スーパーヒーロー
スーパーヒーロー。そう呼ばれていた時期が、この男にはあった。
世界征服をもくろむ悪やテロ組織、それから自然災害被害者の救助や復旧まで。
息をつくような暇もなく、それらは続いた。
そして、男はついに八十歳を超えてしまった。
息子や娘はいない。それどころか愛し合った女でさえ、存在したことはなかった。
弟子もいない。一人や二人、いた時期もあった。が、過酷な戦いについてこれなかったのだ。
男は焦った。自分がいなくなった世の中はどうなってしまうのだろうか。考えるだけでも恐ろしかった。
しかし、いくら考えたところで身体が動かなければどうしようもないのだ。
そして男は閃いた。
「博士、例のアレはどうなりました」
「おお、アレか。後は君のGOサインさえ出ればいつでも行けるぞ」
「今からでも行きましょう」
そう言って男は怪しげな筒状の機械の中に入った。隣には鋼鉄製の人型ロボットが佇んでいる。
「では行くぞ」
博士は機械のスイッチを押す。すると、機械が一度眩いほどにパッと輝いた。すぐに落ち着きを取り戻したがその時には様子が変貌していた。
筒状の機械の中に入っていたはずの男はいなくなっており、代わりに土くれのようなものが筒の中に満たされていた。
「ははは、これだ、これなのだ!私が求めていたものは!!」
その代わりにそれまでただのでくの坊だった鋼鉄の人形が意気揚々と動き出す。
「喜んでもらえたか。……残念ながら身体のほうは朽ち果ててしまったようだが」
「ありがとう博士。それはもう同意の上だ。それよりも、行ってきます」
そう言って男は飛び去って行った。
男が望んでいたもの。それは不老不死の身体だった。自分の加護を半永久的に世界中に与える方法を手に入れたかったし、実際手に入れた。
それから先、男は獅子奮迅の働きを見せた。人間の時よりももっと細かい範囲にまで手が伸ばせるようになったのだ。
次第に色んなことを男がこなしてくれるようになり、人類は次第に怠け者になっていった。
それでも男は、自分が求められているのなら、と喜んで手を貸していった。
そして……。
西暦2500年まであと一日。そんな記念日前日に男はテロリストと対峙していた。
「君たちは西暦2499年の最期のテロリストだ。ある意味光栄に思うんだな」
「何をぬかす。この世界に巣くう寄生虫め」
そしていつも通り、テロリストの全てを殲滅した。
が、その日はいつもと違った。さっきテロリストに言われたことが頭の中をループする。
……寄生虫。私が。
改めてよく考えてみると、生身の身体で活動し、スーパーヒーローと呼ばれていた……それは今でも呼ばれているのだが。しかしその時期と比較すると雑用がとても増えた。というよりもむしろそっちがメインになってしまった。
最近の人間は貧弱になった、と思っていた。しかしそれは文明の発達によるものではなく、私のせいで皆が働かなくなった。
幾度となくアップデートを繰り返し、世界最強のコンピュータを搭載した頭脳が、結論を出した。
人類の為に、滅ぶべき存在は、私である。
そして西暦2500年になったその瞬間、男は静かにその生涯を閉じた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。