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電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第二章 ゲーム少年
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第十二話 「刀馬鹿」

 おっさんに電話をかけて、流架の病室番号を聞き出す。ついでに戦闘医専用ヘルメットが余っていることも確認する。


 流架の病室に行った俺は、前置きなしで言った。


「お前、戦闘医になれ。俺とチームを組んで、小児癌の病魔を倒すぞ」

「何言ってるんですか?」


 流架の病室は個室だ。設備は俺の部屋と同じ。違いと言えば、床にゲーム機が置いてあることぐらいだ。


「いいから。やるんだよ。今からおっさんとこ行って基礎基本を教えてもらえ」

「命令しないでください。なぜ僕が? だいたい、今から戦闘医になったって小児癌を倒せるわけがない」


 流架が手元のゲーム機を顔に近づける。


「倒せる。俺とお前なら」

「根拠は何ですか?」

「根拠なんてない。やるっつったらやるんだよ」

「あなた、イカレてます。一人で勝手にどうぞ」


 他人事じゃねえんだぞ。クソガキ。俺は流架からゲーム機を取り上げる。


「何するんですか? 返してください」

「ゲームは楽しいか?」

「楽しいに決まってるじゃないですか」


 嘘だ。ゲームをやっている時も、自分はあとどれぐらい生きてられるか、気にかかっているはずだ。


「俺は全然楽しくねえ」

「弱いからです」


 ゲームの対戦で、俺はまだ一度も流架に勝てていない。


「お前の言う通りだ。俺は弱い。でも、日々テクニックを磨いて強くなってんだよ。今はまだお前に勝てねえけどな、一か月後とか半年後なら勝てるかもわかんね」

「何が言いたいんです?」

「俺がゲームの腕を上げて、お前に勝てるようになっても、お前がいなかったら、意味ねーだろうが。対戦は、二人いねーとできねーんだから」


 流架の唇の端が下がった。


 俺は言いたいことを言ったので、自分の病室に帰った。後は知らん。流架が戦闘医になってもならなくても、俺のやることは変わらない。


 治療依頼を片っ端から受けた。一人でも小児癌の病魔を倒せるぐらい強くなってやる。

 翌朝、メールが届いた。おっさんからだ。

 

 ――流架君、戦闘医になるって。


 動画ファイルも添付されていた。予想通り、初菜が小児癌と戦ったときの映像だった。俺は朝食を食べながら、戦闘を見た。


 小児癌の病魔は、頭が猿で、胴体が狸で、手足が虎、尻尾が蛇だった。ネットで検索をかけて分かったのだが、(ぬえ)というらしい。


 鵺は翼もないのに、空を飛び、初菜めがけて突進した。初菜も最初は躱すので精いっぱいの様子だったが、徐々に反撃し出した。


 十分以上にわたる攻防の後、初菜の刀が鵺の片腕を斬り落とした。が、次の瞬間、鵺の肩から腕が二本生え、初菜を殴り飛ばした。


 俺は箸を止めた。再生能力プラス強化とか反則だろ。


 鵺が雄叫びを上げながら、初菜を追う。初菜は先程より速く刀を振るう。鵺の手足が飛んで行き、すぐさま新しいのが生えてくる。


「きりがねえぞ。武器使え、武器。刀以外、何かあんだろ」


 初菜の手元が光った。武器出現前の光だ。光が消え、現れたのは、刀身の青白い日本刀だった。


「また刀かよ」


 まさか、刀馬鹿か。

 初菜は左右で一本ずつ刀を持ち、二刀流となった。


 手足が全部で八本以上ある鵺が初菜を襲う。初菜は体を回転させながら、二本の刀で幾度も鵺を斬りつけた。単純に考えると、二刀流は倍の手数。もはや鵺の再生は間に合っていなかった。手足と胴体が細かい肉片になっていく。


「やりやがった」


 俺が勝利を確信したとき、初菜の背後に蛇が映った。まだだ。鵺はまだ死んでいない。蛇は初菜に忍び寄り、足首に噛みついた。初菜は目を見開くと同時に自分の足ごと蛇を斬った。ため息をつき、


「デザート」


 と言って、戦場を離脱した。おそらく蛇の毒を抜くためだろう。回復にどれぐらいかかるのだろうか。謎だ。


 鵺が黒いまんじゅうを落としたが、初菜は回収できなかった。鵺の毒は速効らしく、すぐに対処しないとアバターが死ぬらしい。


 動画の最後に、「なお、今回の動画では、戦闘の速度をいじっています。無加工の戦闘を見たい方は、本動画を三倍速で再生してください」とあった。


「あり得ねえだろ」


 俺は首を振りながら、フルーツヨーグルトを食べた。

 昼休み、俺とおっさんと流架は診察室に集まって作戦を練っていた。


「とにかく、今は病魔をたくさん倒すのがいいね。病魔耐性値を上げないと、鵺の前に立った途端、アバターの体が崩れちゃうから」

「目安はどのぐらいですか?」

「五百体病魔を倒せば、五分は持つと思う」

「俺は今、二百連勝中だから、二分か」


 二分で鵺を捌くのは無理がある。というか、五分でも無理だ。逆に鵺は五秒で俺と流架を殺せるだろう。


「正攻法じゃ無理くせーぞ。流架、何かいい戦術、ないのか?」

「再生能力はどうにかできると思います。でも今の状況だと、アバターの身体能力と鵺の身体能力に差があり過ぎです。丸井先生の言うように、病魔をたくさん倒して、強化を図るしかないと思います」

「やっぱ地道にやるしかねーか」


 初菜のビンタを思い出す。頬に痛みが蘇りそうだ。


「流架君が五百連勝したら、一回、挑戦してみよう」


 方針が決まった。


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