第二十四話 「化け物呼ばわり」
出会い頭に病魔を倒していくと、五体倒したところでアバターの体が限界を迎えた。回復のため、一時戦場を離脱する。
ヘルメットを脱ぐと、看護師が入って来た。
「うん。ちゃんと休憩してますね」
と言ってすぐ出て行った。そうか。もう一時間経ったのか。ということは、初菜も休憩の時間のはずだ。
初菜の病室の扉をノックする。
「何? 休憩ならちゃんと取ってるわよ」
青白い顔の初菜がドアの隙間から俺を睨む。
「お前、キスシアと友達なのか?」
「時々チャットしたりはするけど、友達かは分からないわ」
「友達だろ。お前を泣かせる奴がいたら、黙っちゃいないってあいつは言ってたぜ」
「そんなことを」
初菜は自分の頬に手を当て、俺に背を向けた。
「で、私とキスシアが友達だったら何なの? 悪い?」
「悪かねえよ。ただの確認だ」
キスシアがついているなら、初菜の病魔は倒せるだろう。最悪、キスシアの所属するチームも動かくかもしれない。そうなったら、初菜の完治は確実だ。問題は俺か。強くなるしかねえな。初菜よりも。キスシアよりも。
「もしかしてキスシアと接触したの?」
「したよ。あいつ、速いのな。動きが見えねえんだもん」
「待って。あなた、エリアSにいるってこと?」
「だったら何だ? 悪いか?」
さっき初菜が言ったセリフを返してやる。
「あり得ない。戦闘医になって二か月程度のあなたがランクSの病魔を倒せるはずがない。ランクAですら手こずるはずよ」
「俺は戦えてる。現にケルベロスを倒した」
「嘘」
俺は高笑いしながら、病室に戻った。笑い過ぎて喉が渇いたので水を飲む。無駄な体力使っちまった。くそったれ。
アバターはまだ全快していなかったが、戦闘を再開する。残ったダメージは多くない。ケルベロスに噛まれた箇所が痛むだけで、戦闘に支障はない。
昼までに俺は、ミノタウロス二体、ハーピー一体、ケルベロス三体、鵺二体を倒した。あと二十一体。午後からもペースを落とさず行けば、何とかエリアSSに行けそうだ。
昼休憩の時間になり、電脳空間を離脱しようとしたら、ビルがはす向かいに立っている交差点で流架と鉢合わせた。
「おう、いつから来てたんだ?」
「一時間前からです」
お互いの病魔撃破数を確かめ合う。流架の頭の上の数字は二だ。
「もう九体? 僕なんか一体倒すのに二十分以上かかってるのに」
「まあ、伸び伸びやれよ。いざとなったらキスシアが助けてくれるしな」
「もう三回もお世話になりました。僕の実力では厳しいみたいだから、午後からはいったんエリアAに戻ってアバターを強化します」
初菜は言った。戦闘医になって二か月の俺がランクSの病魔を倒すのはあり得ない、と。俺の急成長には複数同時操作型ヘルメットという理由がある。しかし、流架はどうだ? どうして俺よりも遅く戦闘医になり、特殊なヘルメットも持たない流架がランクSの病魔を二体も倒している?
「お前、化物だな」
「なんですか。いきなり人を化物呼ばわりしないでください。失礼ですよ。ってあれ、やばくないですか?」




