異郷にて
不思議な音がしていた。まるで、油で何かを揚げているような音だ。それはセミの求愛の鳴き声だったが、セナの意識を覚醒へと導いたのは、半身を浸す水の冷たさであった。
「大丈夫? どこから来たの、クエスターくんは」
少々手荒に身体が揺り動かされる。シャツの下に着込んでいる鎖帷子が錆びないか心配になって、セナは目を開いた。
まばゆい光が網膜を焼く。日本の八月の日差しは、奈落に侵されつつあるミッドガルドの冬とは全く別次元の生命力を感じさせた。ゆえに直感する。ここは異世界だと。
しかし、相手もクエスターらしい。今の会話が理解できたのは、クエスターの証である「シャード」の共鳴によるものだからだ。
「俺はセナ・ジークフリートだ。まずは助けてくれて、ありがとう。ここはどこか教えてもらえないかい。バルトロマイの近くではないようだが」
「セナくんか。ボクは亮、小泉亮。マコトでいいよ」
そこまで会話を交わしたところで、セナはマコトが同年代の女性であることに気づいた。セナは半身を浸していた渓流から勢いよく立ち上がり、盛大な水飛沫を散らした。とりあえず、テントに入って身体を拭くことになった。
マコトはぶかぶかのTシャツにハーフパンツという、色気をまるで感じさせない服装だった(そのバストは平坦であった)。その出で立ちとは裏腹に、亜麻色の髪を胸まで伸ばしている。薄茶色のどんぐり眼は、好奇心と生命力に溢れていた。
「あ、これがボクのシャード」
マコトはTシャツに手を無造作に突っ込み、胸元から紫色の宝玉を取り出した。
「で、セナくんはどこの国の人? ここは日本だよ。うーん、ブルースフィアっていう世界の、地球っていう星の、日本っていう島国」
「俺はミッドガルドという大陸の、真帝国のバルトロマイという積層都市から来た」
言いながら、セナは自分のジャケットの隠しから白い勾玉を取り出した。
「異世界かあ、行ってみたいね」
マコトの出会って間もないとは思えない大胆な言葉に、セナは驚く。
「ボク、剣でも魔法でもない力を使えるんだ。大人からは、サイキックって呼ばれてるよ」
ブルースフィアとミッドガルド、どちらの世界でも超能力の研究は進んでいない。というより、先行する魔術と比べて歴史が浅いのだ。
「だが、ミッドガルドで生き延びられるかどうか。お手並み拝見、一太刀見せてくれないか?」
加護は抜きで立ち会うことになった。
互いに川岸に立ち、向き合う。得物は、マコトは木刀。セナは種々の仕込みがある黒手袋のみ。
「行くよー!」
攻撃主体のマコトは蜻蛉の構えから間合いに一気に飛び込み、木刀を振り下ろした。
しかし、刀身が捉えたのはセナのジャケットのみ。「変わり身の術」、忍法の基本である。
だが、気合一閃。空を切ったはずのジャケットは一刀両断された。そこに遅れて念動力が炸裂し、水面に盛大な波が上がった。
上半身が鎖帷子のみとなったセナは、マコトの持つ破壊力を認めざるを得なかった。




