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灰塵の王国記  作者: 道草やよい
序章
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出会い04


 聞き慣れない鳴き声が響き渡るとニルは反射的に空を見上げた。それほど大きい声では無かったが、確かに上空から声が聞こえた。


 燃えるような夕焼けが地平を覆い尽くし、空模様は夜へと様変わりしようとしている。鬱蒼と茂る木々の合間から空を見上げるも、目に痛い程の赤が差し込むだけで特に変わった様子はみられなかった。


 キュォォォン


 けれども、どこから聞こえてきたのだろうか。とニルが考えるまでもなく二回目の咆哮が森に響いた。硬質で甲高い、森ではあまり聞かない鳴き声だった。


 構えていたニルは、その不思議な鳴き声の居所がもっと森の奥であると判断すると、手近な木に片足を掛けするりと枝を利用しながらあっという間に数メートルの高さまで木に登った。そうして咆哮が聞こえた方の空を見やる。


「あれは、」


 少しばかり見やすくなった視界の先。目を細めたくなる夕陽と色を変えていく空に混じってドラゴンが五頭、空を飛んでいた。


 ニルはその生物をこれ程まで近くで見たことがなかった。比較的小さめのドラゴンのようであるが、時たまずっと遠くの方を飛んでいる姿を見たことがあっても、数キロ先、まさに目と鼻の先とも言える近さで見ることなど人生で初めての経験だった。 



 けれどもその驚きと感動も、次の瞬間には警戒へと変わっていく。


 そもそも野生のドラゴンは滅多に人里に降りてこない。ましては数頭の群れとなって飛んでいるとなれば、いくら世情に疎い田舎に住んでいるニルでさえその存在は知っていた。彼らは国の竜騎士に違いなかった。国防の要とも言われている竜騎士がこんなところになぜ。


 ニルは見慣れない竜騎士を、見るはずのない場所で目撃したことで警戒した。


 しかし更に不可解なのはそのうち一頭のドラゴンが鳴き声をあげ暴れているように見えたことだった。翼を羽ばたかせ、尾を振り上げ、体中で何かを拒絶するようにもがいている。周囲も近付くに近付けないのか、ジリジリと件のドラゴンに近付いては離れるを繰り返しているようだった。あのままではドラゴンは墜落するだろう。


 羽音も聞こえないような上空から悲痛そうな声だけが聞こえてくる。あの高さから墜落してしまえば、ドラゴンも騎乗している人間もただでは済まないだろうことは誰が見ても明らかだった。



 ニルは状況を察すると木を飛び降り、素早く自身に魔法をかけると森の中を駆け出した。目にも止まらぬ速さで木々の合間を抜けていく。葉が枝から離れ地に落ちるよりも前にニルにその身を攫われ、葉がびゅんと音を立てて巻き上がった。


 王国の竜騎士が何故こんなところに。だとか、何故あのドラゴンは苦しそうに暴れているのか。だとか、そんな警戒や疑問を抱きつつも、それはニルにとって手を貸さない理由にはなり得なかった。



キュォォォン


 全速で森を駆ける。

 ドラゴンの鳴き声はその間も感覚を空けて聞こえ続けた。夕焼けが森を赤く染め、まるでドラゴンの火炎が燃え広がったような森を走り抜ける。

 

 そうしてやっとドラゴンの真下あたりまでくると、ニルは再び近場の木へと登った。



 竜騎士たちはニルが駆けつけるまでには大分高度を下げていた。変わらず件のドラゴンは苦しそうにもがいている。その状態でここまで低空飛行にもってこれているのほ流石竜騎士といったところなのだろうか。

 

ドラゴンに乗ったことなどないニルであるが、生き物を、ましては攻撃性が高いとされるドラゴンを操るなど、常人では難しいだろうということは理解していた。竜騎士とは、それほどまでに凄い人たちなのだ。

 

 縮まった距離になって、ようやくニルの耳に鳴き声と羽ばたき以外の人の声が聞こえてきた。


「各位、風魔法準備!」


 竜騎士の一人が声を張り上げた。男の緊張を孕んだ声音がピリピリとした空気を揺らす。残りの竜騎士たちはその男の指示に従い暴れるドラゴンの下、地面との間に空気の層を四層程重ねた。


 そうして男はそれを確認すると勢いよく自身の乗っていたドラゴンから飛び降りると、もがくドラゴンの背中に飛び乗り、騎乗していた人物が持っていた手綱を握ると、ぐいと力任せに手綱を引き上げた。



 ドラゴンは男の手綱に引っ張られ大きく仰反るとそのまま体勢を崩し、一際大きく鳴いてから地面へ向かって落下した。ニルは目の前で起きた数秒の出来事を把握すると巻き込まれないよう安全な木へと飛び移った。次の瞬間。


 ドシンッ!という大きな音と、押し潰された木々がバキリバキリと倒れていく振動が辺りに響く。


 ドラゴンが落ちた一体は、綺麗に木々がへしゃげていた。たまに遠くに見えるドラゴンと比べると小さい方だと思っていたドラゴンも、こうして被害を見ると、小さくてもやはり他の魔物と比べるまでもなく脅威的な生物なのだと改めてニルは思った。



 ニルは身の安全と周囲の状況を確認すると、落ちたドラゴンに騎乗していた人物を探そうと木の上から目を凝らした。


 初めは助けようと咄嗟に動いたが、連携の取れた着地劇を目の当たりにした今では、自分が出る幕が無くて済むのなら向こうもその方が都合がいいだろうと思い、木から飛び降り探しに出る事はしなかった。


 命が危なければ咄嗟に助けに動くニルであるが、何事も無鉄砲に考えなしに動くタイプでもなかった。なにせ相手は国の竜騎士なのだ。大事なく終わるのであればそれに越した事はないと思った。


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