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創造ー僕らの理想をもう一度ー  作者: むすっちゃ
歯車の再起動編
5/5

第5話 試験開始ー1ー

「やぁ、ようこそ特別推薦者よ。今日は特別に、僕が審査をする。」



太平洋の見える大きなガラスの壁の前に、王族が使うような椅子に座る小村がいた。


「座っていただいて結構ですよ。そちらの紅茶とお菓子はご自由にお召し上がりください。」


中にいた女性がそう言うと、小村ともう1人の男に深々とお辞儀をして外へ出ていった。


ここで、祐希と結真は気になった点が2つ出てきた。小村の隣にいる男は誰なのかと、なぜ小村が審査を行うのか。


だが、それを聞くより先に、答えが判明した。


「おいおい、なんで親父もいるんだよ。小村さんが試験するんだろ?親父がいる必要ねぇじゃねえか。」


兄の方が口を開いた。どうやら、小村の隣にいる男は、兄妹の父親のようだ。


「ねぇ、お兄ちゃん...。試験中だよ?ダメだよそんな態度は...。」


妹の方が注意した。兄とは違い、常識人なようだ。だが、そんなことを聞くはずがなく


「うるせぇよ、親父がいるのが問題なんだ。」


祐希と結真は、なんて態度なんだ...と思った。

それとは反対に、小村は笑っていた。


「はははっ、やはり君の子供は面白いね、日本我人連盟長、志宮賢治くん。」

「やめてくれ小村。お前が言えることでは無い。」


隣の男、志宮賢治がぶっきらぼうに言った。


「俺は独身だぞ?子供いないからな?というか結婚なんて暇は無いからな?」

「...まぁいい、話が逸れた。ここは日本我人連盟本部だ。君の親である連盟長がいてもおかしくないだろう?

日本我人連盟に推薦したのも志宮だ。今回は志宮に無理を言って僕が審査をすることになった。」


「特別推薦者が自分の子供だからな、忖度がないことを証明するためだ。小村にやってもらって助かった。」

「今まで落ちた人はいないんだから、忖度も何も無いだろう?考えすぎだ。」


4人を他所に話し始める小村と志宮。

そこに割り込むように兄の方が話す。


「なら早く試験を始めてくれ。」

「分かったよ。じゃあ始めようか。」


そう言うと、小村と志宮以外の職員が部屋から出ていった。


前置きが長かったが、今度こそ試験が始まった。




ーーー





「まずは自己紹介を。名前、年齢、現在通学中の学校名を左から順に言ってくれ。」


小村がこのように言うと、祐希から順に各々自己紹介を始めた。



「神坂祐希、18歳です。国立中央高等学校3年生です。」


「佐々木結真です。18歳です。通学中の学校は国立東京高等学校です。」


「志宮雪乃、19歳です。創世大学出身です。」


「志宮玲翔、20歳、創世大学出身だ。」



自己紹介が終わると小村が再び質問する。



「最初で最後の質問だ。君たちはなぜ創世軍に入ろうと思った。左から順に答えろ。」



口調が変わり、威圧的になる小村。

それに負けず、4人は先程と同じ順で答え始める。



「自分の力で、人を助けたいからです。

お前には力がある、だから弱いものを助けろ

と父親によく言われたもので、だから命を張る覚悟でここに来ました。」


「人の役に立つためです。

昔から人の役に立つのが好きで、いつか死ぬ時も、絶対に誰かの役に立って死のうと思ってます。

そんな私に、今回の話は絶対に捨てられないものだと思い、ここに来ました。」


「何も出来ないのは嫌だから...私が出来ることは何でも遂行したい。

無名でもいいです、ただ、再び世界の光が戻った時、世界を変えた1人になりたいからです。」



「親父に入れと言われた。それだけだ。」


あまりにも端的すぎる。入りたいという意志がないのは仕方がないが。


それに対し小村は、


「それじゃ不合格だ。決意がまるで感じられない。

まさか合格率100%だからといって、試験を舐めてたとかじゃないだろうな?」


「玲翔以外もやり直しだ。考え直せ。

僕に対して、その心が伝わるように、もう一度、左から順に答えな。」


と厳しいコメントを残す。


「...。」


誰も口を開かない。一人を除いて...


