第十四話 「パシリ」
売店で買ったメロンパンを持って、俺は初菜に会いに行った。
「何?」
いつも通り病室の戸を挟んでの対応だ。もう夕方だけど、俺も初菜もパジャマだった。
「流架を助けてくれたお礼、言ってなかったからよ」
「私は依頼を受けたから、病魔を倒しただけよ」
初菜はメロンパンに視線を注いでいる。
「お前、本当にメロンパン、好きだよな」
「悪い?」
初菜は俺を睨んだが、視線はまたメロンパンの方へ移っていく。
あんまり焦らすのも酷だから、初菜にメロンパンを渡す。
「じゃな」
他に用はなかったので、立ち去ろうとしたら、初菜がパジャマの裾を掴んできた。
「待ちなさいよ」
「何だよ」
「今日のあなた、何だかいつもと違う。元気がない」
「気のせいだよ。数秒しか話してねえのに、人の元気を決めつけるな」
立ち話している俺たちの後ろを看護師が通った。
「痴話喧嘩?」
「違います」
「ちげえよ」
俺と初菜が声を揃えて否定すると、看護師は小さい笑いを漏らしながら、行ってしまった。
「俺、もう行くわ」
「話、まだ終わってない」
「じゃあな」
俺は一方的に話を打ち切って、階段の方へ歩く。
「次はチョコチップメロンパンにして」
初菜の刺すような声が飛んで来た。人の心配をしたいのか、自分の食欲を満たしたいのか、どっちなんだよ。
初菜の言ったことは当たっていた。元気がない、その原因は先の一戦にあった。俺は鵺との戦いでくその役にも立たなかった。初菜は鵺を一秒もかからず撃破した。俺と初菜、どちらが強いかは明白だ。
強くなりたい。初菜より強く。で、初菜をフルボッコにしたい。メロンパンを買って来いと命令したい。初菜の下でパシリをするのはもう嫌だ。




