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暴れん坊のあらいぐま

作者: カカオボート

寂しい思いを抱えながら生きている動物達の、小さな小さな、悲しいお話です。

オンボロ橋の架かる大きな川の側に、2本の大きな木がありました。その根元の小さな穴にはふかふかの落ち葉を敷き詰めた、あらいぐまの布団がありました。あらいぐまはお母さんと二匹で住んでいましたが、お母さんは体が弱く、あらいぐまの世話をしてあげられませんでした。そんなあらいぐまを、不憫に思ったコマドリは、エサの取り方や川の泳ぎ方、毒草の見分け方など、生きる術を、たくさん教えていました。病気のお母さんが亡くなり、一匹だけになったあらいぐまは、住みかの川にやって来た、仲良し親子に手当たり次第に石を投げてしまう、手のつけられない暴れん坊になっていました。

当然、友達もなく、毎日会うおしゃべりコマドリだけが話し相手でした。森で起こる出来事を、大事件のように面白おかしく話してくれるコマドリを、楽しみにしていました。コマドリは、そんなあらいぐまが気になって仕方なく、いつも空から見守っていました。

楽しいコマドリの話の中でも、あらいぐまのお気に入りは、逆さ虹の話です。


【 それは、コマドリのおじいさんの話でした。コマドリの家族は、代々、手紙の配達をしていました。 大きな森の隅々まで、ぐるっと飛び廻れるのは、コマドリだけだったからです。森の動物たちは、大事な連絡を、手紙でしていました。赤ちゃんの誕生や結婚などの嬉しいことから、病気や亡くなったなどの悲しい知らせまで、色々な手紙がありました。 頼まれた手紙を届けるために、山を越え、川を渡り、雨や風にも負けず、配達をしました。


ある日のこと、いつものように、頼まれた手紙を届けるために、雨の中を、長時間 飛び続けて、やっと到着したコマドリのおじいさん。ほっとして、空を見上げると、なんと、雨上がりの青空に、大きな大きな 七色の虹がかかっていました。虹は空から地上へ下りて再び弧を描いて天まですっと伸びています。遥か遠くの雲の上まで続いています。

珍しい逆さ虹でした。】


そのお話を聞くと(きっと幸せになれる)そう思えるのでした。

(虹の下にいたら、空まで昇れるのかな)

会うたびに、その話をおねだりしました。亡くなったお母さんと空高くある虹が、手の届かない、どうしようのない、あらいぐまの気持ちだったのかもしれません。


ある日の朝、落ち着かないあらいぐまがいました。コマドリがなかなかやって来ないからです。

(朝はいつも来るのに、来ないよ、コマドリさん、どうしたんだろう)

すると遠くの空から、コマドリが、飛んで来ました。

「大暴れあらいぐま、キツネの親子、怪我させた」

木の枝にとまって、足下の落ち葉の布団に向かい、大きな声でコマドリは言いました。

「お母さんキツネ、足を怪我して歩けない、痛い痛い、子キツネ泣いている。お母さんキツネ酷い怪我、痛い痛い、大暴れあらいぐま、石投げた、親子キツネ痛い痛い」

「僕じゃないよ、違う違う」

コマドリは続けます。

「お母さんキツネ足の怪我、赤い実の薬なら、治るのに。トゲトゲの木、誰も取れない」

東の山にあるトゲトゲの木の、赤い実で作った薬なら治せるのですが、傷だらけになっても、取りに行ってくれる動物は、いなかったのです。

泣きそうな、真っ赤な顔のあらいぐま

「嘘だ、嘘だ、」

コマドリがいいます。

「かわいそうなキツネの親子、泣いている。木の実取れない。痛い痛い、キツネ母さん泣いている。」

そういいながら、コマドリは忙しそうに何処かに飛んで行きました。それから、あらいぐまは何をしても、痛そうにしているキツネ母さんと、側で不安そうに涙ぐんでいる子供のキツネが浮かんでは、消えていきます。

夜になってもあらいぐまは、なかなか眠れません。雨の降るとても寒い夜だったので、落ち葉の布団に潜って、手足を擦りました。

(お母さんはよく擦って、暖めてくれたよね。お母さんの手、暖かかったよ)


夜に降りだした雨は、朝日が昇る頃、雪に変わりました。

あらいぐまは落ち葉の布団から出て、走り出しました。オンボロ橋を渡り、どんぐり池の前で立ち止まると、どんぐりを1つ掴んで目をつぶり、池に投げました。目を開けると、思い詰めた顔で、また、走りました。どんぐり池は、1つだけ願いを叶えてくれると言われているのです。


強い風と雪で、毛が濡れます。東の山に着いたときには、あらいぐまの手足は凍えていました。雪が積もり、真っ白な山を、凍る地面を、滑りながらも、頂上まで昇ると、赤い実の付いたトゲトゲの木が立っていました。

