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電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第四章 戦場にて二人
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第三十二話 「余裕は」

 起きると、腕に点滴の針が刺さっていた。時刻は午前九時。丸一日寝てたのか。ナースコールを押す。

 来たのは、ナースではなくおっさんだった。


「気分はどう?」

「悪くはねえよ。何が起こったか、教えてくれよ」

「意識を失って倒れたんだよ」

「原因は?」


 おっさんが点滴の残りを確認する。


「原因は何なんだよ」


 じれったくて再度問う。おっさんは俺と目を合わそうとしない。


「夏バテじゃない?」

「嘘はやめろ」


 おっさんは首を振ってから、俺を見据えた。


「白血病が進行してる。かなり危険な段階だ。いつ死んでもおかしくはない」

「初めからそう言えよ」

「ごめん」

「謝らなくていい。おっさんが気い遣ってくれてるのは、分かるから」


 もう時間はない。白血病魔を倒さない限り、俺は死ぬ。


「勘違いしちゃいけないよ。いつ死んでもおかしくないっていうのは、あと少ししか生きられないとは違う。いつ死んでもおかしくない状態が半年以上続くことだってある」

「詭弁じゃね?」

「だとしても事実だから。病は気から。焦ってもいいことはないからね」


 おっさんはベッドの傍に座り、俺の額に手を当てた。聴診器を胸に当てる。


「今日の昼はフルーツとヨーグルトだけね。食べ過ぎないように。夜からは普通に食べていいよ」

「病魔と戦うのは?」

「今日は禁止」

「だと思った。また初菜に差をつけられちまうな」


 おっさんがかぶりを振った。

「初菜ちゃんも倒れたんだ。だから電脳空間には行けないよ」

「あいつもひどいのか?」

「鉄也君以上に。それでね、多分、近いうちに二人は同室になると思う」

「そんな話もあったな。俺も初菜も反対したはずだぜ」


 おっさんがため息をつく。


「残念ながら、君たちの意見を聞いていられる余裕はもうないよ」


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