ゴーレム換装ミスリル
海の見える切り立った崖の上、体高10m程の黄金色のゴーレムが陽光を浴びて立っている。
相対する三体のゴーレム。体高は殆ど差がない。真ん中は白銀色。両サイドは青銅色である。
三体のゴーレムは一斉に黄金ゴーレムに襲いかかる。右端の青銅ゴーレムは右拳で黄金ゴーレムを殴ろうとするがかわされ、カウンターで右拳で殴られ、吹き飛ぶ。
左端の青銅ゴーレムはやはり黄金ゴーレムを殴ろうとするが、左足で後ろ蹴りにされ、やはり吹き飛ぶ。
最後に一体残された白銀ゴーレムは一瞬躊躇するも、やがて意を決したかのように右拳を突き出す。
だが、黄金ゴーレムはそれもいとも簡単にかわし、己が右拳を白銀ゴーレムの顔面に打ち込む。白銀ゴーレムはもんどりうって倒れる。
その光景に黄金ゴーレムに搭乗したパイロット金髪碧眼の美青年は冷たく笑う。対照的に倒れたままの白銀ゴーレムのパイロットは死の恐怖に顔面蒼白だが、お互いの表情は目視できない。
黄金ゴーレムのパイロットは冷笑したまま、白銀ゴーレムにゆっくりと歩み寄る。そして、右足を高々と持ち上げると、アリでも踏み潰すかのように白銀ゴーレムの頭部を思い切り踏み潰す。
白銀ゴーレムのパイロットの断末魔の悲鳴は聞こえたようだ。黄金ゴーレムのパイロットの冷笑の口角が上がる。
更に黄金ゴーレムのパイロットは周囲を見回す。吹き飛ばされた二体の青銅ゴーレムがひっくり返ったまま、手足をバタバタ動かしている。
それに気づいた黄金ゴーレムのパイロットは、やはり冷笑を浮かべつつ、ゆっくりと二体の青銅ゴーレムに近づき、右足を高々と上げ頭部を踏み潰す。断末魔の叫びを聞くことが快感のようだ。
侵入してきた全ての敵ゴーレムを踏み潰した黄金ゴーレムのパイロットは、達成感からか満足げな表情だ。
しかし、もう一度周囲を見回し、あることに気づいてからは不機嫌な表情に変わった。
彼を不機嫌な表情に変えた原因。それは崖の下で怯えたような表情で座り込んでいる短い黒髪の少年とそれに寄り添うように立つ茶色の長髪の少女。
黄金ゴーレムは威嚇するかのようにゆっくりと、それでいて足音は大きく、少年と少女の方に近づいていく。
その様子に少年の怯えは更に増し、顔面は蒼白となる。少女はまだ気丈にも少年をかばいつつ、黄金ゴーレムをにらみ付けているが、極度に緊張していることは否定のしようがない。
ついに少年と少女の手前まで近づいた黄金ゴーレムはその換装を解く。黄金の粒子は空中に広がっていき、パイロットである金髪碧眼の美青年は自らの両足で大地に立つ。
そして、鋭い眼光で少年を睨む。
「トマス。こんなところで何をしていた?」
「えっ、えっ、あ」
トマスと呼ばれた少年は、まともな返答が出来ない。
「鉱物調査をしていたんです。ハインリッヒ様。それの何が悪いのですか?」
代わってトマスをかばう少女が答える。
「鉱物調査?」
少女の回答に黄金ゴーレムのパイロット、ハインリッヒの不機嫌は加速される。
「まだそんな無駄なことをしているのか? トマス。黄金はおろか白銀、青銅や鋼鉄でさえも貴様のことをゴーレムのパイロットとは認めなかった。貴様には鉱物たちから認められる資質がないのだ。この恥さらしめ」
「でっ、でも」
トマスは泣き顔になりながらも反論する。
「まだミスリルでは試していない」
「ミスリルー?」
ハインリッヒの不機嫌さは頂点になる。
「貴様。まだそんな夢みたいなことを言っているのかっ? ミスリルなんてものは大昔の作家が書いた想像上の産物だ。いい加減に現実を見ろっ!」
ハインリッヒの怒鳴り声にトマスは泣き顔のままだが、しっかりとその目を見つめ返す。