早速、枝を掴もうとしましたが、トゲトゲの木のたくさんの枝が、手を遮り、器用なあらいぐまも、手足が凍っては、なかなか実に届きません。

鋭いトゲが、体のあちこちに刺さりましたが、一生懸命手を伸ばして、なんとか、赤い実の枝を掴みました。

(やった、掴んだぞ)

と思ったその瞬間、背伸びしていた、小さな足が、雪の上で滑り、バランスを崩した体が、宙に浮きました。それから、山の斜面を、崖の岩や木にぶつかりながら、麓まで、落ちていってしまいました。


【 空も地面も白い白い、真っ白な世界 大きな雪が絶え間なく、降っています。 真っ白で何も見えません。


目を凝らして見ると、遠くにお母さんの、まあるい背中が見えました。

「お母さん、お母さん、待ってよ、お母さん、僕だよ

お母さん、待ってよ」

追いかけても、追いかけても、追いつきません。どんどん離れていきます。 あらいぐまは悲しくて、泣きながら、叫びました。

「お母さん、待って、お母さん」】



急にあらいぐまは目が覚めました。夢を見ていたのです。

どれくらい時間が過ぎたのでしょう、体がすっぽり、雪に埋もれています。

(ここは何処?どうしたんだろう、僕、何してたの、)


雪が降り続いています。体の雪を払おうと、凍る手を顔の上まで持ってくると、何か持っています。赤い実の付いた枝でした。

それを見ていると、頭がはっきりしてきました。そして体の奥から、力が湧いてくるのが、わかりました。

あらいぐまはフラフラと起き上がりました。

(お母さんが待っている、早く帰ろう)

しかし、体は冷たく、手足は凍り、硬く重い。枝を口に咥えると、氷のような足を引きずりながら、少しずつ、前へ、進んで行きました。


落ちるときに、岩や枝にぶつかけた傷と、体に刺さる、たくさんの刺の隙間から、氷や雪が入り込み、痛くてたまりません。

強い風の吹く、雪の中、寒さからなのか、だんだん眠くなって、目が閉じてきます。

すると、口の枝を、強く噛んで、目を開き、また前に進みます。


どんぐり池まで、戻ってくると、大雪の中、いなくなったあらいぐまを探していた、コマドリが、空から見つけて、飛んで来ました。

「どうした、あらいぐま、傷だらけ、痛い痛い、傷だらけ、あらいぐま、どうした」

あらいぐまは、咥えた木の枝を、コマドリの前に差し出すと、こう言いました。

「キツネの親子に渡してくれないか、僕は行けないから、頼むよ。」


コマドリはあらいぐまの顔を、じっと見ました。そして枝を咥えて、飛んで行きました。

それから、あらいぐまは 大きな木の根元まで、なんとか戻って行きました。

そして、落ち葉の布団の中に、なんとか潜り込み、冷えた足を擦ろうとしました。が、もう、体が動きません。

(帰ったよ、お母さん、僕、疲れたよ)

うとうとしていると、コマドリがやってきて、頭の枝にとまりました。


「キツネ親子、薬届けた、赤い実の薬届けた、きっと良くなる、キツネ母さん良くなる」

目でコマドリを追っていた、あらいぐまが言いました。

「コマドリさん、虹だよ、虹が見えるよ、綺麗だよ。」

(夜なのに、虹が見えるのかな)

コマドリは、不思議そうに振り返りましたが、夜空に月が光っているだけです。虹は見えません。

あらいぐまが言いました。

「ほら、虹の向こうにお母さんがいるよ。僕頑張ったよ、お母さん、誉めてね。頭を撫でてね。お話がたくさんあるんだ、聞いてね、お母さん、お母さん。」


それからあらいぐまは、喋らなくなりました。

「あらいぐま、どうした」

コマドリが心配そうに言いました。あらいぐまは遠くの空を見ています。そのまま、動きません。


眠ってしまったのか、コマドリがあらいぐまの胸に乗ると、凍る毛が、コマドリの足に突き刺さりました。

(なんて冷たい体なんだ、あらいぐま)

「大丈夫か、あらいぐま、あらいぐま、返事しろ、あらいぐま、あらいぐま」

それから、どれだけコマドリが呼んでも、冷たいあらいぐまの体は、もう、動くことはありませんでした。


森に積もった真っ白な雪の上に、月の光が耀いていました。

誰でも、1人で生きているのかもしれません。そんな気持ちで、書きました。

私の拙い文章を、最後まで読んで頂いて、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あとがきにはあのように書いてありましたが、私はこの作品から 「人は孤独を抱えている。しかし、孤独には生きられない」 というメッセージを受け取りましたよ。 アライグマが池に何を願ったにせよ、…
2018/12/27 11:28 退会済み
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