魔法の消しゴム
小学4年生のみゆきには、ずっと好きな人がいます。
それは、となりの席のハルトくんです。
ハルトくんはサッカーが得意で、いつも明るいクラスの人気者。
一方のみゆきは、ちょっと内気で本を読むのが大好きな女の子です。
ある日の休み時間、クラスで「好きな人の名前を消しゴムに書いて、使い切ると両想いになれる」というおまじないが流行りました。
みゆきもドキドキしながら、新しい消しゴムのカバーの裏に、小さな文字で「ハルト」と書きこみました。
「だれにも見つかりませんように……」
ところが、算数の授業中のことです。
ハルトくんが「あ、消しゴム忘れた!」と困っています。みゆきは勇気を出して、「……これ、使って」と、あのおまじないの消しゴムを貸してあげました。
ハルトくんは「サンキュー!」と笑顔で受け取りましたが、みゆきは気が気ではありません。
もしカバーがずれて、名前が見えてしまったらどうしよう。
心臓がバクバク鳴って、授業の内容がまったく頭に入りません。
放課後、ハルトくんが消しゴムを返しに来てくれました。
「みゆき、ありがとう。助かったよ!」
そう言って返された消しゴムを見て、みゆきは青ざめました。
なんと、カバーが表裏逆についていたのです。
(見られたかな? 嫌われちゃったかな?)
不安でいっぱいになったみゆきは、それから数日間、ハルトくんを避けるようになってしまいました。
ハルトくんが話しかけてこようとしても、わざと友達のところへ行ったり、下校時間をずらしたり……。
そんなある日の夕方、忘れ物を取りに教室へ戻ると、そこには一人で掃除をしているハルトくんがいました。
「あ、みゆき。……最近、なんか避けてる?」
ハルトくんがまっすぐ目を見て聞いてきました。
みゆきはうつむいたまま、消えそうな声で答えました。
「だって、消しゴムの名前、見たでしょ……?」
すると、ハルトくんは少し照れくさそうに笑って、自分の筆箱から消しゴムを取り出しました。
その消しゴムのカバーを外すと、そこにはいびつな字で「みゆき」と書かれていたのです。
「俺も、おまじないしてたんだ。みゆきの消しゴムを借りた時、名前が書いてあるのを見て……自分だけじゃないんだって思って、すごく嬉しかったのに。みゆきが急によそよそしくなったから、嫌われたかと思ったよ」
二人は顔を見合わせて、同時に笑ってしまいました。
「すれ違ってたんだね」
「うん。でも、もう大丈夫」
教室の窓から差し込む夕焼けが、真っ赤になった二人の顔を優しく照らしていました。
消しゴムの魔法は、少し遠回りをしたけれど、ちゃんと二人の心をつないでくれたようです。