「ミスリルはあるっ!」
「ふん」
トマスの気迫に押されたハインリッヒは目をそらす。
「生意気な。私はこれから城へ戻り、ゴーレムのパイロットとしての資質を持たない貴様を貴族籍から除籍するように、もう一度、父上に進言する。これが受け入れられれば、貴様はただの平民になり、『鉱物調査』などという道楽も出来なくなる。そうなったら汗水たらして働いて自分で食い扶持を稼ぐんだなっ!」
ハインリッヒは最後に捨てゼリフを吐くと、両足を広げて踏ん張り、両腕を真横に広げる。
すると、まるでハインリッヒを慕うかのように地上地中の黄金の粒子が集まり、彼の身体を覆っていく。それは人型に固まり、最後には体高10mほどの黄金ゴーレムとなる。
「ふんっ!」
ハインリッヒをパイロットと認めた黄金粒子たちが形作ったゴーレムに搭乗したまま、跳躍するとそのまま飛び去って行った。
トマスはそれを呆然と見送っていた。そんなトマスに微笑みを浮かべ、声をかける少女。
「ミスリルを探していたの? トマス」
「うっ、うん」
少女の言葉に我に返るトマス。
「どう? 今度は見つかりそう」
笑顔のまま更に声をかける少女。
「あるとしたらここなんだよ。ルイーザ」
呆然としていたトマスの目が輝き出す。
「城にある古文書をもう一回徹底的に調べ直してみたんだ。過去のそれらしきものが見つかった記録からするとここしか考えられない」
ルイーザと呼ばれた少女は微笑みを絶やさない。
「そうだね。きっと見つかるよ。ミスリルかあ。黄金、白銀、青銅、鋼鉄のどれよりも丈夫。それでいて柔軟性もある。そして、羽根のように軽い。それで何と言っても……」
「パイロットの意思によって色が変わるって魅力的だよ」
「そうなんだ。でも……」
トマスの表情がやや曇る。
「ミスリルは、ずば抜けて優れた鉱物だから、プライドも際だって高い。見つかっても僕のことをパイロットと認めてくれるかどうか」
「大丈夫だよ」
ルイーザはトマスの肩をぽんと軽くたたく。
「トマスに会う前は、この国に私以上に鉱物と向き合い、鉱物を知って、鉱物の声を聴き取ろうと考えている人間は誰もいないと思っていた。だけど、私以上の人間がびっくりするほど身近にいたんだ。トマス。あなただよ」
「……」
ルイーザのそんな言葉に赤面するトマス。
「トマスは誰よりも鉱物と向き合い、鉱物を知って、鉱物の声を聴き取ろうとしている。そんなトマスをミスリルが認めないわけないよ」
「……うん」
トマスは頷くと立ち上がった。そして、鉱物調査を再開した。
初老で銀髪の辺境伯はいつもとおりに個室で机に向かって腰掛け、書類を見つめて何やら考え込んでいた。
コンコン
ドアをノックする音に辺境伯は書類から目を離さぬまま答えた。
「入れ」
ガチャリ
ドアから入ってきた者がハインリッヒであることを確認した辺境伯はそこで初めて書類から目を離す。
「ハインリッヒか。白銀ゴーレム一体と青銅ゴーレム二体を倒したそうだな。ご苦労だった」
「父上」
ハインリッヒは眉間にしわを寄せたまま、辺境伯のいる机に向かって、ゆっくりと歩み寄る。
「白銀ゴーレムと青銅ゴーレムを倒すなど、私にとっては造作もないこと。そんなことを話しにきたのではありませぬ」
「ほう。では何の話だ?」
「以前より何度もお話ししております。トマスの貴族籍からの除籍。今日という今日は実行してください」
顔を上げて、ハインリッヒを見つめていた辺境伯は再度書類に目を落としてから言う。