「おいおい小村さんよぉ、そりゃ、俺らの意見を否定してるのと変わらないよなぁ?世界のトップたる人物がそんなことするのかよ。」


玲翔は、小村の発言が気に入らなかったようだ。

だが、そんなこと知らないとばかりに、小村は玲翔を挑発する。


「まさか、さっきの発言で僕が君たちの意見を否定したと受け取ったのか?

どうやら君は想像以上に頭お花畑だったらしい。その小さい脳みそで、少しくらい物事を考えてみろよ?」


「...は?」



空気がピリつく。


玲翔はまんまと挑発に乗ってしまい、他の3人は内心とても焦っている。


「ちょっと、お兄...」

「おいおい、こんなことでイラついてんのかよ。何か言ってみたらどうだ?なぁ!」


雪乃が玲翔をなだめようとしたが、小村のさらなる挑発にかき消された。そして...



3人が危惧していた「最悪の事態」に遭遇する。





「...死ね」





玲翔がそう呟くと、目視できない速さで小村に突撃する。3人は目で追うことが出来なかった。


だが...



「僕も舐められたもんだなぁ、まさか武装もなしに戦おうだなんて。諦めな、君の攻撃は僕に届くことは無い。」



小村にその攻撃が通ることは無かった。玲翔の拳は、小村を包むようにして展開されている結界によって止められていた。

薄黄色く輝いているバリアは、玲翔が動き出したと同時に展開されたのだ。


小村は無防備だったが、この一瞬で守りに入ったのかと、玲翔含め4人は絶句した。


対照的に、小村と志宮は当たり前だろと言わんばかりのすまし顔をしている。


「...なんでこの短時間で防げた?」


玲翔が疑問を口に出す。


この言葉は自意識過剰だからではなく、本当にそうだからである。


実際、父である志宮賢治にも認められるほどの速さを誇っており、そのスピードだけを見るならば、瞬間的に音速近い速度を叩き出している。いや、音速は余裕で超えているだろう。


