第二十話 「エリアA」
エリア中央のオアシスに行くまでに病魔を六体倒した。どの病魔も一蹴りで充分だった。どう考えても俺がエリアSSに行けないのはおかしい。
「S以上に行くには、実力を示さないといけないみたいです」
流架は俺と話しながらも、スナイパーライフルで遠くの病魔を撃っている。服は上下とも黒革で、武器は依然と変わらず銃のみだ。
「ランクSに行くには何体倒せばいいんだよ?」
「目安は五十体です。どちらが早くSに行けるか勝負しましょう」
「お前、俺の成長を知らないだろ? 勝負になんねえと思うぜ」
「同じく鉄也さんだって僕の成長を知らないでしょう?」
チビの流架が下から押し上げるように俺を見て来る。
「ちなみに今何体倒した?」
「設定をいじれば病魔撃破数が頭の上に表示されるはずです」
俺は言われるまま設定をいじった。流架の頭の上に5が出た。
「今のところ俺が優勢だな」
「今だけですよ」
流架の数字が6になる。遠距離の攻撃ができる分、流架の方が有利かもしれない。俺は走り出した。
他のアバターの撃破数を見ると、すでに三十を超えている者もいた。世界は広い。強い奴がいくらでもいる。
病魔と交戦するたび、俺は一撃で勝負を決めた。時間をかけたくなかったし、かけようもなかった。敵の
動きは緩慢、体表は薄弱。負ける要素がなかったのだ。三十分しない内に俺は四十五体目を倒した。
足を止めてまんじゅうを食べていると、前と左右に病魔が見えた。マンモス、チーター、クジラ、オオカミ、巨大イカが俺との距離を詰めて来る。後ろにも敵はいた。コブラ、アナコンダなどの蛇が五匹。全部で十体か。五体余計だが、ちょうどいい。一度に十体の敵と戦うのが、俺の日常だ。
動きの鈍いマンモスから仕留めようとしたが、チーターとオオカミが左右から挟撃して来た。俺はかがみ、チーターとオオカミを衝突させ、怯んでいる隙に右と左の拳でそれぞれの頭部を破壊する。
巨大イカが墨を吐いた。攻撃範囲が広く回避できない。オオカミとチーターの死骸を盾にする。背後から殺気がしたので、とりあえず蹴りを繰り出すと、蛇が三匹吹っ飛んだ。足元に影が落ちる。上にマンモスの足があった。俺は両手でマンモスの足を押し返し、横転させる。蹴りで長い牙を折り、それをマンモスの体に突き立てる。イカが再度墨を吐きそうだったので、マンモスのもう一本ある牙を折って、イカにぶん投げる。牙はイカの体の真ん中を貫いた。
砂漠が波のようにうねり始めた。クジラが砂を飲み込んでいるのだ。どさくさに紛れて攻撃してくる蛇二匹を捕まえて引きちぎる。が、クジラの吸引力は凄まじく、俺はすでにクジラの口の中にいた。打開策は一つしか思いつかない。足にありったけの力を込め、飛ぶ。
クジラの頭を突き破って外に出た俺は、頭部から尾にかけて打撃を与えていった。クジラの体が潰れたトマトみたいになった。
周りを見渡すと、色とりどりのまんじゅうが十個落ちていた。食べながら回収する。
「エリアAでの撃破数が五十を超えました。エリアSでの戦闘を許可します」
AIが言った。
「初めから許可しとけボケ」
俺は流架にチャットを繋いだ。
「戦闘許可が下りたぞ。お前は?」
「えっ? もうですか? 僕はまだ二十五体しか倒せてません。どうやったんです?」
「祭りが終わったら教えてやるよ。じゃ、俺は一足先に行かせてもらうぜ。お前も早く来いよ」
通信を切り、エリアSに行こうとしたら、現実世界から声がした。
「休憩、取らないと駄目って言ったでしょ」
ヘルメットがはぎ取られる。おっさんがいた。
「一時間につき十分の休憩」
「開会式が長かったんだよ。戦闘自体は一時間もやってない」
「駄目。電脳世界にいるだけでも負担になるんだから」
「わーったよ」
俺は水を飲み、一息つく。おっさんがいなくなったらすぐに再開するつもりだったが、おっさんは出て行かなかった。
「初菜の様子見てきたら?」
「その手には乗らないよ。僕が行ったらやるつもりでしょ?」
流石お医者様。俺の考えぐらい見抜いているようだ。
「でも実際、初菜も危ないと思うぜ。あいつ、自分が倒れるまで無茶しそうだからな。やっぱ俺も行くから、様子見に行こうぜ」
おっさんが口を丸めて俺を見る。
「心配してるんだ」
「ちげえよ。俺が休んでいる間に初菜が強くなったら嫌なだけだ」




