第4話 新しい道
週末、家族と色々話した。これからどうするか、何を持ってくか、何か準備するか、沢山話して沢山調べた。
幸いにも、父が創世軍に詳しかったため話が難航することは無かった。
小村から
「こっち来る時は1週間分くらいの着替えとか、私物とか持ってきてね。」
と言われたので、そちらも持っていくことにした。
水曜日、これが最後の登校日になった。学校側は小村から連絡が来てたらしく、校長は腰を抜かして驚いていたそうだ。
学校に着くと、超有名人が来たかのような熱烈な歓迎を受けた。いつも行っていた場所なので歓迎と言っていいか分からないが。
我人襲撃の日に連絡がいっており、そこから急遽準備していたらしい。学校全体で祝祭を行い、祐希は卒業証書を貰った。
これで祐希の学生生活は終わりとなる。楽しく、名残惜しく、嬉しく、悲しい日だった。
ーーー
学校を去る時、校長から
「今日の出来事が、君の記憶に残る思い出になってくれたら、私たちはとても嬉しく思うよ。」
と言われた。当然、祐希は思い出に残る一日となった。数日しか準備期間がなかったのに、物凄い歓迎体制で最初は驚きしか無かった。内容もお粗末なんかと程遠く、終始心が踊っていた。
帰る際、玄関から校門まで、生徒と先生がずらりと並んでいた。その道を通り、校門の前に着くと後ろを振り返り、
「今までお世話になりました。」
という旨を伝え、祐希は高校を卒業した。
日本では、創世軍特別措置法というものがある。その法律の第2条第1項に
『民間、地方自治体、国が運営する各創世連盟、あるいは世界連合創世軍総司令部本部又は支部からの推薦によって、現在通学している学校の退学を余儀なくされる場合、その学校は該当者を特別生として卒業資格を与える義務がある。』
という条文がある。これのおかげで卒業できたのだ。
祐希と結真、別の推薦者2人は国が運営する
「日本我人連盟」
からの特別推薦だ。民間、地方自治体が運営する連盟からの推薦は特別推薦者とはならず、普通に推薦者となる。
とはいえ民間や地方自治体の創世連盟は国営の傘下なので、所属先が違うだけであり、大した差は無い。
また、国営は世界連合の傘下でもある。当然、世界連合からの特別推薦も存在するが、世界連合からの特別推薦というのは本当に珍しいらしく、特別推薦を受け取れたのは今までで数人程度らしい。
ーーー
金曜の朝、祐希は家を出発することになった。
目的地は東京都大田区日本特区島。羽田空港の隣に埋め立て地として1962年に作られ、対我人関連のビルが建ち並んでいる。度重なる改修を経て、常に最新設備が施設内に配備されているという。面積は空港の2〜3倍程度もあり、とんでもなく広い。
日本が陥落した際の最終抵抗場所として羽田空港と共に使われることになっており、国内最大の武装規模となっている。羽田空港第2ターミナル駅から、特区連絡線で専用列車に乗ることで行くことが出来る。
「頑張ってね、祐希!」
「頑張れよ祐希。」
「お兄ちゃん頑張ってね!」
いよいよ出発の時間だ。家族に見送られ、祐希は家を後にする。後日小村から連絡が来ており、週末は帰れないことが確定したので、大量の荷物を持っている。
ついに、祐希は目的地の日本我人連盟に向かうことに。
駅に向かうと偶然結真と合流出来たので、一緒に行くことにした。
ーーー
ー東京都大田区ー
「うわぁ...」
祐希たちが目にして絶句したのは、基地を囲む高さ20mにも及ぶ対我人防壁。ここで大量の兵器が保管されている。とても重厚な見た目で、強さの象徴として日本に君臨する巨大防壁だ。
ドイツで大型我人の出現が確認されていることから、日本も対策をしているため、このような巨大な壁になっている。
壁の中に入ると、SFの軍事施設のような景色が広がっていた。この景色が2050年代にあっていいものかと思ったが、それは置いておくことにした祐希たちであった。
実際、こんなに軍事化された場所など両手で数えられる。東京、台北、ダンツィヒ、ベルリン、ウィーン、ロンドン、パリ、ジブラルタル、ネバダの9つのみ。その中でもベルリンと要塞都市台北は規模が桁違いだ。ベルリンは都市東側の近郊にあり、要塞都市台北は名前の通り台北全体が軍事要塞として存在している。
次点でジブラルタルと東京がランクインするが、ベルリンや台北と比べられるほどでは無い。
対我人用軍事施設はワルシャワ、イスタンブール、アテネ、ブダペスト、京城、釜山にもあったが、我人侵略の激化に伴いそれぞれ1965年、1985年、1991年、1993年、1993年、2016年に陥落した。
この島は対我人軍事組織なだけでなく、ベルリン、ノースカロライナと並ぶ世界最高研究所となっており、対我人兵器及び想像種兵器の研究開発が行われている。このようにとてつもない規模であるため、世界的に有名な人物がごろごろといて、2人は驚きを隠せなかった。
ー日本我人連盟本部ビルー
島の中心にそびえ立つ62階建ての高層ビル。ロビーに行き、身分証明をすると、案内人に連れられ61階に上がった。エレベーターだが、これはこれは凄かった。名前を「移転昇降機」と言うらしいが、今までの知識じゃありえない事が起きていたのだ。案内人によれば想像種を応用して実現しているらしい。
『瞬間転移』
物質の情報を読み込み、転移先の座標とリンクさせその物質を転移する。物であろうと生き物であろうと、なんでも移転できるらしい。想像種による物体認識と座標指定を利用して居るだけの簡単な仕組み、と案内人は言うが...
色々と現実離れしていて2人は苦笑すらしなかった。
ということで、すぐに61階まで上がることができ、2人はそのまま廊下を進んでいった。
廊下の1番奥の部屋に小村様がいます、と案内人に伝えられ、その通りに目的地へ向かう。と、なにやら2人くらい先着がいるようだ。最初は役人かと思っていたがどうやら同じ特別推薦者のようだ。
「どうも」
祐希たちは声をかけた。祐希たちの方を向いた男女2人は見た目的に兄と妹のようだ。
他に特別推薦者が居るとは聞いていなかったため、てっきり自分たちだけかと思っていた祐希たちだが、そうではなかった。
「戦場で馴れ合いは悪手だ」
兄の方が口を開く。いかにも冷徹そうな雰囲気で、強者感が溢れ出ている。
「お兄ちゃん、初対面の人にその態度は良くないよ...。」
今度は妹が兄に対して話す。少し気弱そうだが、とても優しい声をしている。兄の方とは正反対だ。
「そうですね。今は試験に集中しておきませんと。」
結真が話し出した。面倒ごとは避けたいタイプなので、相手と一触即発状態にならないように返事をした。
そんなやり取りをしていると、中から
「どうぞ、お入りください」
という女性の声が聞こえてきた。
4人は扉を開け、部屋に入る。
「やぁ、ようこそ特別推薦者よ。今日は特別に、僕が審査をする。」
小村が、4人に対して軽やかに告げる。
ついに、特別推薦試験が開始した。