「そのことなら、私の答えは以前と変わらない。確かに私はおまえ、ハインリッヒと同じ黄金ゴーレムのパイロットではある。だが、加齢のせいで以前のようには戦えない。かと言って、わが領邦に託された国防の任務、いかに黄金ゴーレムパイロットとはいえ、ハインリッヒ一人で背負うのは過重だ。よって、トマスは貴族籍からは外せぬ」
「父上っ!」
ハインリッヒの声は怒鳴り声になる。
「そのトマスが、ゴーレムパイロットとしての資質にまるで欠けるばかりか、『鉱物調査』ばかりしている役立たずだから言っておるのですっ!」
「トマスの資質がまだ開花していないかもしれないではないか。それに『鉱物調査』だって大事なことだ」
「『鉱物調査』なら、我が辺境伯家の血をひく者以外でも出来るではないですかっ! 子爵家の娘ルイーザにだって出来るっ! だが黄金に認められてゴーレムのパイロットになるのは我が辺境伯家の血をひく者にしか出来ないっ! だからこそ我が辺境伯家は国王陛下から国防の要であるこの地を任されている」
「……」
「だが、あのトマスは黄金どころか白銀や青銅、鋼鉄にすら認められない。わが辺境伯家の一員でいられる資格はないでしょう」
「トマスもまごうことなく辺境伯家の者だ。資質の開花が遅れているだけだ」
「父上」
ハインリッヒの目が血走る。
「これは言うまいと思っていましたが、今日という今日は言います。トマスは本当に父上と母上の子なのですか?」
バサッ
辺境伯の両手から書類が落ちる。そして、その眼光は鋭く光る。
「ハインリッヒ。言っていいことと悪いことがあるぞ。トマスは間違いなく私とわが妻の子であり、おまえの弟だ」
「……」
その気迫に押され、一瞬沈黙するハインリッヒ。だが、すぐにまた口を開く。
「分かりました。トマスの貴族籍からの除籍の件、今日のところはあきらめましょう。だが、それとは別にもう一つ申し上げたいことがございます」
「申してみよ」
夢中になって「鉱物調査」を続けるトマスとルイーザ。しかし遠方の上空から轟音が聞こえてくる。
上空を見上げるトマスとルイーザ。飛んで来たのはハインリッヒの搭乗する黄金ゴーレムだった。
おびえた表情を見せるトマス。不機嫌な表情になるルイーザ。しかし、ハインリッヒは気にすることなく付近に着陸し、二人のところにゆっくりと歩み寄ると、黄金ゴーレムの換装を解く。
トマスはおびえたまま座り込み、ルイーザはかばうように立っている。
近づいたハインリッヒはフンと鼻を鳴らす。
「トマス。貴様の貴族籍からの除籍は、今回も父上から却下された。だが、私は諦めないからな」
トマスをかばったまま、ホッとした表情を見せるルイーザ。おびえたままのトマス。
「そして、ルイーザ。私とおまえの婚約について、父上にお願いしてきた。父上は国王陛下に許可願いを出すそうだ。まあ、決まったも同然だ。承知しておけ」
「なっ」
ルイーザの表情は蒼白になる。トマスもだ。
「私はあなた様と結婚するのは嫌です」
「ふっ」
ハインリッヒはあざ笑うかのように言う。
「おまえの意思は関係ない。辺境伯家の嫡男であり、黄金ゴーレムパイロットであるこの私が鉱物の知識を持つおまえを妃に望む。それだけだ」
「それでも私は嫌です」
「何とでも言うがいい。国王陛下に国防を任された辺境伯家の嫡男が陪臣である子爵家の娘を妃に望む。これを国王陛下が認めないはずがなかろう。断れば子爵家は取り潰しだぞ」
「ぐっ」
ルイーザは唇をかみしめる。そして、座り込んだままのトマスをゆする。
「トマスッ! トマスッ! 何とかしてよっ! トマスッ!」
「ぼっ、ぼっ、僕は」
悔しい、悲しい、ルイーザがハインリッヒ兄上の妃になるなんて嫌だ。嫌だ。絶対に嫌だ。でも、今の僕には何も出来ない。くそっ、くそっ!
