君の最強を守りたい
世界最強、それは僕ではなかった。
地味子と言われている身長の低い女子だ。剣道をやっているらしいが、こんなに強かったなんて知らなかった。
炎を剣で斬る、電撃を叩き落すなんて芸当が理解できるだろうか。
だがこいつはやってしまった。
いとも簡単に。
事の発端は授業終わりだった。
教室から出ると僕らはどこか知らない場所に居た。
更に見た事もない化け物も。
泣き叫ぶ女子が居たが、それより僕らが熱狂したのは新しい力だった。
魔法、と呼ばれるもの。火や風を思いのままに作り出し操れる能力。
僕らはそれを遊び半分で使い、そして調子に乗った奴が泣いていた女子に向けて興味本位で炎を飛ばす。
それを粉砕したのが地味子だった、その剣技の凄まじさは恐怖すら感じさせるものだ。
いつもの地味子からは信じられなかった。
教室では目立たないように猫背で小さな体を更に小さくして、顔も髪で隠している。
それが剣を手にした途端に背筋がスッと伸び、手元から伸びた剣で僕らの力を叩き落してしまったのだ。
その場が地味子に支配されたように、もう誰も魔法を使わなかった。
でも欠点はあった。
「お、お前、地味子の癖に生意気だぞ!」
「……ごめんなさい」
メンタルが弱すぎた、地味子はどれだけ力を持っても地味子のままだった。
今はクラスのイキリグループに命令されて教室の外を探索させられている。
このままではいけない、強い人間はもっと堂々としてなくちゃいけないんだ。
僕はコッソリと地味子の後をつけると、いくつか忠告をした。
うざったい髪を上げさせ、猫背を直させる。
すると地味子は見違えるほどの美人に、……とまではいかなかったが、その顔には以前にない自信のようなものが見て取れた。
「何だお前、地味子の事が好きなのか?」
僕はただ強い人間にはそうあって欲しいと思っただけだ。
「地味子に取り入っていい思いがしたいだけなんだろ?」
違う! 僕はただ……。
上手く言葉が出て来なかった。
僕は地味子と呼び掛けに乗ったメンバーだけで外の世界の探索を始めた。
どうやら外には食べられそうな植物があるらしい。
イキリ連中は教室を出て来なかったけれどそれでいい。
君の方が絶対に強いんだ、あんな連中に従う必要はない。
君の強さの為なら僕は何だって出来る。
地味子の少しにやけた顔を見て、僕は目を背けながら心に誓った。
僕は自分の願望を君に重ねていただけなのかもしれない──。
だがそれに気付いた時には僕らの関係は終わっていた。