表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第三章 祭り
31/41

第三十話 「花火」

 七時から花火が上がるので、俺とおっさんは屋上に行った。すでに大勢の人がいて、ベンチやパイプ椅子に座っている。出店も出ていて、かき氷や人形焼きを売っている。


 おっさんと屋上の端、柵の手前まで行って花火を待つ。隣に初菜と両親が来た。初菜の親父さんとおふくろさんはおっさんと話し始める。


 黄色い線が夜空へと上がり、華を咲かせた。火花が夏の空に散っていく。ここから発射場までは距離があるため、花火の音もうるさいほどではない。赤、緑、紫。花火が連続で上がる。


 気がつくと、おっさんと初菜の両親がどこかへ消えていた。初菜も両親の不在に気づいたようだ。俺と目を合わす。初菜が目を離さないから、俺も離せない。初菜の口が動いた。聞き取れないので、近づく。


「何だよ?」

「いや、どうだったか、気になって」


 何の話だ?

 問おうとしたら、初菜がうつむく。握った拳を震わせている。


「質問の意味が分からん」

「だから、焼きそばの味、どうだったかって訊いてるのよ。なんで言わなきゃ伝わらないの。本当にあなた、馬鹿」

「お前には馬鹿だって言われたくねえな。洋食とメロンパンの融合って何だよ。ビーフシチューにメロンパンをつけて食べるのか?」

「そうよ。悪い?」


 揺るがない瞳で即反論されたので、俺は片足を一歩分後ろへ動かす。


「別に悪くはないけど。あー、焼きそばも悪くなかった。いや、むしろうまかったよ」


 初菜の目がまっすぐ見つめて来る。


「本当? 嘘じゃない?」

「まずかったらまずかったって言う。お前の焼きそばはうまかった」

「うん。そう」


 初菜はまたうつむく。前髪で目が隠れて、表情はうかがえない。


「おい。せっかくだから花火見ろよ。きれいだぞ」

「うん」


 小さく返事して初菜が顔を上げる。普段の態度からは考えられないぐらい素直だ。なんか、調子が狂う。


 花火の音に交じって、鼻をすする音が聞こえた。隣を見ると、初菜が、頬を滑り落ちて来る涙を指で払っていた。


「おい、どうした? お前、何泣いてんだよ」

「泣いてなんか」


 また頬を涙がつたう。


「泣いてるだろ。おふくろさん、呼んで来るか?」

「やめて。お母さんとお父さんには泣いてるところ、見られたくない」

「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「別にどうもしなくていい。少ししたら泣き止むから」


 夜空に花火が開くたびに、俺と初菜の影は輪郭を強くして、屋上に伸びた。

 最後の花火が空を焼き終る。もう初菜の涙は止まり、頬は乾き始めていた。


「まさか人生最後の花火を、あなたと見ることになるなんて、思ってもみなかった」


 俺は初菜に詰め寄り、言ってやった。


「最後じゃねえだろうが」


 初菜の目にいつもの鋭さが戻る。


「口だけなら何とでも言える」

「何だと」

「何よ」


 喧嘩になりそうになった瞬間、おっさんと初菜の両親がかき氷を手にこちらへやって来た。俺と初菜は互いにそっぽを向いて、かき氷を食べた。なぜか、おっさんと初菜の両親は笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