だが、小村に攻撃が届かなかったどころか、周りの置物などにも一切被害がなかった。

音速を超えればソニックブームで想像を絶する風圧となる。そのため、周りでさえ何も被害がないことに余計に混乱した。


玲翔が小村から距離を置くと小村が


「ごめんごめん、君たちを試してたんだ。挑発するような形になってしまってすまないね。

本来は君たちがなんと言おうと僕は合格にしてたさ。」


それを聞いて、玲翔以外は安心した。


「だが、まさか玲翔君が突っ込んでくるとは思わなかったな。予想外だったよ。 実に面白い。」


と、苦笑しながら答えた。


「玲翔はこういうヤツなんだ、許してやってくれ。」


と志宮が申し訳なさそうに言う。続けて


「俺はこれから1時間ほど会議がある。先に失礼するぞ小村。何かあるならその後にしてくれ。」


と言い、部屋を出ていった。


「ここは志宮の部屋なんだから失礼してるのは僕たちの方だけど...」


志宮が去った後、小村が呟いた。



話は変わり、


「じゃあ、次は実技試験に移る。地下5階に移動するよ。」


小村が説明すると、部屋から出て「移転昇降機」に向かうことになった。


ここがチャンスだと思い、祐希は小村に気になったことを聞く事にした。

周りに聞こえると非常に面倒なので、小声で話す。


「小村さん」

「ん?どうした?」


小村も察してくれたのか、小声で反応してくれた。


「玲翔?って人、凄い態度悪かったですけど、あれは大丈夫なんですか?」

「あぁ、そういう人は多いからね。能力の欠如って呼んでいる。」


能力の欠如、聞いたことがあるようで聞いたことの無い言葉だ。

祐希が頭にハテナを浮かべていると、小村が続けて説明した。


「天は人に二物を与えずということわざがあるように、創世軍のほとんどは人間が本来持ってるものを持たずして生まれてくる。


これは想像種に限らずの話だが、想像種の才能についてはその傾向が非常に強いんだ。

身体の一部欠損・奇形・麻痺、あるいは精神的能力が欠如している人がとても多い。


だからあのような例も珍しいもんじゃないよ。」



小村が言うには、超人的な力を得る代償として能力の欠如が存在する。

いわば人類が初めて手にしたであろう条件と対価だ。


しかし、それは普通の条件と対価のように好きにすることはできない、望まずして生まれもったもの。

その欠如は遺伝することも多く、新たな能力の欠如をもって生まれる者もいる。


また、創世軍では、能力の欠如という言葉は創世軍にしか使ってはいけないという掟がある。一般人に使うと、障碍への差別だとして批判されるらしい。


「僕も物凄い変わり者だから、ある意味能力欠如者と言えるだろうね。僕は別で欠如してるものがあるんだけど。」


と小村は笑いながら話した。


祐希も大体納得出来たのでそれ以上話を深掘りすることは無かった。それに、自分も腕が奇形だったので、すんなりと受け入れた。


そうして5人は、転移昇降機で地下5階まで移動する。



転移昇降機の扉が開くと、東京ドームがすっぽり入る大きさの空間が目に入った。


「うわぁ...」


玲翔以外の3人が揃って声を漏らした。

全面強化コンクリートのだだっ広い空感は、簡素ながらも不思議な魅力がある。

3人がそれに見とれていると、小村が4人の前に立ちこう告げる。


「よし、これから実技試験を開始する。」


試験は2本立てだが、最初の面接試験はあってないようなものなので実質実技試験のみみたいだ。


「この実技試験では君たちの能力の程度を把握する。これの結果によって入隊時の階級が変わってくるから、真面目に行うように。」


小村がこう伝えると、結真が質問する。


「その試験の内容はどのようなものですか?」


その質問を待ってた!と言わんばかりの顔をする小村は、衝撃の発言をする。



「試験内容は至って簡単!想像結界を張ってるだけの無抵抗の僕に、君たちの火力をぶつけるだけ!」


「!?!?」



4人とも絵に書いたような反応をした。そんなこともお構い無しに小村は試験の準備を始めだす。


「君たちには、せっかくだしこいつを体験してもらおう。」


そう言うと、いつの間にか右手に持っている玉のようなものに呪文のようなものを囁く。



「万人、天秤となれ。」



すると、玉のようなものが光りだし



「想像兵器起動『テスター』」



と小村が呟くと、玉を中心に円柱状に大きい膜が貼られる。


直径は100m程度で、膜は天井まで伸びている。

そして、4人はなぜだか、力が溢れるような感覚がある。


何が起きたかさっぱり分かっていない4人を見て、小村は言う。


「この想像兵器、テスターは、主に想像種の技の研究や戦闘知識の蓄積、今回のような特殊演習などに使われている。


これには条件と対価が根源の『天秤の種』が組み込まれている。想像技能の『契約』の最終発展型だ。」


「...契約?」


祐希が疑問を口にする。祐希と結真にとって初耳のものだが、玲翔と雪乃は既に知っているようだ。


その疑問に、玲翔が反応する。


「契約は、創世軍の一般的な強化手段だ。自身の技や能力の使用を一時的に禁止することで、特定の技や能力を強化することが出来る。

また例外だが、他人の強化が出来る者や、自身の身体を犠牲に契約を施すことが出来る者もいる。


これらの例外を除き、自身が自身にかける契約のことか、想像兵器による契約のことを「契約」と称する。


だが、万能という訳ではなく、その契約を破ると相応のペナルティが課される。」


それに続いて小村が説明する。


「例えば、超種砲の使用を制限して圧種砲を強化するとしよう。


