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メンヘラストーカー製造機の私が転生したら、異世界でもその才能を発揮してしまう。最強公爵令嬢はイケメン騎士と結婚したい!セントハート王国編

作者: ちあき
掲載日:2026/11/04



『第一章 男を夢中にさせてしまう女』




私の名前は瀬戸愛奈。


日本で暮らしていた頃、私はよく『いい女だよね』と言われていた。


容姿にはそれなりに自信があったし、人と話すのも得意だった。相手の気持ちを察することもできたし、気配りだってできる。


男性から好意を寄せられることも多かったけれど、私は男性に媚びることが嫌いだった。



好きなものは好き。嫌なものは嫌。



相手がどれだけ格好よくても、お金持ちでも、私の意思を曲げるつもりはなかった。


付き合っている間は、相手を大切にする。

でも、別れると決めたらきっぱり別れる。

それだけのことだった。



ところが、私と付き合った男性たちは、なぜか別れた後におかしくなってしまう。



最初は普通に別れ話をしていたはずなのに、次第に連絡が増えていく。

何度も電話をかけてきたり、家の前で待っていたり、私の行動を調べたり。



「愛奈がいないと生きていけないんだ!」


「俺を捨てるなんて許さないぞ!」



そんな言葉を聞くたび、私はうんざりしたし、私は誰かの所有物ではない。

付き合っていたからといって、相手の人生を背負う義務もない。

もちろん、全員がそうなったわけではない。


でも、私と別れた男性の何人かは、まるで別人のように変わってしまった。



友人からは冗談交じりに言われたことがあった。


「愛奈って、メンヘラ製造機だね!」


「やだ、そんな才能いらないんだけどぉ」

私は笑って返した。





そんなある日、私は仕事帰りに事件に巻き込まれてしまった。


以前付き合っていた男が、私の帰り道で待ち伏せしていたのだ。


「愛奈。ちょっと話をしよう」


「無理、もう話すことなんてないよ」


「どうしてだよ。俺たち、あんなに仲よかったじゃないか!」


「だから!別れたでしょ。もう連絡しないでって何度も言ったよね」


「俺はまだ好きなんだ!」


「それはあなたの自由。でも、私に押しつけないでよ!」


男性の表情が歪んだ。

「俺をこんな風にしたのは愛奈だろ!」


「あなたが自分で選んだことでしょ」




その瞬間、男性が懐から刃物をスッと取り出す。




私は咄嗟に逃げようとしたけれど、間に合わなかった。



腹部に鋭い痛みが走る。熱い。


「……っ!」


「愛奈、愛してるんだ。俺だけを見てくれよ」




私は地面に倒れ込みながら、ぼんやりと夕暮れの空を見上げた。



どうして、こんなことになるのだろう。



好きになってほしいなんて頼んでいない。



愛してほしいと強要したこともない。



ただ、自分の人生を自分で選びたかっただけなのに。




視界が暗くなっていく。


最後に思ったのは、もう二度とこんな人生はごめんだ、ということだった。




〜〜〜〜〜




『第二章 目覚めたら、最強の公爵令嬢でした』




目を覚ますと、私は見知らぬ天井を見上げていた。

天蓋付きの大きなベッド。豪華な家具。

窓から差し込む柔らかな日差し。


そして、私の周りには見知らぬメイド服を着た女性たちが立っていた。


「メイサ様!お目覚めになられたのですね!」


「……メイサ?」


「はい。メイサ・レーンシュタイン様でございます」


その名前を聞いた瞬間、頭痛と共に頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。


「うっ…」




ここはセントハート王国。

私はこの国でも有数の名門であるレーンシュタイン公爵家の長女、メイサだ。


レーンシュタイン公爵家は代々優秀な当主、それも女傑を輩出してきた家柄で、現在の当主も女性だった。



そして私は、その次期当主として育てられている。

剣術も魔法も優秀。

学問や政治、領地経営に関する知識も十分に身につけている。


この世界での私は、まさに何でもできる公爵令嬢だったのだ。



「……なるほど」



