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電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第三章 祭り
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第十六話 「来週まで」

 痛みで目が覚めた。途端、痛みは消えていた。


「大丈夫?」


 おっさんの顔が見えた。


「吐いた後、倒れていたんだよ」

「あー、覚えてるわ。吐いた吐いた。そうか。倒れたのか、俺」


 もしかして俺の考えている以上に俺の体はやばいのかな。


「今はどう? 体のどこか痛む?」

「手足の先にしびれが少し。痛みはない」

「気分は?」

「悪くねえよ」


 おっさんは「うん」と相づちを一回だけ打って、カルテに何か書き込んでいる。ボールペンが紙にこすれる音がやけに大きく聞こえやがる。


「よくナースコール押せたね」

「タイミングがよかったんだよ。自分でも倒れるなんて思ってなかった」

「個室の恐いところだよね。これからのことを考えると、何か対策を立てないといけないかも」


 看護師の巡回があるのは、主に夜で、昼間は数えるほどしか巡回がないのだ。倒れて、三十分以上放置もあり得る。


「今日は一日安静にしてね。病魔との戦闘も駄目だから」

「じゃあ何すればいいんだよ」

「ベッドの上でおとなしくしてるのが理想だね。本読んだり、テレビ見たりするのはいいよ」


 俺が診察室を出ようとすると、


「看護師に見回りに行かせるから。絶対、病魔との戦闘は駄目だよ」


 おっさんが釘をさした。お見通しかよ。


「わーったよ」


 夕食までテレビを見て過ごした。漫画雑誌も読み返した。ピアノを弾きに行こうと思えば、看護師に止められた。


 夜になって、流架から電話がかかってきた。


「丸井先生から聞きましたよ。倒れたって。大丈夫ですか?」

「心配ねえよ。今日一日、何もできなくて退屈してたところだ」

「じゃあ、ゲームでもやりますか? オンラインで」


 三十分ほどオンライン対戦ゲームをして、俺は流架に全敗した。


「そう言えば、来週のお祭り、参加します?」


 もう電話を切ろうかと思っていたら、流架が言った。


「何の? ここらで祭りがあるのか?」

「まあ、葉ノ池市のお祭りもありますけど、そっちの話ではありません。戦闘医の方です。オールオペレーションデイですよ」


 日本語に訳すと全手術日。意味わからん。俺は流架に説明を求めた。


「簡単に言うと、特別フィールドに世界中から戦闘医が集まって、世界中の患者の病魔と戦う日のことです。戦闘医の間では有名なお祭りですよ」

「知らんかったわ。お前は出るのか? いや、戦闘医続けてねえか。ヘルメットとか持ってねえもんな」

「一応、続けてます、戦闘医。退院祝いで戦闘医用ヘルメットを買ってもらったんです。だから、困ったときには呼んでください。援護射撃しますんで」


 チームという言葉は出なかった。お互い、チームでやろうってタイプじゃねえしな。いつでも力を貸すという協力関係に過ぎない。その方が気楽でいいや。


「じゃあ、祭りの日はどっちが多く病魔を倒すか勝負だな」

「望むところです」


 電話を切る。


 もう消灯時間だった。部屋の明かりを消して、来週の祭りにがどうなるか、考える。十中八九、初菜も参加するだろう。でも、俺は初菜の競争相手になれない。力の差があり過ぎる。どころか、来週まで生きているかさえ、分からない。

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