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電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第三章 祭り
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第十九話 「オペレーションスタート」

 祭りまでの一週間、俺は親父に買わせた複数同時操作型ヘルメットを用いて病魔を倒しまくった。アバターを一度に十人操作できるのだから、一日に倒す病魔の数も十倍に増えた。


 武器は変わらず、メリケンサック二つに、鉄バットと釘バットだ。あと一つ装備できるが、決めていない。正直、選ぶのが面倒くさい。


 朝、昼、晩、可能な限り電脳空間で病魔と戦った。アバターだけでなく体も病魔と戦っていた。最近良く吐くようになった。発熱も増えた。体調が優れず、ベッドで横になっているときなどは、隣室の初菜がどうしているかを考えてしまう。理由は自分でも分からない。


 院内では医者、看護師、患者が七夕祭りの準備を進めていた。俺も折り紙を切ったりくっつけたりして、輪っかの飾りを作った。初菜は食堂のおばさんと書類を見て話し込んでいた。珍しく笑顔だ。おっさんから聞いた話によると、祭り当日、たこ焼きや焼きそばを作るらしい。俺は絶対買わねえぞ。


 七月に入ってから七回目の朝が来た。俺はまだ生きていた。

 朝食は病室で取り、外来診察が始まる前におっさんのもとへ行き、体の調子を見てもらう。


「問題ないかな。でも無理はしないこと。一時間やったら十分は休みなよ」

「へいへい。おっさんはオールオペレーションに参加しないのか?」

「そうだなあ。鉄也君と初菜ちゃんが無理してないか監視には行くかも」

「度肝を抜いて潰してやるぜ」


 病室へ向かっていたら、初菜とすれ違った。視線は交わらない。俺も初菜も前を向いていたから。


「今日、お前を越えてやる」

「あなたでは無理よ」


 口論にはならなかった。オールオペレーションで実力を見せつければいいだけだ。今日の敵は病魔だけにあらず。


 病室に戻った俺は五百ミリリットルの水が入ったペットボトルを机に置いてから、複数同時操作型ヘルメットではなく、一般のヘルメットを装着した。十体同時に操作したのではどうしても精度が落ちる。今日は自分の最高を出したい。


 電脳空間に侵入すると、いつもとは違う風景があった。俺はアバターの群れの中にいて、空を万国旗が横断していた。他のアバターが邪魔で身動きが取れない。


「こんな状態でどうやって戦うんだよ」


 トランペットとトロンボーンのファンファーレが鳴り響いた。他の戦闘医は気をつけの姿勢を取っている。俺はポケットに手をつっこんだまま、首を回す。何が始まるんだ? くそったれ。


「皆さま。本日はオールオペレーションにご参加いただき誠にありがとうございます。戦闘医師会会長ナルフ・ロレンツより謝意を述べさせていただきます」


 一同拍手した。どうやら開会式めいたものが始まったらしい。

 十分ほどどうでもいい話が続いた。


「難易度別に六つのエリアを用意したので、各自自分の実力に見合った病魔と戦うようお願いいたします。オールオペレーションスタート」


 皆が雄叫びを上げ、各戦場へと消えて行く。


「どのエリアに行かれますか?」


 今日のイベント限定で使える音声ガイドのAIが尋ねてきた。


 エリアは六つ。エリアAからエリアD、それからエリアSとエリアSSだ。アルファベットは病魔のランクと対応している。


「とりあえずエリアSSで」

「申請は却下されました。エリアAに飛ばします」

「何だと、このくそAIが」


 エリアAは砂漠フィールドだった。あちこちで爆炎が上がっている。砂漠は果てを見極められないほど続いていた。戦闘医が余裕を持って戦えるだけのスペースはあるようだ。


 俺はとりあえず一番近い砂丘を目指して歩き出した。砂煙の中に突っ込んでも目は痛くならない。アバターを壊せるのは病魔だけなのだ。


 背後に殺気。俺は振り返りながら拳をふるうモーションに入っていた。どんな病魔かを確認する間もなく、俺の拳は硬いものを殴り飛ばした。金属のへしゃげる音とともに、病魔は吹っ飛び、米粒ほどの大きさになった。


「肝硬変の病魔を撃破しました」


 肝硬変の病魔はライオンの姿をしており、体が金でできている。つまり雑魚だ。今の俺なら、メリケンサックを装着するまでもなく、パンチ一発で倒せる。


 砂丘に登ると、他の戦闘がよく見えた。三、四人のチームで戦っている者がほとんどだ。

 突然コール音が頭になった。俺はチャットを許可した。


「鉄也さん? 今どのエリアにいますか?」


 流架の声だった。


「エリアA。お前は? Bぐらいか?」

「僕もAです。中央オアシスで落ち合いましょう」


 通信が切れた。


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