「メイサ様?」


「少し、一人にしてくれる?」


「かしこまりました」


侍女たちが部屋を出ていく。

私はベッドから起き上がり、鏡の前に立った。


そこには、長い銀色の髪と澄んだ青い瞳を持つ美しい少女が映っていた。

前世の私も容姿には自信があったけれど、今の姿はそれ優位に上回るものだった。



しかも、剣も魔法も一流。

家柄も申し分ない。


「……今度こそ、誰にも振り回されずに生きられそうね」


そう思ったとき、ふと一つの記憶が浮かんだ。



私には婚約者がいる。

名前はアールハイド・ランス。


ランス公爵家の次男で、将来は我がレーンシュタイン公爵家に婿養子として迎え入れられるであろう。


彼は優秀で、容姿も整っている。

そして何より、優しい男性だった。


幼い頃から交流があり、私たちはお互いに好意を持っていた。


「婚約者か……」


前世の経験を思い出すと、少しだけ不安になる。

でも、今の私は自分の力で何でもできる。

相手に合わせて無理をする必要もない。



私は新しい人生を楽しむことにした。




〜〜〜〜〜




『第三章 優しくて、素敵な婚約者』




数日後、私は婚約者のアールハイドと会うことになった。


場所はレーンシュタイン公爵家の庭園。

約束の時間になると、金色の髪をした青年がこちらへ歩いてきた。


「メイサ。体調はもう大丈夫なのか?」


「ええ。心配をかけたわね」


「よかった。君が倒れたと聞いたときは、本当に心配したんだ!」


彼は私の手を優しく握った。

その表情には、心から私を気遣っている様子があった。


アールハイドは優秀な男性だ。

剣術も魔法も高い水準にあり、学問にも優れている。

ただ、私の能力には少し届かない。


それでも十分に優秀で、誰からも将来を期待されている人物だった。


「アールハイドも元気そうね」


「ああ。君に会えると思って、今日は朝から落ち着かなかったんだ」


「ふふっ。大げさね」


「大げさじゃない。本当に君が好きなんだよ!」

彼は迷いなくそう言った。

その真っすぐな言葉に、私は少しだけ頬を赤くした。



前世では、恋人に好きだと言われることは何度もあったけれど、今の彼の言葉には、嘘や駆け引きが感じられない。


「私も好きよ」


「……本当か?」


「ええ」


彼は嬉しそうに笑った。

「君と結婚できる日が待ち遠しい」


「まだ婚約者なのだから、気が早いわ」



「そうだな。でも、僕は君を幸せにしたい」



その言葉を聞いて、私は思った。

今度こそ、素敵な恋愛ができるかもしれない。



しかし、このときの私はまだ知らなかった。


彼の愛情が、少しずつ形を変えていくことを。




〜〜〜〜〜




『第四章 愛情が、束縛に変わる』




最初の変化は、ほんの些細なことだった。

アールハイドからの手紙や贈り物が増えてきたのだ。


それ自体は嬉しかったけれど、次第に内容が変わっていった。


「今日は誰と会っていたんだ?」


「領地の関係者よ。商談の打ち合わせをしていたの」


「男性もいたのか?」


「もちろん。仕事なのだから、男性も女性もいるわ」


「できれば男性とは二人きりにならないでほしい」


「そんなことを言われても困るわ…」


「君を心配しているんだよ」


最初は心配してくれているのだと思ったけれど、それは次第に命令へと変わっていく。



誰と会うのか。


どこへ行くのか。


何時に帰るのか。


何を着るのか。



彼は私の行動を細かく知りたがるようになった。

そして、婚約者として会うたびに、以前よりも強く身体を求めるようになった。




ある日のこと。


二人きりになった部屋で、アールハイドが私の肩を抱いた。


「メイサ。今夜はこのまま一緒に過ごそう」


「今日は帰るわ」


「どうしてだ?」


「疲れているの。それに、私たちはまだ婚約者よ」


「もうすぐ夫婦になるんだ。何も問題ないだろう?」


「私は嫌だと言っているの!」


「……僕のことが好きではないのか?」


「好きかどうかと、今あなたの望みを受け入れるかどうかは別の話よ!」



彼の表情が変わった。


「僕は君の婚約者だぞ」


「だから何?」


