非常事態
2020年頃全世界に未知の伝染病を蔓延させた大国がまたやらかした。
あれから30年以上経った2050年、あの国を起点として全世界に未知の伝染病が拡散していく。
ただ今回はあの国が隠す間も無く全世界に拡散した事が違っていた。
30年前のとき伝染病に対する対応が後手、後手になり世界の国々や国民から顰蹙を買った教訓からか、国は今回の未知の伝染病に対しては素早く対応し非常事態を早々と宣言する。
国立病院の地下に作られた強制隔離室、縦横が2メートル幅が1.5メートルの個室が400室程並び、通路をガスマスクと防護服を着用した国防軍兵士が巡回していた。
隔離されているのは、家族などから重症の感染者を出し本人は無自覚ながら感染が確認された為自宅療養を指示されながらそれを無視し、それを知らない第三者に濃厚接触して感染させて殺人罪及び殺人未遂罪に問われている者達や、人込みを避け外出を控えるようにテレビやネットで繰り返し警告されているにも係わらず、ライブハウスや旅行に出掛けて感染した自殺志願者と見なされた者達。
後者は自殺を試みた者に国の金で治療を施す事は国民の理解が得られないとして、2000万円から5000万円は
掛かる入院費を全額自腹で前納した者は強制隔離室から出され国立病院に収容され治療を施して貰える。
金を払えず強制隔離室から出られなくとも彼等は犯罪者では無いので、私物のベッドに寝転がり同じように持ち込んだパソコンや差し入れの小説や漫画で暇を潰す。
翻って前者は故意に感染させた人たちの治療費として全財産を没収され、支給された薄い毛布にくるまりコンクリートの床に寝転んでいる。
食事にも違いがあり、後者は毎食パンにスープにサラダにオレンジジュースが支給されたまに肉や魚料理も出るのに対し、後者は固く黴臭いパンに水だけ。
そんな食事にイラついた殺人罪に問われている者の1人が、パンやコップが乗せてあるトレーを壁に叩きつけ扉を足で蹴りつける。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
「止めろ!」
通路の国防軍兵士から制止の声が発せられた。
「止めさせたければ、もっとまともな物を食わせろ!」
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
隔離室内の男は怒鳴り返し扉を蹴り続ける。
「分かった、警告したからな」
国防軍兵士は隔離室内の男にそう返し、所持していた火炎放射器のノズルを扉の外側からのみ開閉出来る食事のトレーを出し入れする窓に差し込み、問答無用で引き金を引いた。
迸る炎が隔離室内の男を燃え上がらせる。
「ギャアアァァァァーー………………」
非常事態が宣言されている今、命令に従わない収監者を焼却する事は収監者に対する予算の削減と罰として国民にも認められている処置だった。