第3話 転機の訪れ
気づいたら半年くらい投稿してませんでした。私生活が忙しくてなかなか投稿出来なかったです。
特別推薦。創世軍の上位者と各国の創世軍連合長による推薦によって取得することが出来る。
各国、年平均2人〜6人が特別推薦を獲得しており、合格率は100%である。
日本において特別推薦の受け取りを拒否する権利はあるものの、受け取り拒否の前例は無く毎年2人ほどの特別推薦者が創世軍に加入している。
ドイツでは特別推薦の受け取り拒否は法律で禁止されており、いかなる理由でも拒否することが出来ないとのこと。
「俺たちが...ですか?」
祐希たちは、自分たちが置かれている状況を理解出来ていない。
「そう。君たちだ。さっきの我人、かなり消耗していた。君たちだろ?」
「!?」
動揺を隠せなかった。祐希たちにとって我人がかなり消耗してたことも驚きだったが、それよりも相手がどんな状態にあるか瞬時に判断したことに驚いている。
本来、敵情報の読み取りは相当な腕がないと行えず、ましてや相手の消耗率まで入手することは至難の業だ。普通は有り得ないことなので唖然とした。
さっきまで真面目な雰囲気だった小村だが、今度はおちゃらけて話し始める。
「てな訳で、君たち2人に選択肢を与えまーす!2人は総司令官から特別推薦者として、日本連盟に招待されました!今から2択を君たちに用意するよ!もちろん、どちらを選んでもらっても構わない。」
茶番劇が始まった。小村が楽しそうに話を続ける。
「1つ、平和な世界で人生を謳歌する。我人と一切関係のない生活を送り、平和な世で息を引き取る。
実につまらなく、最善な選択だね!
みんながこの生活を送り、一人一人が物語を作る。誰も同じ道を歩むことは無く、他者と共に物語を合作し、幕を閉じる。人間として最高の生活を送れるね!
そしてもう1つ。」
おちゃらけた話し方をしていたと思いきや、それが一転。
「僕らと絶望を冒険する。」
その瞬間、小村からの凄まじい圧力が2人を襲う。あんなに軽やかだった空気が、鉛玉のように重い。
楽しそうな、明るい声の面影はなく、その声は脅し混じりの低い声。そして小村の威圧により空気が更に重くなる。
「この選択をすればもう後戻りは出来ない。君たちは、僕らと共に世界の深淵という深淵を練り歩き、殺戮を繰り返す『兵器』となってもらう。
人間としての扱いはする。休暇だって与えるし、給料もたんと払う。待遇はいいさ。
だが期待するなよ?ここに入った瞬間から君たちは一般人として生活ができなくなる。」
2人はただ、身体を震わすことしか出来なかった。世界最強は伊達では無い、圧倒的すぎる差に戦慄する。
「世界最強」という言葉の重みは、測りきれないプレッシャーとなって2人に襲いかかる。
だが、祐希も結真も、そんなことで引き下がる人ではなかった。
「どこだって行きますよ。」
祐希はこう答えた。
「覚悟は出来てます。」
結真も答える。
既に心の準備は出来ていたようだ。
2人が答えると、小村が今までの雰囲気が無かったように話し始める。
「やはり、僕の見込んだ人達だね。良いだろう!お望み通り絶望に連れてってやる。
その紙には日本我人連盟の住所が載っている。それを頼りにしてくれ。詳細も封入情報を読み込めば見れるから、僕はそこで待ってるよ。」
迫真の演技で脅しを正面から食らった2人だが、反応があまりにも薄すぎて、小村は
「つまらない」
とまで思ってしまった。だがその答えだからこそ、小村が2人は強くなると確信したのだ。
「じゃあ2人とも、長く引き留めて悪かった。もうすぐ夜だから、それを持って早めに家に帰るといいよ。死体処理はこちらでやらないとだから、後は任せてくれ。」
小村は本来の目的を終えたので、2人を見送るだけだ。
「ありがとうございました。」
小村の言う通り、2人は彼に深々とお辞儀をして帰路に着く。小村は、2人が見えなくなるまで手を振っていた。2人が路地を曲がった後、死体処理を始める。
「...おい、居るの気づいてるから出てこい。」
小村がこう呟くと、創世軍の1人と思われる男性が、祐希たちが帰って行った反対方向から出てきた。
「やっぱ気づかれてたんですね。」
「当たり前だろ鮫田。お前はいつまで経っても後輩気取りだな。」
「僕はいつまでも小村先輩の後輩ですよ!心配しなくてもずっとついて行きます。」
「そうか、それは嬉しいことだな。」
鮫田修一。小村の一個下の後輩であり、かなり高い実力を持つ。
2人は死体処理をしながら話始める。
「それで小村先輩、あの2人凄いっすね。簡易装備すらないんでしょう?
