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公爵家転生者

公爵家転生者の舞踏会

作者: みかん

こちらのお話は『公爵家転生者の暇つぶし事業』という短編の続きとなります。そちらをお読みいただいてからの方がお楽しみいただけるかと思います。


短く拙いお話ではありますが、お暇つぶしに読んでいただければ幸いです。




嫌な日が来てしまった…。

なんて思いながら、馬車で通り抜けた王宮の門を横目に見る。

今日は王妃陛下主催で王太子殿下のお見合いの為の舞踏会だ。

王太子殿下の他には第2王子殿下だけでなく、その側近達にも出会いの場をとの事で側近ではないが何故か俺も喚ばれている。まぁ、婚約者のいない高位貴族を喚ぶ事で多くの令嬢のもてなしも出来るという考えだろう。



ちなみに王太子殿下は今年19歳で俺の2歳年上だ。

この世界の常識なら婚約者もいて、今年辺りに結婚式を執り行なっていてもおかしくはない年齢だ。

その常識通り王太子殿下は隣国の皇女殿下と幼い頃から婚約していたのだが、1年程前に流行り病にかかり子どもが望めない身体になったという理由で破棄されたのだ。……表向きは。


流行り病にかかっていたとされる日近辺で皇女殿下が仲睦まじい様子で男と歩いていた所を連日目撃されている。

暗部の調べによると我が国の侯爵が仕掛けたハニートラップが成功し、このような事になってしまったようだ。

まぁ、我が家の暗部で調べられた事が王家に調べられない理由がない。

今後その侯爵家は数年を掛けて閑職に追いやり、裏でやっていた悪事を誇張し、徐々に子爵にまで降爵していく予定のようだ。己の悪事がバレていないと嬉しそうに取り巻きと共に酒を酌み交わしている侯爵の戸惑う顔が目に浮かび、少し滑稽だ。

まぁ、隣国との不和を率先して興すような輩などこの国に必要ないだろう。平民に落とされたり、犯罪者として断罪されなかっただけ優しい対応だ。

向こうの皇女も簡単にハニートラップに引っかかってしまった事もあり、それで手打ちという事で話はついたようだ。

末っ子長女で甘やかされていたようだし、そんな人間を王妃として敬わなくてよくなり、その点だけは万々歳だ。



そのような理由があり、今回の舞踏会に繋がっている。

王太子の同年代はもうすでに結婚していたり、婚約者がいる令嬢が多いので今回の参加者は俺と同年代から少し下辺りの令嬢ばかりだろう。例の侯爵家や他の家門も怪しい動きをしていた為この年代の令嬢達は婚約者も作らず、密かに王妃教育にも通ずるような高度な令嬢教育を施されていたようだ。



ちなみに第2王子殿下は派閥が足の引っ張り合いをしていて今まで婚約者が出来た事がない。こんな事を言うと不敬だが、少し頭の足りない第2王子殿下を祀り上げるなら公爵家以上の力の強い家門でないといけないだろうが、あの派閥はその辺の理解等していないようだ。

そんな第2王子殿下は結構な放蕩ぶりで新聞で掲載した王都近くの観光地は率先して訪れており、毎回連れている令嬢は違う人物ばかりのようだ。王都の観光地の大半は第2王子殿下が企画しているようなので遊びに関しては天才と言えるかもしれない。……運営は別の者がやっている。


王太子殿下は王妃陛下の、第2王子殿下は側妃殿下のご子息だ。そういった事情もあり、派閥もそうだが性格もあまり似ていない兄弟だと思っている。両妃殿下共に仲が良いからか、王子殿下同士も仲が良いのだろう。だが、やはり周りが中々うるさい為貴族同士では派閥争いが絶えない。



正直な所、今は仕事や新聞事業(暇つぶし)が楽しいし、婚約者に時間を取られたくはないのだが、治癒魔法があっても病気には万能ではない為、医療が発展していないこの世界じゃ跡継ぎ問題もあるので婚約者は早くから探しておかなければならない。

