手の角度から顔が見られないようにブレザーで隠し、俺は駆けだした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