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電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第三章 祭り
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第二十一話 「好きじゃない」

 隣の病室に行くと、ヘルメットを装着したままの初菜がいた。ベッドの上で上半身を起こした状態だ。


「初菜ちゃん、休憩の時間だよー」


 初菜がヘルメットを脱いだ。


「勝手に入らないでください」

「ごめんね。でもノックはしたんだよ」

「おめえが戦闘に夢中になって気づかなかったんだろうが」


 初菜の目の輪郭がナイフのように尖る。


「あなたは誰の許可を得てここにいるの?」

「知るかよ。んなことより、お前、休憩ちゃんと取れよ。ずるいぜ」

「あなたには関係ないわ」


 には、というより、にも、だな。初菜は俺以外の誰とも関係を持とうとしない。心を許しているのは両親ぐらいではないだろうか。


「お前、今、どのエリアだ?」

「あなたには関係ないと言ったはずよ」


 あくまで俺は眼中にないらしい。


「言いたくないなら別にいいぜ。俺は午前中の内にエリアSSに行く。SS以上はねえんだから、どこかでは会うだろう」


 初菜がエリアB以下にいるとは考えられない。おそらくエリアSかSSだろう。


「俺を見かけたら、注意しろよ。お前の自信とプライドは粉々に砕け散るぜ」


 初菜が鼻で笑った。


「笑えない冗談ね」


 笑ってるじゃねえか。くそったれ。

 俺がいらついていると、看護師がおっさんを呼びに来た。外来の患者が待っているらしい。


「二人とも頑張るのはいいけど、きちんと休憩を取るんだよ」


 俺と初菜は形だけの返事をして、お互いを睨んでいた。

 おっさんがいなくなると、初菜がすぐヘルメットを着けようとしたので、俺は初菜の手を押えて止めた。


「休憩、十分は取れよ」

「命令しないで」


 初菜の瞳の形が丸から刺々しい星に変わっていた。


「お前、今日の夜、焼きそばとかたこ焼き作るんだろ。今頑張り過ぎて、体調悪くなったらどうすんだ? あ?」


 俺はヘルメットを奪い取り、机上に置く。初菜はまぶたを若干下ろして、視線を床に飛ばす。


「私が頑張れば、大勢の人を救えるんだから、それでいいじゃない。焼きそばやたこ焼きが何だって言うの?」


 俺は、七夕祭りの料理についておばちゃんと話し込んでいた時の初菜の笑顔を思い出す。


「お前、料理が好きなんじゃねえのか?」

「好きじゃない。出て行って」


 初菜は目を閉じていた。


 俺は廊下に出た。窓が開いていて、蝉の声がうるさく聞こえた。

 休憩後、電脳空間に戻った俺はエリアSに行った。


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