出会い05
砂埃が霧のように宙に舞い視界の悪い中、ニルはドラゴンの影から二人の人影が飛び出してくるのを見つけた。
長身の方が先ほどドラゴンからドラゴンへ乗り移った男だろうか。体躯の良い体には傷一つないようで、その男がもう一人の人物、少年とも、青年とも見てとれる若めの男を庇うようにしてドラゴンから離れニルの潜む木の側へと歩いて来た。
まだ距離があるため探知魔法でも使われない限り見つかることはないと思うが、青年を気遣いながらも歩いてくる男と一瞬目があったような気がして、ニルは身を強張らせたが、男と青年がドラゴンから距離を取ったタイミングで、頭上から声が降って来た。
男が声の方へ視線を向けた事でニルはそっと肩の力を抜き、合わせるようにして視線を上へ向けた。
「お怪我は!」
「・・・アラン様が擦り傷を負った!一度休もう。フィリスの様子も気になる」
男は空に滞空する仲間に向けて声を張る。先ほどのピリピリとした緊張感はないが、一瞬ドラゴンの方へと視線を向けると微かに顔を険しくした。
アラン様、というのが青年のことだとすると、フィリスというのはおそらくドラゴンの事だろう。未だに苦しそうにもがき、時折尻尾を大きく地面に打ち付けている。
ドラゴンの鱗が硬いことは有名な話で、強力な魔法や大砲なんかに当たらない限り傷つくことはそうない。つまりは外傷ではないということだ。
それはこの場に居合わせただけの部外者であるニルでも容易に想像ができることだった。
「降りてこれるか」
「難しいですね。先ほど通った場所に、少し拓けた場所がありました。そこなら可能かと」
男はドラゴンが無作為に手足や尾を動かしているのをものともせず近づきながら仲間と話している。どうやら休息を取ろうとしているようだが、残り四頭のドラゴンが地上に降りるスペースはなさそうだった。
そうして彼らが言っている少し拓けた場所というのが、自分たちの村カーグの村であることも検討がついた。何せこの辺りにはカーグの村と、あとは自然が広がるばかりで、ドラゴンが降り立てるような広い空間は申し訳程度に開墾した畑以外にありえなかった。
ニルは畑の上にドラゴンが降り立つ様子を想像してぞっとした。手助けはしてやりたいが、村の食料を台無しにされるのは困る。さて、どうしたものかと話を盗み聞きしていたニルは思った。
「わかった。では皆はそこに向かって「あ、あの!」」
ニルが考えている間にもどんどんと話が進んでいき、ついにはニルの想像通りの事態が起こりそうになった時、ニルはたまらず声を上げた。
自分で思っていたよりも大きな声が出たためか、数瞬の沈黙がやけに自分を間抜けに感じさせた。
声をかけてしまった以上仕方がない。
ニルは意を決して木の上から飛び降りると、両手を上げながら敵意が無いことを示しつつ彼らの元へと歩み寄った。
男はいつの間に移動したのだろうか。気づくと青年の側に戻っており、青年を守るようにして前に出ていた。様と呼ばれているくらいなのだから、きっと貴族なのだろうことはニルでも想像がついた。
「あの、その場所は村の畑です。潰されては困ります」