表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第三章 祭り
16/41

第十五話 「親父」

 食堂で、おっさんと夕食を摂りながら、俺は胸中を吐露した。


「初菜ちゃんより強くなるのは、うーん、どうだろう。無理ではないけど、無茶かもしれないね」

「何かいい方法ねえのかよ。おっさん、医者で頭いいんだから、考えてくれよ」

「僕は勉強ができるだけで、頭がいいわけじゃないんだけどな。でも、考えておくよ」


 午後、珍しく親父がお見舞いに来た。


「時間ができたから来てやったぞ」

「白血病の息子にかける言葉じゃねえな」


 親父のスーツには向日葵を模したバッジが付いている。弁護士バッジだ。


「元気でやってたか?」

「元気なわけねえだろ。もういい。帰れよ」

「お前に言われなくてもあと少しで帰る。十四時から依頼主との打ち合わせがある。ところでお前、心残りはないか? もう先も短いだろう。望みがあるなら言え。叶えてやる」


 俺は中指を立てて、「帰れ」と命じる。親父は笑顔で、しかし、声は出さずに出て行った。親として壊れてやがる。父親失格。まあ、息子の方も合格とは言えないから、お互いさまか。


 ふと吐き気が襲って来た。洗面台に向かうが、途中で吐いてしまう。ちくしょう。気分の悪さも収まらない。胸が酸で溶けていくような錯覚に陥る。俺はナースコールを押し、自分が吐いたことを伝え、片付けの手伝いを頼んだ。


 口をゆすいで、顔もついでに洗う。冷蔵庫からペットボトルを出して、水を飲む。吐瀉物の匂いが鼻をついた。


 親父の言う通りなのだ。長くは生きられない。でも、白血病魔さえ倒せれば、望みはある。望みがあるどころか、完治だ。笑えるぜ、まったく。


 体の力が抜け、硬い感触が頭を打ち、目の前が真っ暗になった。

 暗闇は長くは続かなかった。


 地平線から太陽が昇り、緑の大地に座り込んでいる俺を照らす。


「メロンパンは?」


 後ろから声がかかる。初菜がパジャマ姿で立っていた。


「ねえよ」


 初菜の手が飛んで来て、俺の頬をひっぱたいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