「僕がどれだけ君を愛しているか分かっているだろう!」


「愛しているなら、私の意思を尊重してよ!」


「君はいつもそうだ。僕の気持ちを考えてくれない….…」


「考えているわ。でも、あなたの望みを全部聞くことはできない」



アールハイドは私の腕を強くつかんだ。


「離してっ!」


「君は僕のものだッ!!」


その言葉を聞いた瞬間、前世の記憶がよみがえってくる。


私を好きだと言いながら、私の意思を無視した男たち。別れを告げた途端、私を憎み、執着した男たち。


「私は誰のものでもないわ」


私は彼の手を振りほどいた。


「メイサッ!」


「今日は帰るわ。アールハイド、頭を冷やして」


彼は何か言いたそうだったが、私は振り返らなかった。




〜〜〜〜〜




『第五章 私を屈服させたい男』




それからアールハイドは、以前とは別人のようになっていった。


私が男性と話していると不機嫌になる。

鍛錬場に行けば、誰と訓練していたのか尋ねてくる。

私が予定を伝えずに出かけると、何度も手紙を送ってくる。


そして、ついに彼は私の能力について口を出すようになった。


「君は少し、自分の力を過信しているんじゃないか?」


「急にどうしたの?」


「女性なのだから、もう少ししとやかになってもいいだろう」


「私が何をしたというの?」


「剣術でも魔法でも、いつも僕より上に立とうとする」


「勝負をしているわけではないでしょう?」


「僕は君の婚約者だ。君を守る立場にいる」


「守ってほしいと頼んだことはないわ」



その言葉が、彼の自尊心を傷つけたのだろう。



「君は僕を見下しているのか?」


「そんなことは言っていないわ」


「ならば証明してみせる。僕が君より強いと!」



彼は剣を手に取った。

「勝負をしよう。剣でも魔法でもいい。僕が勝ったら、君は僕の言うことを聞くんだ!」


「何を言っているの?」


「君には少し、思い知らせる必要がある」


私は彼を見つめた。

かつて好きだった男性が、今は私を力で従わせようとしている。


「いいわ。勝負しましょう」


「本当にいいのか?」


「ただし、条件があるわ」


「……何だ?」


「私が勝ったら、婚約を解消すること。今後、私の意思を無視して近づかないこと」


「な、なんだと!?……分かった。いいだろう」


彼は勝つことしか考えていないようだった。

私は静かに息を吐いた。



この勝負で、私たちの関係に決着をつける。




〜〜〜〜〜




『第六章 最強の公爵令嬢』




勝負の日。


レーンシュタイン公爵家の訓練場には、両家の関係者が集まっていた。


アールハイドは自信に満ちた表情で剣を構えている。

対する私は、いつも通り落ち着いていた。


「それでは、剣術の勝負を始めます!」


審判の開始の合図と同時に、アールハイドが踏み込んできた。



速い。



さすがはランス公爵家の次男だけのことはある。

しかし、私には動きが見えていた。


剣を受け流し、足元を払う。


「くっ!」


彼は体勢を立て直し、再び斬りかかってきた。


私は一歩下がり、剣先を彼の喉元へ向けた。


「勝者、メイサ様!」


周囲からどよめきが起こった。

アールハイドは悔しそうに唇を噛んだ。


「まだだ!魔法で勝負しよう!」


「構わないわよ」




次は魔法の勝負だった。


彼は強力な炎の魔法を放つ。

私は水と風の魔法を組み合わせ、炎を包み込むように消し去った。


さらに地面から魔力の壁を生み出し、彼の足元を封じる。


「なっ……!」


「勝者、メイサ様!」


アールハイドの二度目の敗北。

彼は呆然と立ち尽くしていた。


「これで約束は守ってもらえるわね」


「どうして……」


「何?」


「どうして君は、いつも僕より上なんだ!」


彼の声が訓練場に響いた。


「僕だって努力してきた!君にふさわしい男になるために!」


「努力してきたことは知っているわ」


「なら、どうして僕を立ててくれない!」


「私はあなたのために、自分を小さくするつもりはないわ」


「君は僕の婚約者だろう!」


「だからこそ、対等でいたかった。でも、あなたは私を従わせようとした」


