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織田信行が行く(改)  作者: あひるさん
23/41

兄は東へ、弟は西へ(1557~1558年)

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

 信行に連れられて鳴海城に戻った利家は勝家の家に居候する形で静養する事になった。当初は寝起きがまともに出来ない程窶れていたが、周囲の協力もあって体力面の心配が無くなった事から信行は城に呼んで役目を与える事にした。


「利家、以前と同じく足軽大将として勝家に付いてもらう」

「某に務まるでしょうか…」

「松を嫁に向かえたらそんな事を言う暇は無くなるぞ」


 松は侍女見習いとして城に上がって帰蝶の下で花嫁修行をしている。同朋衆の一件があるので城と家の往復には母衣衆が護衛に付くという破格の待遇である。その影響からか名古屋城周辺では松が土田御前の養女となってから利家に嫁ぐという噂が流れていた。


「誰が生活の糧を稼ぐんだ?まさかとは思うが松に稼がせるつもりなのか?」

「そんな事をすれば総スカンを喰らいますよ」

「分かっているなら得物の手入れをしておけ」

「はあ…」


 利家は同朋衆の嫌がらせが原因でやる気が失せており、信行がその気にさせようとしても直ぐに萎えてしまう有様だった。


「煮え切らない奴だな。勝介」

「何でしょうか?」

「利家の目を覚ましてやってくれ」

「仕方ありませんな」


 勝介は立ち上がると利家の首根っこを掴んで引き摺るようにして外へ連れ出した。上役に抜擢されるまでの勝介は戦場において常に殿軍を任されて死地と背中合わせで戦っていたので武勇だけでなく胆力においても織田家随一の武辺者として恐れられていた。勝介と訓練するという事はタダでは済まない事を意味していた。利家がその気になれば勝介を凌駕すると思っている信行は荒療治に出る事で利家にやる気が戻るのを期待した。


*****


 三河から駿河にかけて情報収集を行っていた善住坊が戻って来たという知らせが来たので信行は直ぐに呼び寄せた。


「今川の動きはどうだ?」

「目立ったものはありませんが…」

「どうした?」

「強いて言うなら松平竹千代が元服して松平元康と名を改めた事でしょうか」

「松平か。厄介な奴が出て来たな」


 信行は松平元康の事を人に取り入るのが上手いずる賢い男だと見て警戒していた。元康は幼少の頃に那古野城で人質生活を送っていた事から信行とも面識はあった。元康は信長から弟のように可愛がられていたが、その目は心から喜んでいるように見えなかった。


 松平から見れば織田は仇敵とも言える存在である。祖父清康は守山城を攻めている最中に味方の裏切りに遭って斬殺されたが、織田が大きく関与している可能性が高いとされている。また父広忠は水野信元の裏切りで妻於大と離縁する羽目になり、度重なる織田の侵攻で神経をすり減らして早逝したとされている。


 元康が今川を利用して織田への復讐を果たすか、織田に取り入り内から破壊するかを画策していると信行は見ていた。


「松平元康の動きにも注意を払ってくれ」

「気になりますか?」

「あの男は織田に仇なす者と見ている」

「消せますが」

「止めておけ。今川に警戒されたら厄介だ」

「心得ました」


*****


 信長と信行は外敵に頭を悩ませていたが、内政面では信長が打ち出した政策である街道整備・関所改廃・楽市楽座は内政に専念した事もあって順調に成果を上げていた。また重治の提案が切っ掛けで実行した軍制改革は農民兵が主体だったものを常備兵主体に改めた事で一年を通じて合戦可能な状態になり、旧来の軍制である周辺国に対して有利な状況を作り出した。


「兄上、用事があると聞きましたが?」

「近いうちに美濃攻略を始めるぞ」

「いよいよですね」

「義父殿や重治から色々教わったからな」

「一度で落とすつもりですか?」

「それが出来れば苦労せん」


 信長は地図を広げるとある場所に印を書き込んだ。


「先ずは美濃国内に橋頭堡を築く。次に調略で家臣団を切り崩す。稲葉山を攻めるのは条件が全てが整ってからだ」

「あの城は難攻不落ですから」

「それを無茶苦茶にしたお前が言うか?」

「あれは偶々です。何度も成功する策ではありません」


 道三の身柄に関する交渉の席で義龍とやり合った信行は焙烙玉を用いての破壊工作を行い大混乱に陥れた。


「確かにな。それでだ、俺が美濃に取り掛かる間にやってもらいたい事がある」

「何でしょうか?」

「三河を攻めろ。その後は東へ進んで駿河まで落とせ」

「今川を潰せと?」

「そうだ。直虎との約束を果たしてやれ」

「承知致しました」


 義元の介入で一家離散に追い込まれた直虎は今川に恨みを抱いている。尼僧となって身を隠していた直虎を保護した際に復讐の手助けをすると約束していた。


「俺の背中を任せれるのはお前だけだ。しっかりやれよ」

「お任せ下さい」

「お前に預けたい奴が居る。別室で待たせているから顔合わせをしてくれ」


*****


 同朋衆を根刮ぎ消した事で新たに設けられた近習に案内された部屋に入ると桑名で顔を合わせた明智光安と明智光秀が居た。


「お待たせして申し訳ない」

「我々も先程呼ばれたところです」

「二人共美濃攻めに必要だと思っていたが…」

「我々もそのつもりでおりましたが、奥方様から尾張介様の寄騎になれと言われまして」

「義姉上が?」


 母深芳野が明智光安の姉である事から帰蝶は幼少の頃から明智家に出入りしており、光安と光秀の事はよく知っている。信長が三河攻めを命じるにあたって軍配役が信行と勝介しか居ない事に頭を悩ませていたのを見て、光安と光秀を寄騎に付けたらどうかと提案した。


「御館様もそれならと同意されまして」

「二人が寄騎になるのは心強い。喜んで受け入れさせてもらう」

「ありがとうございます」

「三河攻めについて意見があれば聞かせてほしい」

「今川義元が援軍を出す事を憚られる状況を作り出せば現有戦力で三河を落とす事は可能です」

「援軍を出したくない状況とは?」

「三河全体が荒れる事です」


 三河には一向宗の門徒が多く、今川家臣も多く含まれている。義元は臨済宗の僧侶から還俗して当主の地位に就いたが、同じ宗教でも一揆を用いて体制を乱す一向宗を毛嫌いしている。三河で一向宗弾圧の噂を流すと共に駿河の義元にも一向宗蜂起の噂を流して衝突するように仕向ける。三河は松平の混乱を利用して奪ったものなので統治に本腰を入れていないので一揆勢が有利になれば一旦手を引く可能性が高い。その隙を狙って三河に侵攻して一揆鎮圧と一向宗の排除を行って支配下に組み込むというのが光秀の考えである。


「その案で進めよう」

「噂を流す方法ですが」

「その役にうってつけの者が居る」


 それに長けている甲賀忍と商人上がりの秀吉なら噂を広める程度の事は容易にやってのけるという確信があった。信行は光安と光秀を自身の寄騎として迎える事を信長に伝えた。

【登場人物】

松平元康 1543〜

 →今川家臣

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