その時だった。その一帯、大きな地鳴り音が響き渡り、大地が大きくゆれた。一部のところでは地割れが始まった。
「ちいっ!」
ハインリッヒは舌打ちをすると両足を広げて踏ん張り、更に両腕を広げて、黄金ゴーレムへの換装を開始する。
「ルイーザッ! 私が換装を終えたら、ゴーレムの手のひらに乗れ。城まで連れて行く」
「トマスはどうするのです?」
「トマスは置いていく」
「そんなのは嫌です。私一人で助かるくらいなら、トマスと一緒に死んだ方がましです」
「強情っ張りめ、意地でも連れて行くぞっ!」
「あ、あれは?」
そんな時、トマスが上空を指差した。大きな地震が発生しているにもかかわらず、その身体を銀色に輝かせたゴーレムが飛来してきている。
「こんな時に」
ハインリッヒはいまいましそうな表情を崩さない。
「しかも白銀ゴーレムが一体のみだと。舐めているのか。黄金ゴーレムの基本能力は白銀ゴーレムの十倍だ。おおかた同じ白銀ゴーレム相手で勝ったから黄金ゴーレムにも通用するくらいの甘い考えで来たんだろうが、叩き潰してやる」
地震は止まないが、銀色のゴーレムは構わずに着陸した。
「いい度胸だ。一発で仕留めてやる」
ハインリッヒの搭乗する黄金ゴーレムは地震をものともせず小走りに走り出る。そして、右腕を突き出し、相手の顔面を殴らんとする。
「だめだっ!」
先ほどより相手のゴーレムを観察していたトマスが叫ぶ。
「あれは白銀ゴーレムじゃないっ!」
「どういうこと?」
ルイーザがトマスの方を向いた時、
相手方のゴーレムはハインリッヒの黄金ゴーレムの右拳をやすやすとかわし、代わりに己が右拳を黄金ゴーレムの腹部に撃ち込む。
「ぐふ」
黄金ゴーレムは強い衝撃に後ずさるが、何とか踏みとどまり、更に右拳を突き出す。それもやすやすとかわされ、今度は顔面に相手の右拳を受ける。
「あれは白銀ゴーレムじゃなくて、意思の力で色を銀色にしたミスリルゴーレムだっ!」
「ミスリルゴーレム?」
ルイーザの顔は青ざめる。
「敵国の方が先にミスリルゴーレムを実用化したというの? 我が領邦最強のハインリッヒ様の黄金ゴーレムでも歯が立たないとなると一体どうすれば?」
その時振り向いたルイーザは見た、トマスの周りに青く輝く粒子が集まってきているのを。
「トマス。見てっ! 自分の周りを。地中のミスリル粒子があなたを認めて集まってきているの」
「!」
トマスも自分の周りを見た。間違いない。自分の周りを飛び交う粒子。これはミスリル粒子だ。古文書に記されたとおりの。
さっきのあの地震は地中深く眠っていたミスリルが地上に出るために地割れを作ったのだ。そして、眠っていたミスリルを起こしたのは。敵国のミスリルゴーレムの襲来による刺激。
「トマス。換装よ。両足を広げて踏ん張り、両腕を伸ばして」
ルイーザの指示に従ったトマスはたちまちに青色に輝くミスリルゴーレムに換装した。
やはり体高は10mほど。
ハインリッヒの黄金ゴーレムは何度も敵ゴーレムに殴られながらも何とか踏ん張り、敵ゴーレムがトマスのゴーレム出現に気を取られた隙に腹部を蹴らんとした。
だが、それも簡単にかわされ、バランスを崩したところを逆に相手のゴーレムの右足に腹部を蹴られ、もんどりうって倒れた。
「ふーん」
敵ゴーレムのパイロットは赤髪ショートの少女だった。
「力を鍛えるばかりで『鉱物』を知ろうとしないこの国じゃ黄金ゴーレムは操作できてもミスリムゴーレムは動かせないと思っていたけど。いるんだ。面白い。ちょっと相手してもらおうか」