「……」


「もう終わりにしましょう」


私は彼に背を向けた。

その日、両家の話し合いによって婚約は正式に解消された。



これで私はようやく自由になった。



そう思っていた。



〜〜〜〜〜




『第七章 愛が重すぎる元婚約者』




婚約を解消してから数日後。

私の屋敷に、アールハイドから大量の贈り物が届いた。花束、宝石、ドレス、手紙。

どれも高価なものばかりだった。


そして、手紙には何度も同じ言葉が書かれていた。


『愛している』


『もう一度やり直したい』


『君のためなら何でもする』


私はそれらをすべて送り返したが、次の日にはまた贈り物が届く。


さらにその翌日には、屋敷の前で彼が待っていた。


「メイサ!どうして会ってくれないんだ!」


「婚約は解消したわ。もう会う必要はないでしょう?」


「僕はまだ君を愛している!」


「それはあなたの自由よ。でも、私に関わらないで」


「君だって僕を好きだったじゃないか!」


「ええ。以前は好きだったわ」


「なら、もう一度好きになってくれ!」


「無理よ」



彼は私の手を取ろうとした。

私は一歩下がる。


「どうしてだ!僕は君のために変わろうとしているんだ!」


「変わるというなら、まず私の意思を尊重して」


「それでは意味がないっ!」


「あなたにとっては、私が言うことを聞くのが愛なのね」


「……」


彼は答えなかった。




その後も、彼の行動はエスカレートしていった。


私が出席する夜会には必ず姿を現す。


私が街へ出かければ、偶然を装って現れる。


私の周囲にいる男性を調べ、誰と親しいのかを探ろうとする。


さらには、私が購入しようとしていた土地の契約を邪魔したり、取引先に余計な話を吹き込んだりした。

それでも彼は、私に会うたびに愛を語る。


「君のためにやったんだ」


「私のため?」


「君が他の男と関わらないようにしただけだ」


「あなたのしていることは嫌がらせよ」


「愛しているからだ!」



私は深くため息をついた。

愛していると言えば、何をしても許されると思っているのだろうか。




前世と同じだ。



私はもう、こんな男に振り回されるつもりはなかった。




〜〜〜〜〜




『第八章 再び現れたライバル』




そんなある日、王宮で開かれる夜会に出席した。


そこで、懐かしい顔を見つけた。


レオンハルト・アシュフォード。


アシュフォード公爵家の長男であり、次期当主。


彼とは高等学校時代の同級生だった。

そして、当時の私たちは男女それぞれの主席だった。

レオンハルトは剣術も魔法も優秀で、学問にも秀でていた。


私と彼は何度も鍛錬で競い合った。



一方、アールハイドは彼を強く意識していた。

ランス公爵家とアシュフォード公爵家は、長年にわたって競い合ってきた家同士だったからだ。


レオンハルトとアールハイドは、学校でも何かと張り合っていた。


「久しぶりだな、メイサ」


「レオンハルト!本当に久しぶりね」


「元気そうでよかったよ」


「あなた、防衛戦で重傷を負ったって聞いたけど大丈夫だったの?」


レオンハルトは苦笑いしながら答えた。


「君の耳にも入ってしまったか、だが問題ないよ。完治している」



その笑顔を見た瞬間、学校時代の記憶がよみがえった。



彼はいつも私の努力を認めてくれた。

私が勝てば心から称賛し、彼が勝てば次は負けないと笑っていた。


そして、私が困っているときには、さりげなく助けてくれる人だった。


「婚約を解消したと聞いた」


「ええ。少し事情があってね」


「そうか……」


彼は一瞬だけ表情を曇らせた。


「実は、昔から君に伝えたいことがあった」


「何?」


「僕は、君が好きだった」


「えっ……」


「高等学校にいた頃からだ。だが、君にはアールハイドがいた。だから諦めていた」


「そうだったのね」


「今も、その気持ちは変わっていない」


彼は私の目を真っすぐに見つめた。


「もし君が嫌でなければ、これから君のそばにいさせてほしい」


その言葉は、とても自然だった。

私の答えを急かすこともない。

ただ、自分の気持ちを伝えてくれている。


