第2話 絶望
少し遅れました。第2話の投稿です。
(あぁ、我人を倒そうだなんて思わなきゃ良かった。結真も巻き込んでしまったし、俺が責任を取るべきか。
少しの時間稼ぎにはなる。俺が囮になってる間に逃げてもらえれば...。
俺だって死にたくない。ただ、誰かを囮にしたのを後悔しながら人生を歩むのはもっと嫌だ。なら軽率に行動した俺自身を恨んで死ぬべきだな。
とは言っても、想像力残量は半分とちょっと。あの一撃にエネルギーを持ってかれすぎたのだ。それが効かなかった以上、無駄な抵抗になるだろう。だとしても、少しでも時間稼ぎ出来るいい方法は何か..。)
人間は極限の状況に追い込まれた時、脳が活性化すると言う。祐希は今、その状態なのである。そして、ふと思う。
(エネルギーを圧縮すれば強くなるって聞いたことがある...。もしかしたら、相手にダメージを与えられるかもしれない!)
脳が生きる道を探るべくフル稼働した結果だった。
実際にエネルギー圧縮は有効打であり、想像種弾に至っては最善の方法と言える。想像種弾しか使えない彼にとっては、最高の情報である。
しかし、実際に出来るかは分からない。人生で初めて挑戦することが上手くいくなど滅多にない。それでも...
「エネルギー圧縮」
成功に導いた。超高密度の想像力から光エネルギーが放出され、凄まじい輝きを放っている。祐希は、これを撃てば少なくともダメージは与えられると確信した。そして、時は来る。
風を切る音と眩い光と共に発射された圧縮想像種弾は、我人の左腕を吹き飛ばした。ぶっつけ本番で賭けに出た技は我人に致命傷を与える一撃に昇華した。
だが、本来なら勝敗は喫したようなものだったが、祐希は運が悪かった。吹き飛ばしたはずの左腕はすぐに再生されてしまったのだ。
「ハハハハ!面白い!まさか貴様が俺様の腕を吹き飛ばすなど。だが残念だったな、俺様は特殊変異体で再生能力を所持している。貴様たちでは俺様に勝つことは不可能なのだよ!」
またもや絶望が訪れた。今度こそ、巻き返しは不可能な絶望が。祐希は膝から崩れるように倒れ込んだ。
「嘘だろ...」
「人間の心を折るのは最高だよ!貴様たちの泣きじゃくってクシャクシャになった顔を見ながら、その体を頂くとしようか!」
この一撃は結果的にダメージにはならなかった。最後に勝利の女神が微笑むことはなかったのである。
だが、あの二人を離れさせることに成功したのだ。祐希は当初の目的は達成できた。全てやりきったため、祐希はもう放心状態だった。立つことも動くことも不可能だろう。
(無理だった。結局死ぬことは変わらなかったんだ。あの二人が逃げれてればいいけどな...。)
「祐希から離れなさい!!!」
「!?」
我人に襲われる瞬間、その声と同時に我人が少し吹き飛んだ。結真が力を振り絞って攻撃を仕掛けたのだ。
「はぁ、はぁ...。殺すなら...私から...!」
「ほう?」
「...!ダメだ、なんでここに来たんだ結真!」
「見捨てて逃げるなんて出来るわけないでしょこのバカ!!」
「そんなに死にたいなら、貴様から死なせてやろう!」
祐希が受けるはずだった攻撃は、結真にターゲットが向いてしまった。もう、2人とも抵抗する力がないというのに。
我人は、その状況を見て気持ち悪い笑みを浮かべながら攻撃態勢に入ろうとしている。
「結真ぁぁぁぁぁ!」
「超種砲」
祐希の叫びと、誰かの声が響いた。次の瞬間、目の前が光に包まれる。祐希たちは何が起きたのか分からず、思考停止に追い込まれていた。
光が消えると、上半身を吹き飛ばされた我人が倒れていた。もうビクとも動かない。今の一撃で即刻命を断たれ、魂はこの世から消え去った。
ー超種砲はエネルギーを一点に集中させて放つ攻撃。エネルギー圧縮とは違い、放出範囲を狭めただけの単純な攻撃であるが、故にエネルギーを大量に必要とする。そのため、かなりのエネルギー値がなければ攻撃手段として用いるには難しいとされている。ー
