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電脳戦場の白血病魔  作者: 仙葉康大
第二章 ゲーム少年
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第十話 「リベンジマッチ」

「夕食の時間ですよ」


 看護師の声がした。ヘルメットを取ると、目の前に病院食があった。


「適度に休憩してください。いいですか?」


 俺はうなずいて、看護師が出て行くのを見届けると、ヘルメットをかぶり直した。連勝記録を確認すると、八十を超えていた。俺はいつの間にか、アマチュアからプロの戦闘医になっていたのだ。メールボックスを確認すると、戦闘医師会から通知が届いていた。どうでもいいので、読み飛ばす。


 Bランクの病魔と戦うには、最低五十連勝は必要と初菜は言った。充分、条件は満たしているだろう。俺は掲示板で患者を探し、リベンジマッチをとりつけた。


 鎌鼬が出現したとき、俺にはおしゃべりする余裕があった。


「よお。会いたかったぜ」


 鎌鼬が高くジャンプしたのが見えた。空中でもジャンプを繰り返し、縦横無尽にフィールドを翔ける。鎌鼬の輪郭がぶれるが、目で追えない速さじゃない。それに、最悪、目で追わなくてもいいのだ。耳で聞けばいい。


 風の音がした。


 後ろ。俺は体を捻りながら、鉄バットをスイングする。鎌鼬は両手の鎌でガードしたが、俺のバットはガードごと鎌鼬を吹っ飛ばす。地面を蹴って、追撃する。が、鎌鼬はすでに伸びていた。


 You Winの文字が空中に浮かんだ。


 鎌鼬はまんじゅうを二つ落とした。色は青と緑。一度に複数まんじゅうを落とす病魔は初めてだ。俺は手を合わせてから、二つのまんじゅうを交互に頬張った。


 アバターがまんじゅうを食べても、当然、俺の腹は満たされない。俺は急に空腹を感じ始めて、ヘルメットを脱ぎ、目の前の食事にありついた。味の薄い病院食が妙においしい。まったく、人間てのは単純だ。


 食事の後、俺は隣室へ出向いた。初菜に礼を言わねばならないだろう。いざ面と向かって言おうとすると、気恥ずかしいぜ。でも、メールで言うのは、違うよな。


 ノックすると、初菜が出てきた。猫の足跡が模様になっているパジャマを着ている。顔はいつも通り、肌が白くて、目と髪が夜みたいに黒い。


「何?」

「動画、見たぜ」

「だから何?」


 俺は頭の後ろを掻く。ええい。言ってしまえ。


「お前のおかげで鎌鼬に勝てた。ありがとよ」


 初菜が若干、目線を下げた。頬の色が白から薄いピンク色に変わっていく。

俺は顎を上げて、初菜を見下ろしていた。逃げたいときほど、強気な姿勢をとるべきだ。ハッタリは喧嘩の基本だ。


「メロンパン」


 初菜が呟いた。


「は?」

「メロンパン。今度でいいから買ってきて」


 それだけ言うと、初菜は戸を閉めた。

「わーったよ」


 戸を一枚隔てたその先に俺は叫び、自分の病室に帰った。そう言えば、初めて初菜に会った時もメロンパンを食っていた。好きなのか。


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