「ありがとう。少し考えさせて」


「ああ。もちろんだ」



そのやり取りを、少し離れた場所から見ている人物がいた。



アールハイドだった。




〜〜〜〜〜




『第九章 嫉妬に狂う元婚約者』




夜会が終わった後、私は王宮の回廊を歩いていた。

すると、背後から足音が聞こえた。



「メイサッ!」


振り返ると、彼が険しい表情で立っていた。


「何か用?」


「レオンハルトと何を話していた?」


「あなたには関係ないわ」


「関係ないわけがないだろう!」


「もう婚約者ではないのよ」


「どうしてアイツなんだ!」


「何を言っているの?」


「レオンハルトは昔から僕を見下している!君まであいつを選ぶのか!」


「私は誰を選ぶか、自分で決めるわ」


「君は僕のものだっ!」


「何度言えば分かるの?私は誰のものでもない!」



彼は私に近づいてくる。

その目には、以前の優しさは残っていなかった。


「君がアイツと結婚するなんて許さないぞ!」


「許可をもらう必要はないわ」


「僕のことを愛していたくせに!」


「過去の気持ちを理由に、今の私を縛らないで!」


「レオンハルトに近づくな!」


「嫌よ」



私は彼の横を通り過ぎようとした。

すると、彼が私の腕をつかんだ。


「離しなさい」


「嫌だッ!」


「今すぐ離して!」


「僕は君を諦めない!」




そのとき、横から別の手が伸びてくる。





「彼女から手を離すんだ、アールハイド!」



レオンハルトが、アールハイドの腕をつかんでいた。


「レオンハルト……!」


「嫌がっている女性に何をしているんだ」


「お前には関係ない!」


「関係ある。僕は彼女を大切にしたいと思っている」


「黙れっ、黙れ!」


「君の行動は、愛情ではない。ただの支配だ」


アールハイドは顔を真っ赤にした。

私は彼の腕を振りほどき、レオンハルトの隣に立つ。


「もう行きましょう」


「ああ」



私たちはその場を離れると背後からアールハイドの叫び声が聞こえた。


「メイサ!僕は絶対に諦めないからなっ!」



私は振り返らなかった。




〜〜〜〜〜




『第十章 私を大切にしてくれる人』




それから、レオンハルトは私を気遣ってくれるようになった。彼は私の予定を勝手に決めたり、行動を制限したりしない。


私が仕事で忙しいときは、無理に会おうとせず、時間ができるまで待ってくれる。


そして、私が困っているときには、必要な分だけ手を貸してくれた。





ある日、私は彼と訓練場で剣を交えていた。


「そこ!」


「くっ!」


私の剣が彼の剣を弾き飛ばした。


「私の勝ちね!」


「また負けたか。やはり君は強いな」


「あなたも十分強いわ」


「君に勝つのは難しいな」


「諦めるの?」


「まさか。君に勝てるまで何度でも挑戦するさ」

彼は笑った。私はいつの間にかその笑顔が好きになっていた。


レオンハルトは、私より能力が劣っていることを気にしない。


むしろ、私の強さを誇らしく思ってくれている。

それが、とても嬉しかった。

鍛錬を終えた後、二人で庭園を歩く。


「メイサ。君は本当に強いな」


「そうかしら?」


「剣も魔法も、そして自分の意思を曲げないところも」


「私はただ、自分の人生を自分で決めたいだけよ」


「それでいいと思う」


彼は少しだけ間を置いた。


「僕は君を守りたい。でも、君を弱くしたいわけじゃない」


「……」


「君が自分の力で進んでいく姿を、隣で見ていたいんだ」


その言葉に、胸が熱くなった。


前世でも、今世でも、私は誰かに自分の意思を尊重してほしかった。

彼はそれを自然にしてくれる。


「レオンハルト」


「何だ?」


「私も、あなたと一緒にいたい」


彼は驚いたように目を見開いた。


「あなたのことが好きよ」


「……本当に?」


「ええ」


レオンハルトは嬉しそうに笑った。

「ありがとう。君を大切にする。君が望むことを、何よりも尊重する」



彼は私の手を優しく握る。



私はその手を握り返した。



〜〜〜〜〜




『第十一章 最後の嫌がらせ』




