第9話:呼び出し
ちょっと間が空いてしまい、少し9話の内容を改正しました。ご迷惑おかけします。
ラズが学院に向かって1ヶ月が過ぎた。そろそろ、クラスに慣れた頃だろうか。
5年間一緒に暮らし、すっかりラズがいる生活に慣れ親しんでしまった俺たちは、なんとなく寂しさを覚えていた。夕食を一緒に取っていても、ふとラズがいた席に視線を投げたり、街に出て思わずラズの好きなスイーツを選んでしまったり。しょぼんとするドルシネアを見て、これは早々に子作りに励まなくてはと気合を入れ直す。
「子作りをしよう」
「えっ」
「ラズにも兄弟か姉妹が必要だと思わないか?」
「そ、そうね。賑やかな方が楽しいわよね」
そんなわけで、3ヶ月後、めでたく愛しのドルシネアが懐妊したことがわかった。めでたい!やるときはやる。まだまだいけるぞ、俺。
喜びの最中で、カルトロが手紙を持ってきた。顔色が悪い。
「旦那様、魔報速達が届いております」
「誰からだ?」
「ええと、その、ラズ様の通われる学院からでして」
何かやらかしたか、と思い慌てて手紙を開けると、学院長からだった。
『ラズマリーナ嬢について早急に話し合いをしたいため、取り急ぎ学院まで来たれよ 学長』
と言うような魔報手紙だった。王都の学院までは馬車で3日ほどの距離。ドルシネアは商会があるし、急なことでは休みも取れないこともあって、俺が一人で向かうことになった。俺一人なら影馬が使えるからだ。暗部の仕事をするときに使う影馬は羽の生えた黒魔馬で、普段は俺の影に入れてある。俺の魔力と繋がっており、魔力を糧に動く従魔だ。影馬に乗ると自然に隠密モードに入るため、空を飛んでも人に見咎められることがなく、休む必要もない。
「まさかとは思うけど、聖女だとバレたんじゃないかしら」
「いやいや、それは別に隠してないし、ただの候補だし。それより、誰かを呪ったんじゃないか」
「まさか…。あの子のアレは「呪い」じゃなくて「お願い」でしょ。聖魔法を使うのよ?呪術じゃないわ。それより、癇癪起こして電撃で誰か殺しちゃったなんてことは………?」
「手紙じゃ済まされないだろう、それは!」
「あ、あの子可愛いから、逆ハーレムとか既に築いちゃってるとか?」
「そんな破廉恥な子供に育てておらんぞ!?ってかまだ15!」
「女の子の成長は早いのよ。王子といい仲になって侯爵令嬢を怒らせちゃってるかも!」
「王子!?第3王子は学年が違うし、婚約者は伯爵令嬢だ!なぜ侯爵令嬢が怒るんだ?」
「え?そうなの?」
「そうだ。確かストーキン伯爵令嬢のカルメーラ嬢だったはずだ」
「カルメーラ!?すでに実在してた!!」
「何の話だ?」
「ラ、ラズは自主退学して、もう商会で働かせたほうが!断罪されちゃうわ!娼館なんて嫌よ!!」
「断罪!?娼館!?誰だ、俺の可愛い娘に手を出すやつは!王子か!王子だな!?コロス!」
想像をしていくうちに、パニックに陥ってしまったドルシネアを宥めながら、俺もパニックになってしまい、カルトロに頭突きを食らった。
「旦那様。パニクってる場合ではございませんぞ。学院からは、ただ話し合いがしたいと言っているだけです。早急に伺い、問題があるのならばもみ消してきてください」
「言ってる事が既に黒い!」
「影馬は夜の方が御しやすいでしょう。今夜出発して、ついでに様子を伺ってきてはいかがです?」
「ラズと私とお腹の子供のためよ、ロシナンテ!(私が)娼館送りにされないためにも、ラズの暴走を止めてきてちょうだい!」
「だからなんで娼館!?」
一人影馬に乗って夜風という名の爆風に吹かれたお陰で、冷静さを取り戻した。
学院の上空から様子を伺うが、静かなものだ。ラズのいる学生寮棟は校舎を中心に東西二つに分かれている。俺の時と変わっていなければ、男子寮が西側、女子寮は東側だ。間違いなど起こるはずもない。王子も確かに学院に通っているが、同い年ではなく学年は上。ラズには目立つなと教育してあるから、関わることはないはずだ。まあ、絡まれなければの話だが。
「ラズはあれで、美少女だからな。口を開くとどこのゴロツキだと思わんでもないが………」
カルトロによれば、うまく化けましたとうっそり笑っていたから、誤魔化せているはずだし。ラズは聡いから、いくらなんでも入学早々やらかしてるはずはないだろう。問題になるとすれば、出来が良すぎる点だろうか。まさか入試で首席を取るとは思わなかったしな。男爵令嬢に遅れをとる高位貴族ってどうなんだとも思うが、それだけラズが特別なのかもしれないし…。そう考えると、うちの子すごい。いや、俺なんか親バカになってないか?
