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灰塵の王国記  作者: 道草やよい
序章
3/26

出会い03

 ニルが村人全員に荷物を届け終えたのはそれから暫く。夕方にはまだ少しだけ日は高く、昼と呼ぶには遅い、そんな時分であったが、村の家々を周り荷物を届け終わる頃には山奥にあるカーグ村の雰囲気は少しばかり薄暗いものになっていた。


 森の木々の隙間から見える景色が水色から橙のグラデーションを作り始めている。もう少ししたら燃えるように赤い夕陽が木々を焼く勢いで光を差し込み、瞬きの間に暗闇がやってくるだろう。


 獣除けのランプをそろそろ灯し始めようか。そう思ったニルは巡回のついでにランプを灯して回ることに決め、手近にあるランプへと手を翳した。


光よ(ルクス)


 ニルの小さな呟きと共にランプに灯りが灯る。淡い光が灯るのを確認したニルは続けて魔除けの呪文を口にした。


魔除け(マリグノス・)の呪い(レペルクス)


 すると光は強弱を付けらながら光り出し、緩やかな光の脈動が炎のようにゆらめき出す。ニルはこの光を見るといつも松明を思い出し、少し燻った匂いが辺りに漂うような気がしていた。


 幼い頃は本物の炎がランプの中で揺らめいているのだと思い込んでおり、夜中に火が消えて魔物がやってきてしまったらどうしよう。なんて思っていた。



 実際、昔のランプは魔除けの効果が長持ちせず、数刻置きにかけ直す手間があった。けれど数年前に新たに開発された魔法の刻印が入ったランプの普及により一度の起動で一晩は充分持つようになり、村の警備は大分負担が減っていた。


 そしてなにより、それを開発したのがニルの弟、トエトだというのだから驚きである。


 トエト曰く、そもそも魔導具を使うのは貴族ばかりであり、魔除けのランプが必要なのは冒険者か森近くに住む村人ばかりで、貴族の需要に合っていないランプはたまたま開発がされていなかっただけらしいが、そうだとしても魔導具を作れる事自体、ニルにとっては凄いことだった。


 それも庶民に手が届く価格帯に落とし込むためにわざと少し不便な操作方法にしたなんて何でもない風に言われてしまっては、ニルはトエトの頭の良さに脱帽するしかなかった。


「よし、暗くならないうちに回るか」


 今では村の収入源になっている魔刻入りのランプが問題なく作動したのを確認したニルは、ぐっと背伸びをしてから各所に点在するランプの灯火がてら、いつもの巡回ルートに向かった。




 さて、そんな頭の良い弟を持ったニルであるが、彼は彼で健康的な体躯と高い身体能力を持っていた。魔法は専らトエトに教わっているが、魔法を上手く使って森で狩をすることや、魔物を退治するのはニルのほうが数段上手だった。


 故に村人たちは何かあればニルに頼り、ニルも力仕事は自分の仕事だと認識していた。そのため村の巡回はニルにとってはいつもの仕事であり、対処が難しい出来事に出会すことはあまりない。


 魔物活性化(マラグルース)の兆候もまだなく、念の為巡回している今日のような日は特に、数匹の魔物や村に危害を加えかねない獣に出会す事はあれど、倒せない程の強敵や、どう対処すれば良いかわからない何かに出会すことはそうそうなかった。



 しかし巡回のために森に入ってからというもの、ニルはどこかいつもと違う空気を感じとっていた。昼間森を通った時には感じなかった違和感にニルは片眉をぴくりと動かすと探知魔法をかけながら慎重に足を運ぶ。


 狩人のように身を潜めながら森を進み、周囲を見渡したニルの顔つきは険しい。忍び足で歩を進めるニルの足音だけがその場に僅かに音を残す。そして数十メートル進んだところでニルはその違和感の正体を結論付けた。


「おかしい。獣が一匹もいない」


 探索魔法をかけた時点で周囲に獣や魔物がいないことに気付いていたニルだが、流石に数十メートル進んでも鳥や小動物すらいないというのは少しばかり奇妙だった。


 元来獣は人間よりも敏感な生き物だ。ニルがやってきた事により逃げた可能性だって捨てきれないが、今まで森で狩をしてきたニルが、全ての獣や魔物に気付かれたというのは道理が通らない。


 可能性としてあるのは、ニルが探知できない何かがあり、それを感じ取った獣たちが早々にこの場から逃げた可能性だった。


 生憎とニルは魔法が不得意ではなかったが、得意でもなかった。森で狩ができ、魔物を倒せる最低限の魔法はトエトに叩き込まれたが、最終的に剣を得物とするニルは近距離の索敵は出来ても、範囲の広い索敵はできなかった。


 きっと自分の探知出来ない範囲で何かがあったに違いない。それもここ周辺の生き物が逃げるような。

 じとりと嫌な汗が背中を流れたような気がしてニルは身を震わせた。ひとまず村に戻って状況を伝えた方が良さそうだと踵を返そうとした時 ───。



キュォォォン



 妙に甲高い鳴き声が空から聞こえてきた。


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