レオンハルトと親しくなったことは、すぐに社交界へ広まった。

当然、アールハイドの耳にも入った。



そして彼は、最後の手段に出た。



レーンシュタイン公爵家の領地で進めていた事業に対して、ランス公爵家の関係者が不当な妨害を始めたのだ。


契約を突然取り消したり、取引先に圧力をかけたり。

それらの動きの背後には、アールハイドの意向があった。


しかし、私は慌てなかった。


証拠を集め、関係者の証言をまとめ、王宮へ正式に報告したのだ。


さらに、アールハイド本人が私に送っていた手紙や、屋敷の前で騒ぎを起こした記録も提出した。



そして、王宮で両家を交えた話し合いが開かれた。



「メイサ!君は僕を陥れるつもりか!?」


「事実を報告しただけよ」


「僕は君を愛しているんだ!」


「その言葉で、あなたの行動が許されると思っているの?」


「君が僕を拒絶するからだ!」


「私が拒絶したら、嫌がらせをしていい理由になるの?」


彼は言葉を詰まらせる。


「私は何度も伝えたわ。もう関わらないでほしいと。あなたはそれを無視し続けた」


「……」


「あなたが私を愛しているかどうかは、もう関係ない。私の人生に、あなたは必要ないの」




その場にいた人々が静まり返った。





王宮の調査によって、アールハイドが行っていた妨害行為や、私への執拗な接触が明らかになったのだ。



ランス公爵家も、彼の行動をかばい続けることはできなかった。


アールハイドには厳しい処分が下され、私への接触も正式に制限された。



彼は私を見つめていた。



「メイサ……」


「さようなら、アールハイド」



私はそれだけ告げて、彼に背を向けた。




もう、振り返ることはなかった。




〜〜〜〜〜




『最終章 私が選んだ幸せ』




それからしばらくして、私はレオンハルトと正式に婚約した。



彼はアシュフォード公爵家の次期当主。


私は妹にレーンシュタイン公爵家の次期当主の座を譲り、アシュフォード公爵家に嫁ぐこととなった。


お互いに責任のある立場だったからこそ、お互いの気持ちを理解し合えたことで、私たちは対等な関係を大切にできた。



結婚後も、私はレーンシュタイン公爵家の仕事に関わることを彼は許可してくれた。


レオンハルトも私が仕事をする事を望んでくれている。





ある日の夜。




二人で庭園を歩いていると、レオンハルトが私の手を取った。



「メイサ」



「どうしたの?レオンハルト」





「君と出会えてよかった」




「私もよ」




「これから先、何があっても君の隣にいたい」




「私もあなたの隣にいたいわ」




「愛しているよ」



「私も愛してる」



彼はスッと跪いて私の手の甲に口づけをした。



その仕草があまりにも自然で、私は思わず笑ってしまう。


「どうしたんだい?」




「ううん。私、幸せだなと思って」




「なら、これからもっと幸せにしないとな」



「期待しているわ」


彼は私を抱き寄せた。



その腕の中は温かく、少しも苦しくなかった。




私は思う。


前世の私は、男性に好かれることが多かった。

けれど、好かれることと大切にされることは違う。

相手の気持ちを受け入れることと、自分の意思を捨てることも違う。




今世では、そのことを忘れずに生きていこう。



私は強い。

剣も魔法も、仕事も、何だってできる。



でも、誰かに愛されたいと思う気持ちは、強さとは関係ない。



自分を大切にしてくれる人と、一緒に幸せになりたい。



それだけでいい。



「ねぇ、レオンハルト」



「何だ?」




「これからも、よろしくね」



「ああ。こちらこそ」

彼は優しく笑った。



私はその笑顔を見つめながら、心の中でつぶやく。




今度こそ、最高の男性に出会えた。

そして、今度こそ、自分の幸せを自分で選ぶことができた。



こうして私は、愛が重すぎる男との関係に終止符を打ち、自分を尊重してくれる最高の男性と結ばれた。




私の新しい人生は、これからも続いていく。



【完】


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