「まあいい。朝になればわかるからな。それより、今のうちにセキュリティカメラでも設置しておくか………」
前世の記憶が戻ってから、あれこれと便利品を作り上げておいて正解だった。ドルシネアの商会でも前世の便利品によく似たものがあったが、商品開発部に俺以外にも転生者がいるのだろうか。まぁ、便利になる分には問題はないがな。俺の発案した小型セキュリティカメラは売りに出してはいないから誰に気づかれることもないだろう。隠密時代にこれがあればよっぽど仕事が楽だったんだが、思い出せなかったものは仕方がない。
「あちこちに仕掛けておけば、何かあった時の証拠になるからな。俺の娘に手を出したやつはコロス…ふふふ」
広い学院内のありとあらゆるところにカメラを仕掛け、一息をついたところで朝日が登り始め、俺は一先ず学院から離れた。外門が開くと同時に何食わぬ顔で校内に入り、学院長室へと案内された。
「久しぶりじゃな、ロシナンテ君」
「………何で聖騎士団長がこんなとこにいるですか」
「わし、今ここの学長じゃもん」
にしし、と笑う髭面のジジイは俺が若い頃の聖騎士団長だった男、ガイ・パブロヴァ。10年ほど前に歳を理由に退団したが、その後公爵家の未亡人と縁を結んだと聞いた。公爵家はご子息が既に跡を継いでおり、ガイは元公爵夫人と残りの人生を楽しむ、と身分差から結婚できなかった初恋の人をゲットしていた。ジジイとはいえ、ガタイの良さは健在のようだ。というか聖騎士団長やってた頃より、肌艶がいいような気がする。充実してんだな。
「それが、学院長ですか」
「まあ、引退するとやることがあんまりないんじゃよ。最近義孫娘たちが可愛くてなぁ。ちょっとお小遣いをやりたくて、引き受けてみた」
公爵家の孫の小遣いとか、商会の雇用人の月給ぐらいありそうだな。まさか、暇つぶしをするために俺を呼んだ訳でもあるまいが。
「で、私の娘について話したいこととはなんですか」
「ああ、うん。ラズマリーナ嬢は養子じゃったかな」
「ええ。色々ありまして。5年ほど前に養女にしましたが、何か」
「あの子、聖女じゃろ?」
いきなり核心をついてきた。
「候補だと言われましたが、あまり聖女としての能力は伸びませんでしたので」
「まあ、暗部の家で育てられれば、そうなるのも仕方ないよの」
「………普通の男爵令嬢として教育はしたはずですが?」
ふと、うっそりと笑うカルトロの顔が思い出されて嫌な予感がしたが、振り払い平静を装った。
「普通の令嬢はスキルの隠蔽とか魔力値の改ざんとかしないよね」
「………。は?」
「これ。見てみるが良い。こちらの用紙にあるのは彼女の検査結果ね」
ペラ、と渡された紙にはラズの能力判定が書かれていた。
見たところ、全体的に平均的な能力値で、聖魔法:微弱とある。なぜか、剣術、体術のスキルや遁走なんかもある。まあ、これは貧民の頃に覚えたスキルかもしれない。やや話術値や商魂スキル値(なんだ、これ?)が高いものの、ドルシネアからも色々教わっていたから、商業スキルが高いのも頷ける。うちの子優秀。
「聖女よりも商会向きな能力値ですね」
「うん、表向きはね。で、これが隠蔽を解いた後の能力値」
「え」
学院での能力値の改竄は、退学ものの悪行だ。誰だ、ラズに隠蔽なんて教えたのは。……カルトロか。
それをみると、ラズの聖魔法は鑑定不能。しかもその後に続くのは、闇魔法、雷魔法、補助魔法値で、それぞれがレベルマックスとある。体術、剣技もレベル高。おお。護衛ができるレベルだな。加えて、隠蔽、鑑定、隠密、サーチ、暗視、スカウト、そして転移、だと?重力操作、はぁ?暗算、魅了、話術……。魅了!?
「え?ちょ、何これ?え?」
「わし、真眼スキル持ってるんだよね。嘘偽りを見抜くスキル。で、この能力値の隠蔽も並の能力の教師程度じゃ見抜けないレベルでね。君、知ってるかなと思ったんじゃけど。その様子じゃ知らんかったみたいじゃな」
知らなかった。気づかなかった。わずか5年の間にこれほどの能力値を上げていたとは。
「うちの子天才!」
「いや、感心するのそこじゃなくて」
「何か問題でも?あの子はフロランテ商会でドルシネアの補佐として仕事をしたいという夢がある。聖女にはさせませんし、魅了のスキルなんか、商売人ならみんな持ってるじゃないですか」
「うんまあ。聖女にはさせられないんだよ。この子、多分、大聖女と言われている聖女の落とし子じゃから」
「は?」
大聖女の、落とし子?
「聞いたことないかの?表に出てこない大聖女が神殿の奥で暮らしてるって」
「え、いや。ええ。それは、誰もが知ってる、というか、え?」
「あれ、実は嘘なんじゃ。まあ、罪深い聖女が、大神殿の奥で幽閉されてるのはホントなんじゃけど」
「罪深い聖女」
「そう。聖騎士の一人と体の関係もっちゃっての。それを隠そうとして子供を捨てたんじゃ」
「はあ?」
「まあ、聖女としてというより、人としてどうなのって非人道さ故に幽閉という処置をとって、教会と聖騎士団は失態を隠蔽するために、大聖女なんて役割を作り上げて隠した訳じゃ。聖騎士に対しては除隊の上、断種して修行僧として出直し。密かに出産してた事が明らかになってから、必死で子供の行方を探したんだけど、これまで見つからなくて。赤子だったし、死んでしまったのだろうと捜索を諦めたところで、その聖女そっくりの子供が学院に入学してきて、わしもびっくり。しかもその子が影部隊のナンチャッテ家の養女とか、笑ったわ」
「聖女の、子」
母親が聖女で父親が元聖騎士。そりゃ聖魔法の遺伝もわからないでもないが。
「しかもじゃ。その修行僧に落とした男は瞬く間に出世して、今やナンチャッテ男爵地区の教会の神父をしとると来た。まあ、本人は気づいていないのか隠しているのか、名乗り上げてはおらんがの」
「え”」
あの神父、実の父親だったのか!?
元聖騎士団長は真眼スキルのせいで団長になった経歴の持ち主。当然、国の闇も教会の闇も、知り尽くした上で団長やっていたので割と腹黒だったりもする。