特に男の子の方、素の状態で『圧種砲』撃ってましたし...。あれだけ見れば上位勢と比べても遜色ないんじゃないっすか?」
ー創世軍は、簡易戦闘装備〜専用戦闘装備までの12段階の装備を扱う。ただし、ほとんどの兵士は簡易〜通常戦闘装備までの4つは使用しない。段階がひとつ上がるだけでも火力にかなり影響するので、あまり段階の低い装備は使わないのだ。
その代わり簡易〜通常戦闘装備は訓練用でシンプルな構造をしているため、攻撃には向かないが習得はとても早い。故に特別推薦試験にも使われる装備だ。
また、会話中に出ている「圧種砲」は創世軍の基本技だ。エネルギーを圧縮し一点に集めレーザーのように放出し、物体に当たった時に圧縮されてたエネルギーが分散し爆発を引き起こす。
「超種砲」と比べエネルギー効率がとても高く、少ないエネルギーで大きな攻撃効果を得られる。また、精度も良く加害範囲も広いことから、新人は皆、最初の必殺技になる。ー
「なんだよ、鮫田も見てたのか。ってことは俺よりも早く来てたな?」
「はい、まぁほぼ同時に来てると思いますよ。私も我人が笑っているところを目撃したタイミングなのでね。」
「助けに入る気はなかったのか?」
「ははっ、小村先輩も思考は同じでしょう?脅威は低かったから、助けずに技術覚醒を待ってた。」
「あぁ、ただ、あそこまでやるとは思わなかったよ。3人が襲われると判断したら攻撃してたね。」
「んで、話は変わりますが、あの我人「フェーズ7」って彼らに言ってましたけど、違うでしょ?」
「あぁ、違うね。正しくは、「フェーズ9最上位」だ。何故あんなのがここにいたのか不明だが。
しかも回復能力がかなり馬鹿げてる性能だったから我人主は相当強い。多分だが「フェーズ14」からの付与だろうな。」
ー付与とは、我人主と呼ばれる我人集団の長から強化を貰うことである。強化量が多ければ多いほど我人主は強く、我人主の強さは付与可能我人数にも大きく影響する。ー
「そうですよねぇ。警報がやられてましたし、きっとあの我人の妨害ですかね。けど、フェーズ9最上位なんで、連盟に処理して引き渡しておきましょう。」
「そうだな。あまり出現しないから連盟も企業側も大喜びだろう。」
我人の死体は想像力のように様々な物質に変えることが出来る。我人が強ければ強いほど変換できる物質の種類が多く、変換効率が上がり、変換した物質の質も良くなる。
我人の死体は適切に処理した後、民間、地方自治体、国が運営する連盟に引き渡しを行う。
連盟はそれを他の物質に変換し、色々な企業と交渉する。これの利益や税金の一部から、装備の購入費や創世軍の給料などにあてているのだ。
「そういや、特別推薦認めてましたけど、あんな簡単に渡してよかったんですか?」
「...奴らは化け物だよ。特に男の方、神坂は装備無し、独学の想像力で、初めて使うであろう圧種砲で1万5000以上の出力がでてた。」
「...え?????それって正規の創世軍と比べ物にならないくらい強くないですか?」
「想像力の基礎値は低いが、総合的に見れば大体別の特別推薦者2人と同レベルだ。」
「とんでもない化け物っすね...。ところで、例の創世大学の2人はどうなんですか?」
「あぁ、あの男の子供だから言わなくても分かるだろ。
ただ、俺らの後輩から特別推薦者が出るのは久々じゃないか?なんだかんだ嬉しいもんだな。」
「そうっすね、海野の代で最後でしたし、5年ぶりの特別推薦者排出ですね。」
創世大学は、名前の通り創世軍の育成を行う大学で、防衛大学とあまり変わらない。創世大学に行けば創世軍入りは確定するので特別推薦はほとんどない。
だが、ない訳では無い。ある一定の基準を超え入学した時、もしくは何かしらの理由で特別推薦が行われることが多い。
「あの2人は創世大学にぶっちぎりで首席入学したらしいし、相当な強者だろう。」
「先輩が推薦した2人は創世大学に入れるんですか?」