助けが来るというケースを考えれば、祐希と結真の時間稼ぎは唯一の生存方法だったようだ。祐希たちでは倒せなかっただろうが、助けが来て九死に一生を得た。
「あ、あっ、」
言葉にならない感動。祐希は言語能力を失ったように、漫画のような反応をした。結真の近くに隠れていた女性も出てきて、状況を確認しようとしている。
「君たち、大丈夫だったかい?」
祐希の後ろに降り立つ謎の人を見て、2人は唖然とした。祐希も声のした後ろへ顔を向ける。
「やぁ、よく頑張ったね。」
優しく何度も聞いたことのある声、若々しい見た目、そして身につけている戦闘装備。あの世界最強の男、小村優が立っていた。
「こ、小村...さん?」
3人とも同じような反応をした。3人とも本当に本人なのか少し疑問に思ったようだが、
「あぁ、小村優さ」
事実だったようだ。
小村は、北多摩区の研究所を視察後、そのまま南下し高レベル我人の殲滅に向かった。巡回中にたまたま発見し、危険だと判断したため早急に対処したとのことだ。
ーーー
「この我人はフェーズ7だったのか。中級者でも返り討ちに会う可能性がある我人に対して、よく無傷で生き残れたな。」
これに対して女性が質問する
「あの、そのフェーズ7ってものはどれくらい強いのですか?」
フェーズ7と言われたところで、強さがピンと来ないだろう。
小村はそれに対しこう答える。
「我人には16のフェーズが存在し、上にいけばいくほど強くなる。
フェーズ1は、ほとんど発生しない。したところですぐに消滅してしまうほど微弱だ。
フェーズ2は、最低限生きる力を持った我人。消滅も進化もしないが、赤ん坊でも倒せるほど微弱だ。
...」
長いので要約する。
日本でよく出現するのはフェーズ1〜4、創世軍の新人などでも倒せるほど弱い。
次にフェーズ5、6が出現しやすいが、こちらは正規の創世軍でなければ倒すことは出来ない。
フェーズ6以降は言葉を喋り、特殊変異体(能力覚醒体)が現れるようになる。
フェーズ8以降は日本ではあまり出現せず、14以降の発生報告は存在しない。フェーズ8以降になると手慣れのものでないと倒せないほど強敵だ。
ちなみに、この指標はドイツのベルリン中央研究所が作ったため、読み方はドイツ語である。
「...ってな感じだ。まぁ、調べればいくらでも出てくるから、気軽に調べてみるといいよ。」
小村が喋り終わる。そして、気づいたら結真が泣いていた。小村に会えたことで感極まったのか、恐怖が今のしかかってきたのか分からない。
祐希も泣きたいところだろうが、みっともない所を見せたくないのだろう、泣く素振りを見せなかった。
「女性の方、もう大丈夫だ、安心して帰ってくださいね。」
「ありがとうございました」
女性は3人に深々とお辞儀して
「あなたたちは命の恩人です。どうかこれを受け取ってください。
生憎手持ちが少なく、大層なものではありませんが、お気に召してもらえれば幸いです。」
といって、遭遇前から持っていたであろう美味しそうなお菓子を渡してきた。見てみると、かなり高級そうなお菓子だ。どうやら、裕福な家庭のようだ。
「もし良ければ、お名前を教えていただけませんか?」
女性にそう尋ねられ、祐希と結真は名前を女性に伝えた。伝え終わると、女性はまた深々とお辞儀をして帰った。そしてそのタイミングで
「そうだ、学生さん2人、君たちに話したいことがある。」
小村はそう言った。展開が早すぎて付いて行けない2人を無視して話を続ける。
「君たちの素質が素晴らしいものだと判断した。素のスペックは創世軍全体の上位30%に届くほどだよ。
君たちにこの特別推薦書を授ける。親御さんと、学校向けの2枚ずつね。学校名は君たちの情報端末から特別権限で読み取らせていただいたから大丈夫だ。」
どうやらその特別推薦書とやらは、女性と話している間に記入していたようだ。
(ん?待てよ?特別推薦...?)
トントンと話が進んでいく中、その話に追いつけないままの2人であった。
第3話へ続く
次回は2週間後くらいに投稿したいと思います。12月に入ってからの投稿です。