敵ゴーレムはゆっくりとトマスのゴーレムに向かってきた。
「トマス。大丈夫?」
下からルイーザの声がする。トマスは頷いた。
「大丈夫。どう動いたらいいか。ミスリル粒子たちが教えてくれるんだ」
「さあて、じゃあ今度はこっちからいきましょうかね」
敵ゴーレムの少女は軽く右フックを繰り出す。
トマスはそれをかわすだけで反撃しようとしない。分かっているのだ。この場で反撃しても相手もかわしてしまう。ダメージを与えられない。
「おや、かわしたのね。じゃあこれはどう?」
少女はゴーレムの左右のパンチを交互に繰り出し、時には意表を突いて、右足で蹴りを入れた。しかし、トマスはその全てを簡単にかわした。
「ええいっ! ちょこちょことかわしてっ! これならどう?」
少女は思いきり右ストレートを繰り出した。
「ここだっ!」
トマスはそれを間一髪かわすと右ストレートでクロスカウンターを打った。
「!」
衝撃に後方に下がる少女のゴーレム。
「やっ、やるわね」
すぐに態勢を立て直す。
「そうこなくっちゃあ。こっちも俄然やる気が出てきたわ。勝負よ。青いミスリルゴーレム」
少女のゴーレムが一歩を踏みださんとした時、操縦室に声が響いた。
「何をやっておるか。ビルデガルドッ!」
「あ、兄上」
慌てる少女ことビルデガルド。
「邪魔しないでください。今いいところなのです。何と敵国にもミスリルゴーレムがいたのですよ。ぶちのめしてパイロットを連れ帰ります」
「馬鹿を言うな」
兄上こと黒髪の王子ハイマンはビルデガルドを一喝する。
「仮にも一国の王女であるおまえが単騎敵国に乗り込み、ミスリルゴーレムと戦ったなんてことが国王である父上に知れてみろ。おまえは嫁入りするまで城の塔に幽閉されて一歩も外に出られなくなるぞ」
ビルデガルドは顔面蒼白になる。
「そっ、それは嫌です」
「ならすぐ帰ってこい。今ならまだごまかしが利く」
「ちぇっ」
ビルデガルドは舌打ちすると、不意に後方に二回とんぼ返りをした。
さすがに予期せぬ行動にトマスが唖然としている隙にビルデガルドは全速力で自国に飛び去って行った。
完全にビルデガルド搭乗のゴーレムの姿が視界から消えた時、トマスは周囲のミスリル粒子から「もう大丈夫。もう大丈夫」との声を聞き、換装を解いた。
自らの足に大地に立つトマスにはちきれんばかりの笑顔で飛びつくルイーザ。
「よかったあっ、よかったあっ。やっぱりトマスを黄金粒子が包まなかったのは、もっと格上であるミスリル粒子に認められていたことが分かっていたからなんだよ」
「うっ、うん」
はにかみながら頷くトマス。
「よかった。よかった。トマスはもうミスリルゴーレムのパイロットなんだよ。我が国最強のゴーレムパイロット。ねえトマス。私と結婚して。最強のパイロットが望んだのなら、ハインリッヒ様の申し入れが先だったとしても、くつがえせるっ!」
「うっ、うん」
曖昧に頷くトマス。ルイーザの言わんとしていることは分かるし、ルイーザのことは好きだ。だけど事態の急展開に思考がついていけていない。
一方、黄金粒子の換装を解いたハインリッヒは地面に座り込んだまま呆然としていた。
「そんな馬鹿な。ミスリルは存在しない、空想上の産物しかないはずだ。最高の鉱物は黄金なんだ。こんなことがあっていいはずがない……」
ハインリッヒはいつまでも座り込んでいた。