「いや、入れない。今は戦力が足りてないし、彼らは俺が日本滞在中に短期間でしごいた方が強くなる。そうすりゃ数年後には『アレ』には入るだろうな。」
「先輩の言う通りです。僕的には創世大学の2人の方が気になりますけどね。」
「まぁ、いずれにせよ今回は俺が推薦試験をやる。馬鹿みたいに弱くなければ落とさないよ。」
「それなら心配いりませんね!」
「そうだ、せっかく合流したんだし、手合わせでもするか?」
「冗談よしてくださいよ...」
ーーー
「...」
「...」
祐希と結真は久々に一緒に帰っているが会話が弾まない。というよりも、色々な事が起きすぎて放心状態で帰ってるのに近い。
だが、少し経つとお互い口を開くようになった。
「...ねぇ、祐希」
「どうした?」
結真の呼びかけに祐希が答えると、結真が顔を赤らめて、
「あの...そのね、私が勝手に巻き込まれたのに、助けてくれて...ありがとう。私は祐希の言うことしか聞けなかったのに、祐希は命を危険に晒してまで戦ってくれて...とてもかっこよかった...よ。」
とても恥ずかしがりながらこう伝えた。耳が熱くなっているのを感じた。
祐希もこれを聞いて、顔を赤くした。普段ほとんど感謝を伝えてこなかった結真の口から感謝の言葉が出て、更に
「かっこよかった」
と。祐希は動揺が止まらなかった。
「いや、俺も結真がいてくれて助かったよ。結真が居なかったら諦めてただろうし、そしたら死んでたかもしれない。結真がいてくれたからこそ今こうやって帰れてるんだ、ありがとう。」
祐希も、自分の思いを率直に伝える。2人は仲が良く異性なのに、1度も恋人に発展することは無かった。
お互いを良く思ってるにも関わらず、どちらも口下手なせいで中々進展しなかった。
だが、何故だろうか、今はそこら辺の熱々カップルよりも熱々な感じになってるではないか。
空はどんよりしていて、日が落ちかけているのもあって薄暗い。なのにこの2人の周りは太陽のように明るく見える。傍から見たらカップルにしか見えないであろう。
2人はそのまま、他愛もない話をしながらそれぞれ家に帰った。鞄には特別推薦書が入っている。
ーーー
「ただいまー」
祐希がリビングに入ると
「遅かったじゃない。どうしたの?」
母がとても心配しながら声を掛けてきた。遅くなる時はいつも事前に母に伝えているが、今日は何も伝えてなかった。
時刻は9時になろうとしていた、父も既に帰ってきている。何も無い日は遅くても夕食前には帰っているので、母が心配してもおかしくない。
食卓には既に夕飯が並んでいて、父と妹も祐希の帰りを待っていたようだ。
「その事なんだけど...」
祐希は夕飯を食べながら、下校中に起きたことを全て話した...。
ーーー
反対を食らうと覚悟していたが、話してみれば意外にもそういう訳では無かった。
むしろ、家族は賛成で一致していた。
「祐希が創世軍に入るのは時間の問題だって、薄々気づいてたわよ。」
母が笑顔でこう言った。父も
「祐希は小さい頃から想像力を扱えてたからな、父さんも母さんもこうなることはわかってたんだ。」
と母と同意見だ。妹はというと
「え!凄くない?凄いよね!?」
なんて言いながら興奮している。
父と母は昔から良くしてもらってるし、祐希の考えを尊重してくれていた。妹は...よく分からない。
中2の思春期真っ只中のはずなのに、反抗する素振りを見せない。親の教育が良かったのもあるだろうが、とてもいい子ちゃんで、祐希と喧嘩したことなどほぼ無い。
いつもベタベタくっついて、いわゆるブラコンの妹だ。一言で言えば「変人」。祐希と大差ない変人だ。兄妹は良くも悪くも似るようだ。
全く反対意見がないことに少し悲しく思った祐希だったが、その反面、良い家族を持ったと嬉しそうだった。
第4話に続く
これからも定期的に長期間投稿しないことがあると思います。ゆっくり投稿していきます。