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織田信行が行く(改)  作者: あひるさん
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兄弟の盟約(1549〜1552年)

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

2024.9.14改訂

 織田弾正忠家当主である織田信秀が居城にしている末森城に次男信長がやって来た。那古野城を任されている信長は仕置きの事で信秀から相談したいと呼び出されていた。話し合いを終えた信長は弟の勘十郎が居る部屋を訪れた。


「兄上、お久しぶりです」

「勘十郎、元気そうだな」

「はい。兄上もお元気そうでなによりです」


 信長は末森城で暮らす勘十郎と会う機会があまり無いので顔を合わせる度に会話をするように心掛けていた。家臣の間では『ウツケの信長』・『聡明な勘十郎』と言われており、勘十郎が次期当主に相応しいと言う者も居た。


「母上からお前を大事に扱えと説教されたぞ」

「またですか」

「顔を合わせる度に言われてな」


 二人の実母である土田御前はウツケと呼ばれる信長を織田家の恥だと毛嫌いしており、勘十郎を可愛がっていた。信長自身も土田御前とはソリが合わないと感じている事から顔を合わそうとせず距離を置いているので親子の溝は深まるばかりだった。


「普通に接してもらいたいのだが…」

「母上にはそれとなく伝えてみます」


 勘十郎は親子仲が悪ければ信長の家督継承時に影響が出る事を危惧しており、土田御前に対して信長に歩み寄ってほしいと伝えているが聞き入れてもらえない状況が続いている。この件については当主信秀も承知していて頭痛の種になっている。


「兄上を悪く言っているのは通具でしょう。私を持ち上げようと躍起になっていますよ」

「噂は聞いている。鬱陶しい奴だ」


 信秀は後継者を信長と決めており、家臣全員にも伝えている。しかし末森城に詰めている家臣は林通具が中心となって勘十郎を推す動きを見せている。付家老を務める林秀貞が注意せず事態を静観している事から林兄弟が結託して自分を擁立しようと企んでいると推測していた。


「親父殿は林兄弟を相手にしていないようだな」

「適当に聞き流していますね」

「真面に聞くだけ時間の無駄だと分かっているからだろう」


 信長の推測通りで林通具は何かに付けて信秀に対して勘十郎を持ち上げる発言をしているが、信秀は一切相手にしない事から周囲に信長の愚かさを吹聴して評価を落とす画策をしていた。


「兄上、思い切って大掃除をしませんか?」

「大掃除?」

「不要な連中を片付けるのです」


 勘十郎は通具の策略を利用して信長との兄弟仲が悪いという噂を家中に広めて信長に従わない家臣を炙り出す提案をした。反信長の家臣については信長が家督を継承して実権を握った段階で一斉に排除する。勘十郎の提案を了承した信長はウツケのフリを続けつつ手駒の確保に努めた。


*****


 数年後流行病を患った信秀は予てからの不摂生が祟り、回復する事なく日毎に衰えていき身体を起こすのが困難な状態になっていた。そんな折に信秀から突然呼び出された信行が療養部屋を訪れると信秀は珍しく身体を起こしていた。


「父上、どうされました?」

「織田家を手に入れたいか?」

「藪から棒に何を言い出すかと思えば」


 信秀は家中で流れている噂を信じていなかったが当事者である信行の本心を知りたかった。信行が家督を望むようなら病身に鞭を打って全力で止めるつもりだった。指示に従わなければ殺す事も厭わない悲壮な決意を抱いていた。


「私は兄上を支えるだけです」

「そうなのか?」

「兄弟喧嘩をすれば終わりですね」


 信行の口から予想外の答えが出たので信秀は拍子抜けして倒れそうになった。異変に気付いた信行が身体を支えたので難を逃れた。信秀は自身の死期が近い事を悟っていて心置きなくあの世へ行けると安堵した。信秀は自身に万が一の事が起きた時には家督を信長に譲る旨を記載した遺言状を作っており、信長と家老に預けていた。


「三郎をしっかり支えてやれ」

「当たり前です」

「分かったから儂を睨むな」


 信秀はそれだけ言うと目を閉じて眠りに就いた。信行は一礼して部屋を後にしたが、これが信秀の生前最後の言葉になった。

【登場人物】

織田信行 1536〜

 →織田信秀の三男、通称は勘十郎

織田信長 1534〜

 →織田信秀の次男、通称は三郎

織田信秀 1510〜

 →織田弾正忠家当主、信長と信行の父

土田御前 1512〜

 →信秀の正室、信長と信行の母

林通具 1516〜

 →織田家臣

林秀貞 1513〜

 →織田家臣、林通具の実兄

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