父はその辺どう考えているのかは知らないが、出来れば政略結婚でいいので誰か家門にとっていい人を見つけて来てくれると有り難い。

……まぁ、俺がこの歳になっても婚約者が用意されないのだから自分で見つけろということなのだろうと思っている。




そんな事を考えながら侍従に案内されて、歩いていると舞踏会会場のホールに着いたようだ。

念の為に招待時刻より早めに着いていたが、もうすぐ公爵家()が喚ばれるようだ。

気を取り直しながら、気合いを入れ口元だけでも笑顔を作る。

王太子殿下の側近等、俺より優良物件が多数いるので望み薄かもしれないが良い印象を与えられるようにしなければ…。




――――――――――――――――――――――――――――――――




入場してすぐにホストである王家に挨拶をしてから、3人程の中立派の令嬢をダンスに誘い、それぞれと踊りながらではあるがゆっくり話が出来た。まぁ、話す内容は例によって新聞の事が多かった。

3人の令嬢共に王都近くの観光地を訪れていたようだし、1人は領地に帰る際に通行途中の山の紅葉を見学して帰ったそうだ。

暗部の報告書から貴族連中に中々評判で反響があるという事は知っていたが、こうも挙って新聞に載っていた場所へ訪れていると会話の中で聞くのは初めてだ。やはり自分の目や耳で見聞きした物は格別に良い気がする。



今現在は喉を潤す為、ホールの中心部から離れ壁際で休憩中だ。前世の酒の味に慣れていた俺はこの世界の雑味が多い酒の味は好きではないのだが、渡されたのが酒の為我慢して飲んでいる。酒は水分補給にはならないので水やジュースの方が有り難いのだが、前世の常識とこの世界の常識は違うので仕方がない。

普段からスーツを着ているが、今日は王家主催の舞踏会で格式張った服を着ている上に、書類仕事が多い身としては少しダンスをしただけでも喉が渇いてしまう。



そんな事よりも同年代の令息も令嬢より少ないが参加している為、領地の様子や後継者教育がどこまで成されているのかについて話がしたい所だ。

こういった華やかな場はあまり得意ではないが、暗部の報告書の様に紙面で見る情報より生の声が聞けるし、何より話している人物の細かな状況等が伝わってくるので貴重な機会だと思っている。

何より学校の様な教育機関がないこの世界で関わる同世代といえば、同じ派閥の人間や同家門の者がほとんどなのでこれを機に他派閥の動向等も知っておきたい。


気合を入れなおし、話し掛けるグループに目ぼしを付けそちらに向かって歩き始めた所で先程までは目の前にいなかった人物が2人、立ちはだかる。2人共がしっかりと俺の目を見ている事から俺に用があるのだろう。

……王太子殿下と第2王子殿下の側近の内の中で一番身分が上の者なのを見ると両殿下が俺に断られないように喚び出そうとしているのが察せられる。

まぁ、中立派の公爵家としては片方の側近だけが喚び出しに来たのではないだけましだろうか。


「少し時間をもらっていいだろうか。」


「……両殿下がお喚びなのだろうか?」


王太子殿下の側近の方がそう声を掛けてきたので、わかりきっているが質問をする。

頷かれたので仕方なく二人の後についてホールを出る。ホールより少し照明が落とされた廊下を案内されながら、今後の展開を考える。このような場で喚び出すとはどのような内容だろうか。


……たぶん新聞についてではないだろうか。

王家の暗部が一番真剣に探りを入れているようだとは、暗部からの報告で上がっている。

王が直接探るような物でもないし、両殿下に一任されていても可笑しくはない。

新聞の製作者だとは最悪バレてもいいが、まだまだ周囲の反応をこっそり楽しみたいのでどう誤魔化すか思案をしながら歩く。


数分も歩かない内に奥まった場所にある休憩室へと辿り着く。

考えも纏まってきて、ちょうど良いタイミングだと思っていると第2王子殿下の側近が扉をノックし、声を掛けるとすぐに開かれてソファへと案内された。



「ハル、コレの製作者についてどこまでわかった?」


ソファに座って早々にお茶も出されず声を掛けてきたのは俺の正面に座っている第2王子殿下だ。上座には王太子殿下、それぞれの周りには側近が3名程立って俺を見下ろしている。