想像兵器によるものなら詠唱の必要は無いが、自身で契約を行う場合は詠唱が必要になる。これを契約詠唱と呼ぶ。


契約詠唱は今回の例でいくと『契約、超種砲を禁じ、圧種砲に与える』などと言うことで契約が施され、圧種砲が強化される。

しかし、その状態で超種砲を使ってしまうと身体的ダメージなどを受けることになる。


強化内容や規模にもよるが、最悪死に至るほど扱いの危険なものでもあるんだ。」


「なるほど...」


結真と祐希が頷きながらつぶやいた。聞きなれない単語ばかりだったが、なんとなくで意味を理解できた。


そして、小村は話を戻す。


「今使っている想像兵器テスターは、展開する前に契約の詳細を落とし込むことで、範囲内の者に強化、弱化をかける事が出来る。


君たちには想像力上限、出力と能力精度の強化を施し、僕が君たちの出力上限まで出力を落とすことを条件として行った。

君たちが契約を破ることは無いし、僕が契約を破ったら僕のみペナルティを貰うことになる。」


これの影響で、4人は力が溢れるような感覚を得たのだろう。


既に出力を落としている小村が、何かをしようとしているが、誰も気づいていない。


そして


「そのペナルティだが、本来この程度であれば行動制限や自傷だけで済む。だが、今回はテスターでペナルティもいじっている。」


小村がそう言った瞬間、いきなり出力が上がり、それと同時に小村が文字通り爆散した。



「...え?」



死の恐怖より、困惑が4人を襲った。だが、それを理解するより前に先ほど爆散したはずの小村が一瞬にして現れ、4人は更に困惑した。



「このように契約を違反すると死亡ペナルティが発動するようにしておいた。


テスターの領域内であれば、今みたいに死んでも直ぐにどこからでも復活できるが、試験開始後はあそこの檻の中で復活するように設定してある。」



と、鉄格子を指差して小村が話した。ようやく状況を把握した4人の疑問を玲翔が呟く。


「どうやって生き返ったんだ?」


当たり前だが、生物が生き返るなど有り得ない。ましてや、何のカラクリもなく一瞬で元通りになるのは論外である。

その呟きを聞き取った小村が再び説明に入る。


「想像種による状態記憶と完全再生によるものだ。


一部の創世軍隊員、想像兵器でしか扱えない、あらゆるものの状態を一時的に記憶し、それが欠損した場合に元の状態に戻す力だ。

転移昇降機はそれを応用したもので、この力は他にも色々な場面で使われるほど便利なものなんだ。


まぁこれに関しては創世軍じゃないと知らない情報だからね、今後の授業やらで扱うだろうから何となくで理解しておけばいいよ。」


簡単に言えば、常にセーブデータを更新しておいて、いつでも最後のセーブデータを開けますよということか。


そして、小村が話を続ける。


「じゃあ、前置きはこれくらいにしておいて、さっさと始めちゃおう。


今から10分間、作戦会議の時間を与える。その間にお互いの能力を把握し、僕に攻撃が通るように作戦を立てること。

戦闘時間は50分。君たちの成果次第で創世軍での階級が変わるから、手は抜くなよ?」


そして、また小村が何かを唱え始めた。



「『解放』初心戦闘装備」



すると、小村の手のひらに藍色のうずができ、その中から機械のようなグローブが4セット出てきた。

両手いっぱいに収まるグローブを4人に渡し、小村は


「本番はこれを使うといい。こいつの能力は出力の拡張だけで、簡単に扱えるからすぐ慣れるはずだ。」


と言った。だが、それが気に食わなかったのか、玲翔が反発した。


「おい小村さんよぉ、これは俺らのことを舐めてるのか?そこの2人の実力は知らんが、少なくとも俺と雪乃にこんなのを与えるのは愚策だと思うが」

「ちょっとお兄ちゃん、貰えるものは貰っておこうよ...。」


好戦的な玲翔に対して気弱そうな雪乃のスタンスは変わらず、雪乃の発言は強気に出た玲翔とは真逆だった。

それに反応した小村も、少し強気に出る。


「おいおい、君こそ僕を舐めてるじゃないか。

出力を下げてるとはいえ、君たちと同じ想像力だ。

僕は基礎技をよく使う人だからね、限界まで極めている。

故に僕の基礎技の練度は君たちの想像を絶するが、それでもいいのか?」


これを聞いた玲翔は、流石に強気に出る気が無くなったのか大人しく受け取ることにした。


「じゃあ10分後だ。それまでに作戦決定を済ませておけよ。」


小村がそう告げると、4人の後ろに1枚の結界が出来た。

円状の壁の端から端、そして天井まで伸びている結界だ。


「その中に入って、作戦会議や技の試し打ちをしてくれ。こっちからは何も見えないし聞こえないから、時間内に思う存分やっていいよ。」


と小村が言うと、4人ともその結界の中に飛ばされた。



「...凄い雑だなぁ...。」



と祐希が呟くが、その声が小村に届くことは無い。


結界には残り時間が大きく浮き出ていて、0になったら結界が消える仕組みなのだろう。


「おいお前ら、時間が無い、さっさと始めるぞ。」


待つのも限界になったのか、時間を無駄にしたくないのか、玲翔が勝手に作戦会議を進め出した。




ーーー




そして、10分の時間が過ぎ、結界が消滅した。消えた結界の先には小村が佇んでおり、すぐに試験を開始するようだ。



「これより、全能力の使用を許可する!制限時間は50分、僕のシールドを全て割り、ダメージを与えることが出来たら君たちの勝ちだ。」



ついに、戦闘が開始する。

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