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彼女の話
彼女は言う。
「いつかまた、一緒にこの山に来ましょう」
彼女が振り返り、僕を見下ろす。太陽を背に笑う姿はまるで女神のようだった。
いつの間にか僕はその姿に見惚れて、ただ茫然と彼女を見上げているとクスクスと聞こえる笑い声。
「なんで泣いてるの?」
あれ?僕は泣いているのか?
頬に手を伸ばしてみたら、水の感触が指先から伝わってくる。
何故?わからない。だけど多分嬉しいんだ。
「私もあなたとここに来れてとても嬉しい。だから、今度はお腹の子と一緒に」
ああ、そうだね。
彼女が僕の傍まで来てくれて、僕の目元へハンカチを当てる。淡いピンク色のハンカチが僕の涙で色を変えていく。
僕はその彼女の、まだまだ細いお腹に手を当てた。
楽しみにしているよ。早く一緒に山を登って、朝日を見よう。
僕が声を掛けると、少しお腹の子供が動いた気がした。
「今度は三人で朝日を見ましょうね」
僕は彼女を抱きしめて、二人でもう一度朝日を見上げた。