ちなみにハルとは俺の愛称で、本名はハルトヴィヒだ。これでも公爵家嫡男なので幼い頃から王家との交流はあった為、両殿下から側近の誘い等もあったのだが、父は中立派だったのでお断りしている。



第2王子殿下がコレと言いながら見せてきたのはやはり新聞だった。馬鹿な第2王子殿下は何も掴んでないだろうが、王太子殿下は中々厄介だ。それなりの所まで掴んでいてもおかしくはない。


「私も製作者まではわかっていません。

やはり暗部がいるような家の者が出しているのでしょう。配達員から辿ろうとしても依頼者追跡は毎回失敗に終わっています。

現在は2、3年程前から雇用率が上がった地を中心に調べさせています。」


このぐらい言っておけばいいだろう。


「雇用率〜?

そんな物調べて何になる?」


王太子殿下は予想していた通りの解答だったのだろう頷いただけで何も言わなかったが、訳がわかっていない第2王子殿下は喧嘩腰で訊いてくる。

第2王子殿下とは家庭教師が被っていた時期もあり、影で比較されていたようで俺に敵対的だ。


「あれだけの文字数の物をあの枚数創るにはそれなりの人数が必要でしょう。」


「……なるほど。」


納得いただけたようで何よりだ。

チラリと王太子殿下を見る。さて、どうやって探りを入れようか…。


「王太子殿下はどのように調査されていますか?」


「私も似たようなものだ。

結構やり手な暗部を使っているようだな。追跡はほぼ諦めている。

私の方は失業者が減った場所を重点的に調べている。」


「王家でも探れないとなると、怪しいのは公爵家以上という事になりそうですね…。

私は王太子殿下が運営しているのではと考えていたのですが、この場を見る限り違いそうですね。」


相変わらずちゃんとしている方だ。良いアプローチをしていると思う。

俺の工房も失業者を雇用しているし、ニユースのあの工房も探り始めていそうだ。

この場も俺が怪しいと踏んでわざわざ舞踏会中にセッティングしたのだろう。


まぁ、暗部の報告書を見ている限り、失業者が減り雇用率が上がっている場所は他にもいくつかあるし、その辺の対策も怠ってはいない。

王太子殿下の反応を見るにまだ検討段階なのだと思う。


「あぁ。私は何も関与していない。

私達もハルが怪しいのではとこの場を設けたのだが…。」


疑いの眼差しではあるが、やはり尻尾は掴めていないようだ。

それなら誤魔化すに限る。父と違い、何の疚しさも無いのでバレてないなら白状する気は無い。


「そのようですね。

文章の表現方法が我が国特有ですから、我が国の高位貴族である私をお疑いになるのは無理がないかと…。

私があのような物を出すならもっと私に利するようにしますね。金も貰わず配るなど無駄な事はしたくありません。」


「ふん、金の亡者が!」


……マジでこの馬鹿な第2王子、どうしてくれようか。俺の印象どうなっているんだ。

感情を出さないように笑顔を貼り付けるが、こうも突っ掛かってくると腹が立たない訳がない。

まぁ、こんな輩は無視するに限る。


「少し気になったのですが、私達の世代が出しているのでしょうか?

仕事を任される事も増えて私達の世代は忙しい者も多いかと思いまして…。」


「ふむ。一理あるな。

お祖父様世代なら暇を持て余している、か。」


まぁ、これで少しはミスリードもできただろう。

あの世代は本当に羨ましいぐらい楽隠居だ。暇を持て余して商会運営等を楽しんでいる者も多いようだ。

俺の新聞事業についても仲間内で賭け事をしながら製作者探しをしているようだ。


「それよりそろそろ移動しなければ舞踏会が終わってしまうのではないでしょうか。」


「……あぁ、気乗りはしないが行くか。

休憩もできたしな…。」


……舞踏会途中に喚び出すなんてとは思っていたが、その返事を聞いて今回の舞踏会で1番大変なのは王太子殿下だから気を紛らわす事をしたかったのだなと納得した。




キリが良さそうなのでここまでとさせていただきます。


前作『公爵家転生者の暇つぶし事業』『公爵家転生者の視察』をたくさんの方に読んでいただき、大変嬉しく思っております。こちらのお話もまた楽しんでいただければ幸いです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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